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邂逅


「そういえば神国って誰でも入国できるの?」

「それは問題ないよ。ただ『神都オルメノス』に入るのは難しいかもね」

「そうなんですか?」

「うん…」

「もしかして、ティオがダークエルフだから?」

「言いにくいけどその通りだよ」

「まあ相性悪そうだもんね〜」

「ごめん…」

「ティオちゃんは何も悪くないよ」

「ミミルの言う通りだ、謝る必要はない」

「そうだよティオくん。それに今は種族関係なしに厳しく取り締まっていそうだしね」

「戦の準備、でしたっけ」

「ああ。出発前にミモーネに聞いたんだけど、近いうちにエリシオンは国取りをするつもりかもしれないって」

「国取り…?」

「おそらく神国に隣した小さな国を取り込むつもりなんじゃないかな」

「どうしてそんなことを」

「鉱山や森林や水源を有してる国が幾つもあるからね」

「なるほどな、資源を奪って自分の国を潤わせる気か」


しくじったな、この情報をエウル達にも知らせておきたかった。


「それって武力による略奪じゃん」

「ひどい」

「ですね」

「だからこそ今、打倒神国同士で同盟を結んでいるそうだよ」

「そうなんだ!勝てるの?」

「現状では厳しいかな。リオンクライ、エリシオンに次ぐ三大国家の一つ『スティアレ共和国』が動けば勝てる可能性はあると思うけど」

「共和国って?」

「確か君主のいない国です。スティアレ共和国は数年に一度選挙を行って国民から代表を選ぶ…と昔読んだ本に書いてありました」

「へぇ〜、面白いね」

「どんな国なんだ?」

「正直言うと僕もよく知らないんだ。ただ三大国家の一つに数えらてるくらいだから軍事力は強いと思うよ」

「なるほどな」

「リオンクライも打倒神国に賛成してるの?」

「いや、リオンクライは中立なんだ。どちら側にもつかないんじゃないかな」

「ふ〜ん、小国がどうなろうと関係ないってことか〜」

「…そうなるね」

「あ、ごめん。勇者くんの祖国だよね」

「気にしないでくれ。僕もリオンクライには動いてほしいと思ってるからね」

「勇者くんが王様になればいいじゃん」

「えぇっ!?」

「うふふ、そうですね。きっとよい国になりますよ」

「うん」

「メティくんとティオくんまで…王だなんて僕には荷が重いよ」

「そうか?俺もゼリウスなら…」


「ミウっ」

「…わかってる」

「数は20前後」

「あれはワイバーンの群れですね、どうしますか」

「確か雷撃に耐性ないんだよね?」

「はい」

「ミミルに任せよう。討ち漏らしは俺達で片付けるぞ」

「わかった」

「はいっ」

「うん」

「よーし!」


ズズズズズズ…!


ミミルが魔力を高めるとワイバーンの群れは一斉に向かって来た。


「速すぎる」

「間に合わないよ〜」

「ティオが遅らせる、マヴロス・コウティーナ!」


ヴゥン…!


空中に黒い魔力のカーテンの様な物が現れ、そこを通ったワイバーン達はバランスを崩し混乱して陣形を乱した。あれは形状こそ違うが前にブルータルウルフ達に使用した闇と重力魔法を組み合わせたものだな。


バチバチバチッ…!!


「いくよ〜サンダーボルトフィールドッ!」


バリバリバリバリッ!!


「ギャウァァァ〜ッ!!」


広範囲に雷撃を放ち、ワイバーン達は黒焦げになって落下した。


「3匹避けました!アネモス・ドゥレパーニッ!」 ザァンッ!

「回転式大杭っ!」 ドシュッ!

「シャイニングスラッシュッ!」 バシュンッ!!


俺達はメティの掛け声で討ち漏らした3匹を迅速に始末した。


「ごめん〜」

「気にするな」

「そうですよ」

「あの数を一度に落としたんだ、充分だよ」

「ティオもそう思う、ミミルの魔法は広範囲かつ強力」

「えへへ、みんなありがとね」

「ゼリウス、今の魔法は」

「ああ、僕はほぼ付与魔法しか扱えなかったからね…対空手段として放出系の魔法を1つでも持っておきたくてどうにか会得したんだよ」

「光の斬撃波、速くて強力だった」

「魔術の達人に褒められるとは光栄だよ」

「達人…ゼリウスは大げさ」


そう冷静に返しつつティオは少し照れた様子だった。普通に可愛い。


「それにしてもいきなりワイバーンの群れか」

「さすがに出てくる魔物が手強いですね」

「そうだね、よりいっそう警戒して進まないと」

「負傷はなくても魔力と体力は必ず消費するからね〜」

「ここからは戦闘後は早めに野営の設立をして休みながら行こう」

「りょーかい」

「はい」

「わかった」

「うん」


それから数日が過ぎ、見晴らしの良い草原に囲まれた街道を歩いていると不意にティオが空を指した。


「…赤い」

「ほんとだ、なんか不気味だね〜」

「確かにいい眺めとは言えませんね」

「そうだな…。そろそろ野営の準備をするか」

「そうだね」


俺達は赤みを帯びた満月を見上げていた。ここは遮蔽物が無く、今日は月が明るかったので遅くまで歩いているが無理は禁物だ、進むのはここまでだな…ん?向こうから人が歩いて来る。


「…」


女性か、どことなく似ているな…


ガァキィーンッッ!! 「ぐくっ!」


何が起きた…?咄嗟に『盾』で防いだが視認できない程の速さで何かが向かって…これは!


ドササッ。


「メティ!」

「勇者くん!」


振り返ると膝を着いたメティとゼリウスの腹部には見慣れた朱い刃が深々と突き刺さっていた。


「ぐぅ…」

「ごふっ…」

「すぐに治癒魔法をっ…」


ゾクッ…!!


尋常じゃない禍々しく殺意のこもった気配でティオは動きを止めた。ミミルもゼリウスを支えたまま固まっている。これは……手が震えている。思い切り拳を握り、再び前を向くと女性は無表情で俺達を見ていた。


冷たい汗が首筋を伝った…こんな奴から目を逸らすなんて、何やってるんだ俺は。


そしてやはり雰囲気が似ている、イヴカロンに。

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