褒美
「ではミウ、お願いします」
「ティオもお願い」
急に恥じらいながらも真剣な眼差しで言われ、不覚にも俺は動揺してしまった。
「なっ…いや待て、抱くっていってもどこでだ。この町に宿はないんだ…」
「ミウくん、防音魔法使えるでしょ〜」
「防音?」
「あ、ああ、ドーム状の範囲内の音を遮断する魔法だ」
「なるほど…それは使えますね」
「うん。少し離れた所で野営しよ」
おいおい、こんなにお盛んだったかこの2人…まあもちろん俺は嬉しいけど流れが急過ぎて…と言うかミミルがあんなことを口にしなければこんな流れにはならなかったんだがな。
そう思ってミミルを見ると親指を立ててニッと笑った。まったく、やってくれるな相棒。
「じゃあ勇者くんに言ってくるね〜」
「おいミミルッ…」
「わかってるって、マリカちゃんには言わないよ〜」
「当たり前ですっ」
「こわいよメティちゃ〜ん」
その夜、町の外の岩陰に天幕を張って寝床を設えた。少し冷えるので焚き火で大きめの石を焼き、天幕の中に置いて暖めておいた。
「暖かいですね」
「そうだな」
「これ、身体が温まるハーブティーです」
「ありがとう、いい香りだな」
「はい」
メティは外套を外して薄着になった。相変わらず白くて美麗な肌と身体つきで早速スイッチが入ってしまった。
「本音を言うとミミルには感謝しています。その…ミウに抱いてほしいこと…我慢していたので」
メティは恥ずかしそうに肩を揺らしながら俺の目を見た。これはもう駄目だ。
「そうか、俺は今我慢している」
「え、今って…きゃっ」
力任せに抱き抱えてメティを寝床に運んだ。
キスしながら寝かせ、彼女の火照った恍惚的な表情を目にして俺の理性は吹き飛んだ。
交代の時間まで俺達は肌を密着させたままくつろいで過ごした。ハーブティーの効果なのか身体がぽかぽかして心地好い。
「では」
「ああ、しっかり睡眠をとってくれ」
「はい…」
「どうした?」
メティは胸に手を当てて言った。
「抱かれるたびに思うんです…愛していると」
「…そうか」
俺は立ち上がってメティを抱き寄せキスをした。
「俺も同じ気持ちだよ」
「はい…嬉しいです」
メティが去った後、冷えてしまった石を再び焚き火で熱しメティが持ってきてくれたハーブティーを淹れてから横になってティオを待った。
「んぐっ」
口づけをされて目が覚めた。
どうやら俺は眠っていた様だ。
目を開けると頬を紅潮させ蕩けた様な表情をしたティオが横たわる俺に覆い被さっていた。
「すまない、寝てしまっ…」
「ミウッ」
言葉を遮ってティオは抱き着いてきた。そこで彼女の息が若干荒くなってることに気がついた。
「ティオ?」
「この天幕の中、催淫効果のある匂いが充満している」
「そう…なのか?」
「うん」
俺にはよく分からないが、ティオの様子からして嘘ではない。
「ミウ、早く抱いてほしい…」
か、かわいい。ティオのねだる様な口調でまたもや俺の理性は吹き飛んだ。
1回戦が終わり、添い寝してるティオを見ながら本能のままに抱いてしまったことを今更ながら後悔し不安になった。
「痛かったり恐かったりしなかったか?」
「しなかった、その…むしろよかった」
ティオはそう言って照れ隠しする様に顔を埋めてきた。可愛い過ぎる、そしてどうしようもなく愛おしい。
「ティオ、愛してる」
耳元で囁くとティオは顔を上げて驚きと喜びが混じった様な表情をし、涙目になりながら「ティオも」と言って目を閉じて唇を差し出した。俺は躊躇いなくその唇を奪い、そのまま2回戦目に突入して俺はヘトヘトになって朝までぐっすり眠ってしまった。
目を覚ますとティオの姿はなく、先に戻ると書かれたメモが置いてあった。
そうだ、マリカの家の見張りか。俺だけ楽してしまった…まずいな、これは埋め合わせしないと。
俺は急いで天幕と寝床を片付けて岩陰に荷物を隠してから近くの森に入っていった。
それから慎重に森の中を移動し、獲物を見つけ次第『狙撃式粒』で仕留めまくった。
カモシカに大兎、更に川を見つけて立派な淡水魚を数匹手に入れた。
獲物は『刃』で直ぐに血抜きして解体したので鮮度のいいうちに戻ることにした。
俺は隠しておいた荷物を回収し、食材と一緒に担いで急いでマリカの家を目指した。
「なっ、ミウくん!?」
「どうしたんですかその姿はっ」
「ミウ兄こわい!」
「えっ…?」
「とにかく湯浴みしてきてください!」
そう言ってメティは家の中に拭き布と着替えを取りに入った。
「ほら」
ゼリウスが手鏡で俺を写した。
これは…顔と服が血だらけだ。血の臭いが酷くて途中から鼻が麻痺して忘れていた。そういえば血抜きや解体してる際、返り血をたっぷり浴びたっけな。
それよりマリカを恐がらせてしまった…なんてことだ、一刻も早く身を清めよう。
食材と荷物をゼリウス達に渡し、メティから拭き布と着替えを受け取って家の裏手に回った。
川から汲んで置いてある水を沸かし、布を浸して顔を中心に念入りに全身を拭いた。
「ミウ」
「ティオか」
「どうしてあんなに食材を獲ってきたの」
「仲間に見張らせて自分は寝てたからな」
「償いってこと?」
「そんなところだ」
「…」
「どうした」
「…ミウのそういうところ、好き」
「そうか」
単純に嬉しくて笑うと、ティオは俺の手を握った。
「みんなが食事の準備をしてる」
「いくか」
「うんっ」
家に入ると美味しそうな匂いが漂っていた。急にお腹が空いてきた。
「マリカ、さっきは怖がらせてごめんな」
「ううん平気、沢山とってきてくれてありがとミウ兄っ」
「どういたしまして、沢山食べるんだぞ」
「うん!」
「ミウ、味付けを頼むよ」
「任せろ」
そうして料理が完成し、マリカと2人でカーラさんの分を持って行った。
「お母さん、ご飯だよ」
「ありがとう、いい匂いね」
「どうぞ」
「ありがとうミウさん」
「いいえ」
「マリカ、悪いけどお茶を淹れてきてくれる?」
「わかった!」
マリカが部屋を出た後カーラさんは話し始めた。
「ミウさん、何から何まで本当にありがとうございます。メティさん達の作った薬のお陰で咳も痛みもだいぶ治まりました。指輪のこともそうですが、なによりもマリカの活き活きとしてる姿をまた見れて私はとても幸せです」
「そうですか…」
「あの子のこと、よろしくお願いします」
「はい、約束は必ず守ります」
カーラさんは安心したように微笑みながら涙を流した。
「あれ、お母さん泣いてるの?」
「うふふ、あまりにも料理がおいしくてね」
「えー、変なの」
俺は居間に行って席に着き、食事に参加した。
「ミウくんなくなっちゃうよ〜」
「そうですよ」
「もうこんなに…みんなよく食べるな」
「おいしいからね」
「うん」
「それはよかった」
それからマリカも加わり、ワイワイ楽しく食事をした。
麗らかな日々の食卓…か。
俺がいつの日か叶えたい夢がここには在った。




