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感謝


「ミウ、私達はいつ出発しますか」

「先ずは1日使って体を休ませる。その間に準備を済ませてから出発だ」

「わかった。ヤビ達には謝らないとね」

「あ、鍛錬」

「そうでしたね」

「あの子らには我から言っておく」

「いや、こういうことは自分で言う」

「…わかったわ」

「ミウの直刀は間に合わないですよね」

「確か10日だったか。さすがに諦めるべきだろうな」

「それなんだけど、実はウズミに言ってあるのよ。きっと楽しみにしてるだろうから少しでも早く完成させてほしいって」

「えっ、そうなんですか」

「カリンも手伝っているし、後で進捗状況を見てくれば」

「ありがとなジュギ。そうするよ」


そうして俺達は先ずはゆっくり休むことにした。


それにしても次は冒険じゃなくて戦争…なんだよな。

冒険者として生きてきてまさか戦場に出向くとは…まずい、なんだか不安になってきた。


「ウッ、ミウッ!」

「あ、ああ。すまないメティ」

「どうかしたんですか?」

「いや、大したことじゃ…」

「ミウ、それは水くさいじゃないか」

「うん。ティオ達は仲間」

「そうですよっ」


3人は求める様にじーっと俺を見た。


「わかった。あとでゆっくり話すよ。取り敢えず鍛冶屋に行こう」

「わかりました」

「わかったよ」

「うん」


鍛冶屋につき、中に入ると人の気配が感じなかった。


「…いませんね」


「すいませーんっ!」


ゼリウスの一声で奥の方から駆け足が聞こえてきた。


「いらっしゃい…ああっ、君達か。戻ったんだね」

「ああ。ところで刀の方はどうだ?」

「族長に発破をかけられてね、明後日には出来上がる予定さ。ちなみに竜革の鎧の修復はもう済んでるよ」

「なっ…明後日!?それに鎧も仕上がってるなんて凄いな」

「まあカリンもいるからね」

「カリン君はずっと手伝いを?」

「そうだよ。族長に急かされてからは寝る間も惜しんで作業してくれてる。無理するなと言ったんだが…なんでも君達に借りを返したいとか」

「借り…か」


ティオに目をやると複雑な表情をしていたので、俺は人差し指でムニッと頬を突いた。


ティオは驚いて俺を見たあと、俺の意図を察した様に笑みを浮かべた。


「ありがとミウ」

「ああ…」


「ミウ、私にも」


そう言ってメティは頬を差し出す様に顔を近付けてきたのでティオにやった様にムニッと頬を突いた。


満足そうに笑うと思いきや、メティは俺の目を真っ直ぐに見つめてきた…潤んだ瞳で何かを望む様に。


「ミウ、今夜は僕が部屋を独り占めするよ」

「ゼリウス?」

「3人で寝たらどうだい」

「あ…すまない。2人とも構わないか?」

「はいっ!ゼリウス、感謝します」

「ティオも。ありがとゼリウス」

「はははっ、どういたしまして」


それから俺達は鍛冶場に通してもらい、カリンと会った。


「助かるよカリン、ありがとな。だが無理はするなよ」

「う、うん…ほどほどに頑張る…よ」

「ん?」

「あっ、いや、やっぱり優しいなって」

「…そうでもないさ」

「そうなの…?」

「ああ。人に優しくできる人間でいたいと思って生きているだけ…」

「それが優しさ。ミウの魅力」

「うん、そうだね」

「ミウは優しいです。素直に認めてください」

「あ、ああ。認めるよ」


3人そろってやめてほしい、そういう風に言われたら照れるだろ。


「ミウ、照れてる」

「本当ですねっ」

「はははっ」

「お前ら…」


言いかけてから俺は呆れて笑い、続いて3人も笑った。


「まったく、あなた達ね…戦を前に随分と能天気で心配になるわ」

「でもっ、ああいうのちょっと羨ましい…かも」


呆れ果てる様に言ったジュギはカリンの一言で溜め息を吐いたが口角は上がっていた。


「…そうね」


それから俺達は館の浴場で身体を洗い、風呂に浸かった後広間で夕食を摂った。


食事にはジュギは勿論、ヤビやニワビやエンカも来た。


事情を説明し、鍛錬に付き合えない旨を伝えると3人は少し残念そうにしていたがそれよりも俺達がメネーニに向かうことに驚いていた。


「相手は聖騎士だ、生きて帰れないかもしれないんだぞ!」

「聖騎士には借りがある。それにジュギが困ってたしな」

「ミウ、どうしてそこまでするの?」

「愚問だぞエンカ。俺達はもう他人じゃない」

「…そうね」

「ふふっ、本当にお前は変わった人間だな」

「お頭っ!?」

「なに?」

「いやっ、そのっ…」

「ジュギちゃ…お頭は普段あんまり笑わないからねー。そりゃみんな驚くよん」

「ふん、我だって人よ。おかしければ笑うわ」

「し、失礼致しました」

「気にしないでヤビ」

「はいっ」


「なんだか和やかですね」


ふいにメティが耳打ちしてきた。


「そうだな」


「種族の壁、ここには無い」

「ティオ君の言う通りだね」

「素晴らしいことですね」


食事を終え、ひとまず部屋に集まった。


「さあミウ、話してもらおうか」

「うんっ」

「お願いします」

「ああ。俺達は冒険者だろ、それが戦場に赴く。同じ人間を相手に武術や魔術を振るう…なんというか、経験がないから少し不安になってな」

「それは僕も同じだよ」

「私もです」

「ティオも」

「ふう、覚悟を決めないとな…死なないためにも」

「うん、中途半端は命取り」

「今こそあの言葉じゃないのかい」

「そうですね」


俺達は顔を見合わせてから手の甲を重ねて一斉に発した。


「油断も容赦もなしっ」


戦場に出ればそこは修羅場だ、苛烈を極めるだろう…それでも俺は立ち向かえる気がする、俺には信頼できる仲間達がいるのだから。


その後、ティオを残して2人は部屋から出て行った。

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