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人徳


ザッ!


ガァキィンンッッ!!


「ぐくっ…!」


「やああっ!」


ギィィンッ! 「ぬうっ」


「ちぃっ」


なんて速さの初撃…でも勇者くんが盾でしっかり防ぎ、その瞬間を狙って全力で突いたけど防がれた。


「いやはや、仕留められぬ上に一突きされるとは。これは恥じるべきか」


奴には余裕が感じられる…まだ本気じゃない。


キンッ…。


「!?」


大太刀を鞘に納めた?何のつもり…


「お主ら2人の力はわかった。仲間達も同様にな」


「えっ?」


ズズゥーンッ。


後方で大きな音がして地響きが伝わってきた。


振り向くと巨大な魔物の頭部をミウくんが貫いていた。


「まさかレンマドウジを討ち取るとは」守人はその場に座り込み、腕を組んだ。


ーーーーーーーーーー


レンマドウジを倒した俺達は直ぐにミミルとゼリウスの元へ向かった。


「座ってる…」

「どういう状況ですか」

「え~っと…」


「わしに与えられた使命は『力の無い者は斬り捨てろ』だ。お主らは力を示した、もはや剣を交える理由はない。さて、改めて問うがなぜここに来た。道中は過酷だったはず」


強者と認めたら戦うのを止めるのか…?


「ヒズエ」

「うん。その答えも込みで話があるんだけどいいかな」


「なんだ?」


ヒズエはジュギの俺達への依頼内容を伝えた。


「なるほど、魔物が外へ出てしまっていたのか。気付かなかったとは言え悪いことをしたな、済まなかった」


「あのう、あなたは鬼人族ですか?魔物よりも人に近い部分が多いので」


「…そうだな。わしはれっきとした魔の者だ…ただし元々はそこの小娘と同じ鬼人族、それが答えだ」


「えぇっ!?」

「そうなのっ!?」


「この場所を守るためか」


「ほう、鋭いな小僧。その通り、魔物になれば討伐されない限り寿命は尽きないからな…。その代わり人だった頃の記憶はほとんど失ってしまった。己の名前さえも」


「そんな、自分の名前も…」

「鬼神とやらとはどんな関係だったんだ?」


「主従関係、だったと思う」


「そうか」


「ねえねえ、魔物のことだけど」


「ああ、迷宮から溢れないよう数が増えたらその都度減らし続けよう。まあお主らに随分と葬られてしまった様だがな」


そう言って守人はガッハッハと笑った。


「じゃあジュギちゃんに報告しないとね」

「そうですね」


「あの、レンマドウジのことだけど…」


「案ずるな。あやつは鬼神様の元へ旅立つことを望んでいた、わしとしてはお主らに礼を言いたいくらいだ」


「でも、あなたは…」


「ダークエルフの娘、お主は心優しいな。だがわしには『孤独』という感情すら忘却対象だ…心配する必要はない」


「…そう」


「さあそろそろ帰れ。もう会うことはないだろう…」

「なあ、最後に1つ頼みたいんだが」

「なんだ?」

「俺と本気の手合わせをしてくれ」

「手合わせ…だと?」

「ああ。頼む」

「ふっ、魔物を相手に手合わせを乞うとは…変わった小僧だな。いいだろう、受けて立つ」


皆を下がらせて俺は剣を抜いて守人と対峙した。


「はっ!」 ガキィィンッ!!ガガガッ!!


「ぬうっ!」 ガァァンッ!! 「ぐっ」


こいつ、ノアイリムに近いほどの実力だ。俺の剣を軽々と捌き、凄まじい打ち込みを繰り出してくる。


ガァキンッ! 「うっ…!」


まずい、防御を崩された。


「物干し竿!」 ギィィーンッ!


「ぬっ!?」


「はあっ!」 キィーーンッ!


お互いに跳んで距離を取った。


「小僧、なんだそれは」

「いま言葉は必要か?」


「ふっ、これは失礼した。全くもってその通り!」

「うおおっ!」


その後激しい攻防が続いたがやはり剣術では敵わなく、俺は徐々に圧され始めた。


ギィァーンッ!


ズザザッ。


「はぁ、はぁ、はぁ…」

「ふう…仕舞いにするか」


そう言って守人は大太刀を納めた。その時の表情はどこか清々しく見えた。


「いい手合わせだった、礼を云うぞ小僧」

「こちらこそ感謝する。あんたの剣、参考になったよ」


俺が握手を求めると、守人は口角を上げてから手を差し出したが途中で止めて両手を上げた。


「やめておこう」

「…そうか」

「さあ行け、魔法陣は解除されている。お主らが出るまで迷宮内の魔物は抑えておこう」

「助かるよ。いくぞ」

「はい」

「うん」

「りょーかい」

「ああ」

「ほーい」


返事をして5人は出口に向かって歩き出した。


「次に会う時は拒むなよ」

「なにっ…」

「じゃあな」

「待て。名を聞いていなかったな」

「創造士ミウ」

「…覚えておこう。それと餞別だ」

「これは…?」

「わしが人の頃、身に付けていた物だ。今はもうそれが何なのか、どうやって入手したのか、なぜ身に付けていたのかすら思い出せん…わしの代わりに持っていてくれ」

「…わかった。ありがとな」


そう言って俺は守人に背を向け、皆の元へ足早に向かった。


「あの方は本当に魔物だったのでしょうか?」

「確かに…迷宮の主である魔物と和解なんて未だに信じ難いよ」

「ティオもそう思う」

「ボクもだよ。ジュギちゃんなんて言うかなー」

「う~ん…ミウくんはどう思う?」

「あいつはいい奴だった。それだけで充分だ」

「ふふっ、そうですね」

「うん」

「ミウくんらしいね〜」

「そうだね」

「ミウちゃんは種族とか気にしないもんね」

「ああ」


俺はルムリスとレリスと出会った直後に差別と偏見を目の当たりにしたことを思い出した。今も変わらない…どうしょうもないくらいに下らない事だと思っている。


「あらら、どうしたのミウちゃん」

「いや、なんでもない」


そうして俺達6人は『鬼神の斎庭』の出口に向かって歩き続けた。


「ここが一層目の主の部屋だから外はもうすぐだね〜」

「いやぁ、魔物がいないとこれほど順調に進めるんだね」

「迷宮内を把握してるヒズエの存在も大きいな」

「うん」

「まあ3階層だけどね」

「それでも充分だよ〜。ウチら逸れた時大変だったんだから」

「その通りだよ。ヒズエ君の案内がどれほどありがたいことか身に沁みたよ」

「そういう訳だから謙遜なんてしないで胸を張ってくれヒズエ」

「そうですよ」

「ティオもそう思う 」

「そ、そっか…ありがとねんっ」


ヒズエは照れながらもにっと笑ってみせた。


それから歩き続け、ようやく鬼人族の隠れ里に戻って来た。


「帰ったー!」

「ジュギさんに報告しに行きましょう」

「そうだな」


俺達は真っ直ぐ族長の館に行き、中に入れてもらって広間で待たされた。

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