決心
「おかえり。全員無事みたいで安心したわ」
「ただいまー!凄かったよジュギちゃ…」
「んんっ!」
「あ、すいません。お頭」
「ヒズエ、凄かっただけじゃわからないわよ」
「私が説明します」
「よろしく」
メティがジュギに時間をかけて『鬼神の斎庭』で見た物と体験した事を詳しく話した。
「鬼神様の従魔に元鬼人族の人型魔物…信じられない、我もこの目で見てみたかった」
「んー、お頭じゃ迷宮入ってもすぐにやられちゃ…」
「んんっ!」
「あはは、すいません」
「ともあれあなた達に依頼して正解だった、改めて礼を言わせてもらうわ。それと報酬を受け取ってほしいんだけど、何か要望はあるかしら」
「ミウくん」
「ああ。ジュギ、報酬として『鬼門』を使わせてほしい」
「鬼門を…?」
「鬼門がどんな物なのか教えてくれとは言わない。ただ急ぎで長距離を移動したいんだ」
「…いいわ。ただし条件つきよ」
「言ってくれ」
「1つ、回数は往復で一度だけ。2つ、使用人数は2人まで。あとは場所によっては行けないことを知っておいて」
「わかった。その内容で問題ない」
「そう。それで場所はどこなの?」
「商都レムイノ近くの『ブォモル平原』だ」
「え、そこってミウちゃんがエンカちゃん達とやり合った所だよね?」
「ああ。今は仲間達の生活拠点になっているんだ」
「ふぅん、そうだったのね」
「その場へ急ぎたい理由を聞いても構わないかしら」
「俺達のいた大陸、『ユリオン』から伝令役の仲間達が来るんだ。できるだけ早く会って現状を報告したい」
「なるほどそういうことね」
「1日休んだら出発したいんだが可能か?」
「ええ。あなたも行くのねミウ」
「うん、行くのはミウくんとウチだよ〜」
そう、エウルら4人がイヴ達に俺達の近況を報告して再びブォモル平原にやってくる。『鬼門』を使って移動すればエウル達を持たせずに済む。そしてその役目は『ユリオン』の人間である俺とミミルが担うのは当然だ。それにマリカと『創造士の眷属』が元気にやってるか見れるのは有り難い。
「はぁ…」
「…」
「なるほどね。エルフのお嬢さん達が消沈してるのはそういうことだったからなのね」
「いつ戻るかわからないからね〜」
「そうだな。転送石さえ使えれば…」
「お頭っ!」
勢いよく戸が開き、血相を変えたトウスイが部屋に入って来た。
「どうしたの」
「聖騎士が動き出しました」
「えっ!?」
「なんだと」
「まさか小国を?」
「その通りです。しかも『メネーニ』を攻めるようです」
「くっ…よりによってメネーニをっ」
「鬼人族は外界と関係を絶っているんだろう、そのメネーニって国が攻められると何かまずいのかい?」
「メネーニがどんな国か知っているか」
「確か商業活動が活発な国ですよね」
「そうよ。我らはこの里で手に入らない物品を定期的にメネーニで購入しているの。あの国の交易都市は規模が小さく常駐兵も少ないゆえに軽度の変装で済むから利用しやすいのよ」
「なるほど、だから聖騎士に乗っ取られると困る訳だな」
「…我らの勝手な都合だけど、あの交易都市にはだいぶ世話になっているのよ。扱う品の質は良いし、我らの正体を知らぬとは言え民は皆心優しい…失うには大きい国だわ」
「では聖騎士と戦うのですか?」
「それは難しいわ。わかるでしょう?」
「うん、鬼人族が表に出れば混乱を招き確実に聖騎士は狙ってくる。隠れ里にも手が伸びる可能性もある」
「ゼリウスが言っていた小国同士の同盟によって設立された連合軍は動いてくれるのでしょうか?」
「動くと思うけど…」
「勝ちの目はなさそうだね。恐らく相手はかなり訓練された強大な軍隊、寄せ集めの連合軍では勝つのは難しいと思うよ」
「聖なる騎士が略奪を働く、か。聖騎士達はどれくらいで着くんだ?」
「トウスイ」
「あの数での移動…早くても5日はかかるはずです」
「…そうか」
「ねえミウくん」
「ミウっ」
気付くと4人が何かを訴える様な目で俺を見ていた。
「元々俺とミミルは聖騎士に会いに『フレリオル』に来たようなものだからな」
「そうだね〜」
「ちょっと待って、まさかあなた達っ…」
「ああ。俺達『女神の聖槍』は連合軍と共に聖騎士と戦う」
「あなた達は強い、でもたった5人の援軍で勝てる戦争じゃないわよ」
「誰が5人だと言った」
「え?」
「ミミル、迷宮帰りで辛いと思うが…」
「わかってるって。任せてよ相棒〜」
「悪いな相棒。ジュギ、今すぐに鬼門を使わせてほしい」
「…わかったわ。トウスイ、お願い」
「はい」
「ミミル、気をつけて」
「ありがとティオちゃん」
「俺達は準備が完了したら一足先にメネーニに行くつもりだ」
「ちゃんと休憩しなよ〜?」
「もちろんだ。ミミルもエウル達と会うまでの待機時間にゆっくり休めよ」
「りょーかい。それじゃあメネーニでね」
そう言ってミミルはトウスイと部屋を出て行った。




