天馬
ザッザッザッザッ…。
聖騎士軍は綺麗に並んで進んでいる、もう少し、あと少し…。
「ティオ!」
「マヴロス・モケータッ!」
フォーーーン。
「な、なんだ!?」
「これは闇魔法か!?」
「なんて範囲だ!」
「術者が見当たらないぞ!」
「探知魔法でもわからんぞ!」
「どうなっている!?」
「ぐ、力が…!」
よし、聖騎士達は混乱して陣形を崩した。この機を見逃すまいと俺、ゼリウス、メティは『遮る部屋』から飛び出して一斉に魔法を放った。
「シャイニングスラッシュッ!」 バシュンッ!!
「連射式大玉っ!」 ボゴゴゴゴッ…!
「アネモス・メガロスドゥレパーニッ!」 ドシュッ!!
「敵襲だっ…」
「ぐああ〜っ!!」
「ぎゃあああっ!!」
殺意を込めて放った俺達の魔法は兵を次々に戦闘不能にした。
やはりこいつら1人1人が並みの兵士より強い、ゆえに不意打ちでティオの闇魔法で軍全体に錯乱を招き、身体機能を低下させる作戦は成功だ。
「貴様ら何をしている!落ち着いて陣形を正さんか!」
後ろの方から声を荒らげながら現れたのは中肉中背の中年男性だった。真っ白な軍服の様な格好…あいつ、魔王城で戦った聖騎士と服装が似ている。しかも闇魔法が殆ど効いていない…やはり『ファイブマスター』とやらか。
「ええい全員この闇魔法の範囲外まで引けっ!」
奴の一喝で動ける兵士達は返事をして慌てて下がっていった。
「寄せ集めの軍など相手にならんと思っていたが…情報に無い戦力に待ち伏せを受けるとはな。しかしただの雇われ兵ではない…かなりの手練れ、貴様ら一体何者だ?」
「答える気はない」
「そうか。ならば3人始末して残りの1人に聞くとしよう」
…まあ気付くよな。だがティオの居る位置までは分からないはずだ。
魔力の無駄だと判断したであろうティオは展開していた『闇の絨毯』を解いた。
相手の聖騎士は鍔が十字の直剣を抜いて構えた。
「貴様らはこの五ツ星の遂行者の1人、オレヴィ・ボストレームの手によって裁かれるのだっ!」
「メティ、ゼリウスやるぞ」
「はい!」
「ああ!」
ダンッ!
取り囲む様に俺達は移動した。
「やっ!」 バシュンッ! キィーーンッ!
「はっ!」 ギャリンッ!
「エンチャント・シャイニングソードッ!」
「ホワイトフレアー!」 ゴォォウッ!
「くっ…!」
「熱っ…」
メティの矢は弾かれ俺の一振りは受け流されゼリウスの付与魔法剣が当たる前に白い炎が壁を作り俺達は退けられた。あれは聖炎魔法、ファイブマスターってのは全員使えるのか?
「光の属性魔法など偽りのもの。聖なる炎で浄化してやろう!エンチャント・ホーリーフレイム」
ボォウ!
奴の剣に白い炎が付与された。イヴの話では聖炎魔法は炎と光の属性魔法を合わせた様なものらしい。アンデッドに特化した火炎魔法みたいなものだから俺達にとっては通常の火炎魔法と大差ないということだ。ただし使い手の魔力と魔法技術がずば抜けているから強力な魔術を使用してくるので決して侮れない…。もちろんこの情報は仲間と共有済みだ。
「エンチャント・ハードエッジ!」
「む、なんだその…」
「はあっ!」 ガキィィンッ!!
「はっ!」 ギャリィィンッ!!
「アネモス・レピーダッ!」 バシュシュッ!
「ぬん!」 ザシュッ!
俺とゼリウスの武器に無属性の刃を付与して斬り掛かったが捌かれ、メティの魔法も容易く打ち消した。創造魔法で間合いを狂わせるつもりだったが…やはりかなりの実力者か。
「容赦の無い悪どもめ、覚悟しろ!」
「ッ!?」 ガァキィィィン!!
「ぐっ…おおおっ!」 ギィィンッ!!
「ほう、小癪な!」
ガァギィィンッ!! 「ぐくっ…!」
ゼリウスがねばっている間に隙を突く!
「物干し竿!」
ブシュッ! 「ぬっ!?」
「アネモス・ヴェロス!」 パシュシュシュッ!
キィキィンッ! ザシュ…!
「ちいっ」
ダァンッ!
俺が『物干し竿』で聖騎士の死角から一太刀入れ、メティの疾風の矢が一本命中した。
距離を取って血を流している奴の表情は怒りに満ち満ちている。
「おのれ、人の皮を被った悪魔どもめ!」
バッ! ヴゥンッ。
「なんだっ!?」
奴が掲げた手の先に巨大な魔法陣が現れた。そして下がっていた兵士達が突然数十名倒れ、複数の霊気の塊が魔法陣に吸い込まれていった。
「ミウ!これはおそらく召喚魔法です!」
「召喚…?」
「ふん、さすがエルフだな。さあ悪を滅ぼす聖獣よ、ここに姿を現すのだ!」
「聖獣だと?」
ゴゴゴゴゴゴ……!
大地と空間が揺れ、魔法陣から白い何かが勢いよく飛び出した。
バサァッ! 「ヒヒィーーンッ!!」
「なんだあれはっ!?」
「翼の生えた巨大な馬…?」
「メティ君も知らないのかい」
「はい…初めて見ました」
「魔物なのか」
「いえ、魔物とは少し違う気がします…なんというか、神聖な魔力を放っています」
「くくく、さすがにエルフでも知らないようだな。それはこの聖獣を見て生き残った者はいないからだ!いけい天馬ペガソスよ!」
「ヒヒィーンッ!」 ブオォォォーーーッ!!
「メガロス・シーフナス!」 ゴォォォーーッ!!
「なんて風圧…風の属性魔法を操るようですが、私とは桁違いです!」
確かに凄まじい嵐風魔法だ、それに加えてあの飛行速度、そして…
ガギィィィンッッ!! 「ぐあっ…!」
「ゼリウス!」
あの蹄による一撃、まともに喰らえばただじゃ済まない。
バシュシュッ!
「っ!?ならば…アネモス・ヴェロス!」
ヒュン…。
身体に嵐風を纏っているのか!?メティの矢と魔法が届かない、俺の射出系の魔法も効かなそうだな。
「メティ君!」
ガァキィィーンッ!! 「うああっ!」
「ゼリウスッ!」
急降下してペガソスはメティを狙ったが庇う様にゼリウスが盾で防いだ。
「ちぃ、連射式尖粒っ!」 バシュシュシュシュ…!!
「ふはははっ!無駄だ、ペガソスの嵐風の衣は鉄壁、蹄の一撃は容易く頭蓋を粉砕する!」
「ふっ、なるほどな」
「ミウ…?」




