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出立


食後、全員にディオン達の話をした。


「仲良くしろとは言わないが、よろしく頼む」

「もちろんだぜボス!」

「任せてくれよ!」

「…」

「どうしたんだいミウ?」

「いや、ちょっとな。それよりどうする、宿に戻るかここで一晩過ごすか」

「僕は今夜もここで彼らと過ごすよ、何があるかわからないしね」

「そうだな、俺も残ろう。ミミル達はどうする?」

「ウチは宿で休みたいな〜、服が汚れてるしお風呂にも入りたいし」

「ミミルくん気合い入ってたからね」

「ティオも着替えたい」

「メティちゃんはどうする?」

「私は…」


メティはチラリと俺を見てから続けた。


「私もここで過ごします、女性もいるので」

「あ、ミウくんいちおう釘差しておいた方がいいんじゃない」

「ん、そうだな」

「全員一度黙って注目してくれ!ボスのミウから大事な話があるそうだ」

「なっ…おいゼリウス」

「まあいいじゃないか。さあどうぞ」


俺はため息を吐いてから立ち上がって元ごろつき達を見た。


「お前達を信用していない訳じゃない、それでも一度だけ言わせてほしい。力をつけたからといってもしも女子供に一方的に手を出したら躊躇いなく殺す、わかったな」


俺は少しだけ殺気と魔力を放って言った。


「ち、誓うぜボス!そんなこと絶対にしない、仲間にもさせないっ!」

「キリルの言う通りだ、俺も誓う!」

「俺もだ!」

「俺もっ!」


「ボス、ありがと」


女性メンバーが側に来てそう言った。気のせいか乙女っぽい雰囲気を纏って…


「んんっ!」

「し、失礼しましたっ」


メティの咳払いで女性メンバーはそそくさと戻っていった。こわいぞメティ。


食後、ミミルとティオはレムイノに戻った。


メティは女性メンバーと湯浴みに、俺達も川の水を沸かして拭き布で身体を清めた。


「はぁ〜、気持ちいいっすね!」

「ああ、スッキリするよな!」

「メティに言われた通りなるべく清潔感を意識しろ。それだけでも気が引き締まる」

「わかりやした!」


交代制の睡眠の取り方を教えてそれぞれが役割に着いた。


「それじゃ僕は休ませてもらうよ」

「ああ、おやすみ」

「おやすみ…おや、メティくんは寝ないのかい?」

「私はいつも通りミウと一緒に見張りをします」

「いいのか、疲れてるだろ」

「ご心配なく」


そう言ってメティは俺の手を優しく握った。


「わかった。ゼリウス、気にせず休んでくれ」

「ではお言葉に甘えるよ」


焚き火の前でメティと並んで座っているとキリルにカップを差し出された。


「お茶の淹れ方教わったんで、どうぞ」

「ありがとな」

「いただきます」


星空が綺麗だ…『ボス』か。


「ミウ、悩み事ですか」


心配そうにメティが俺の顔を覗いてきたので顎に指を添えてそっとキスをした。


「悩みってほどのことじゃないから安心してくれ。ただ、向こうの大陸にいる仲間達を想ってしまってな」

「ミミルに聞きました、ミゥーズ傭兵団のこと…」

「そうだな…なるべく考えないようにしているんだ、会いたくなるから」

「そうですか…」


俺はメティの腰に手を回して身を寄せて微笑んだ。


「だからこそ俺はメティ達の存在に救われてる…本当に感謝してるよ。ありがとな」


「それはよかったです。私もミウという存在に救われていますよ」


目を見てそう言われ、普通に嬉しかった。


静かに口づけを交わし、俺達は交代の時間まで手を繋いで寄り添っていた。


それから俺達『女神の聖槍』がレムイノのを発つまでの数日間、元ごろつき達とディオンら『英傑の血』の鍛錬と簡単なクエストをこなす日々を送った。


元ごろつき達は後半から鍛錬を減らしバランスよく4組に分けてパーティーを結成し、冒険者登録をしてクエストに行かせる様にした。


ディオン達は最終日まで鍛えて対人ではあるもののとにかく戦闘経験を積ませた。


そして遂に『商都レムイノ』を去る日がやってきた。


『戦神の工房』に行って完成した武器と防具、『蛇竜の短槍(ニルファー)』『蛇竜の小杖(メヴリュード)』『竜革の鎧』を受け取り、前日にまとめておいた荷物を持って都市の正門に向かった。


「マリアネ連峰にドラゴン退治、その後は神国を目指すんですよね」

「まあそうだな」

「相手はドラゴン…どうかお気をつけて」

「ああ。ディオン、お前らも無理するなよ」

「はいっ!」


「ボス!本当になんて礼を言っていいか…」

「キリル、お前達は頑張って完済した。それで充分だ」

「うぅ、ボス…」

「泣くな、ミミルに笑われるぞ…」

「グスン、ミウくんひどいよ~」

「えっ…あ、悪かった」

「ミミルが一番張り切っていましたからね」

「うん、別れはつらい」

「そうだね」

「姉さん方、ゼリウスの兄貴、世話になりました。ご恩は一生忘れません」

「君たち死んだら許さないからね!」

「そうですよ、命は大事にしてくださいね」

「うん、とても大切なこと」

「わかりやした!」


「ミウさん、僕達はいつかこの都市を出るつもりです」

「じゃあどこかで会うかもしれないな」

「はい、それまでどうかお元気で」

「ああ、皆も元気でな」


そうして俺達は次の目的地に向けて歩き出した。


「マリアネ連峰までの道程は険しいのか?」

「ノイルとネネアスが言うにはそんなに過酷ではないようだよ。地図も貰ったし、予定より早く着けるかもね」

「そうか、それは助かるな」

「くたびれた〜」

「傾斜が続いていますからね」

「休憩するかい?」

「そうだな」


かれこれ1週間弱、風景は変わり丘陵地帯が続いている。歩いているだけでなかなかに疲れるが眺めがとても良くて吹きつける風も清々しい。


「遠くに山肌が見えるだろう、恐らくあれがマリアネ連峰だよ」

「3週間はかかりませんでしたね」

「ちょっと安心した〜」

「ゼリウス、確か町が近くにあるんだよな」

「ああ、今は遮らてるけどもう少し歩けば見えてくると思うよ」

「お風呂とベッドが恋しくなってきた〜」

「ティオもお風呂恋しい」

「確かに湯に浸かりたいな」

「そうですね」

「もう少しの辛抱だよ。ノイル達が言うには…えぇっと…」

「なんだ?」

「いや、見てのお楽しみにしておこう」

「え〜気になるじゃん」

「はははっ、我慢してくれミミルくん…」


「グワァーーーッ!!」


突如甲高い鳴き声が響き渡り、巨大な影が俺達を覆った。


見上げると真っ黒な大型の鳥の魔物が上空を旋回していた。

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