寵愛⑥
「ミウの旦那には本当に感謝してる。あいつらのあんなに活き活きした表情、初めて見たよ」
「礼は早いぞキリル、まだまだこれからだ」
「おうっ!」
「ミウ、僕とミミルくんはここで彼らと夜を明かすよ、森から魔物が出て来るかもしれないからね」
「そうか、わかった」
「メティちゃん達は埋め合わせに抱いてほしいってさ〜」
「ちょ、ミミルったらもうっ…!」
「…恥ずかしい」
「ティオ、いいのか?」
「うん。メティ達に色々教えてもらった、問題ない」
「そ、そうか」
「ミウ、いつも通りで大丈夫ですよ」
「…わかった」
「そういう訳でミウくんは2人を宿に連れて帰ってね」
「わかった。ゼリウス、ミミル、念の為気を付けてな」
「りょーかい」
「ああっ」
俺はメティとティオと共にレムイノの『日だまり亭』に戻った。晩飯を済ませ、各々の部屋に入った。
暫くすると戸が叩かれたので開けると、ローブを纏ったティオが立っていた。どうして今更ローブなんか…人目に付くのに慣れたと思っていたが。
ティオは座りもせずにモジモジしていた。
やはり緊張しているのだろうか。
「大丈夫か?」
「うぅ…恥ずかしい」
「ん?恥ずかしいってどういう…」
パサッ。
ローブを脱いだティオは結構肌の露出が多い薄着姿だった。
「…ミミルが選んでくれた」
なるほど、これはヤバいな。スイッチが入った俺はティオの手を取り抱き寄せて言った。
「よく似合ってる、それにティオの身体は綺麗だな」
「ほんと?」
「本当だ」
「嬉しい。ミウ…好き」
「痛かったり恐かったら言ってくれ」
「うん…」
ティオは初めは少し震え、力が入っていたが徐々に身を委ねてくれて安心した。
正直自信が無かったが…メティの言葉に救われたな。
「ティオはいま幸せ」
そう言った彼女の目尻から涙が流れた。その涙を優しく拭ってから濃密なキスを交わし、俺達は時間を掛けて愛し合った。
添い寝してるとティオははっとして起き上がり急いで服を着てローブを纏った。
「メティと交代。おやすみミウ」
「あ、ああ。おやすみティオ」
「うん」
ティオが部屋を出て数分後、戸が叩かれた。立ち上がって戸を開くとメティがそっと抱きついてきた。
「遅いですっ」
「すまない」
「ティオは照れていましたが、同時に幸せそうでした」
「メティのおかげだよ、ありがとな」
「いいえ。では埋め合わせをお願いします」
そう言ってうっとりした表情で微笑んだメティは女神の様で、俺は頗る彼女が愛おしくなってお姫様抱っこした。
恥じらいながらもメティは俺の頬にキスをした。
「今宵もお好きにしてください」
その一言で俺は理性を失い、メティをベッドに運んで少しだけ乱暴に抱いた。そしてそのまま一緒に眠りに就いた。
「あれっ」
思わず声を出してしまい、いつの間にか合流して添い寝していたティオを起こしてしまった。
「ん…おはよ」
「お、おはようティオ」
まぶたを擦って小さくあくびをした寝起きのティオはとても可愛かった。
「おはようございます…あら、ティオも来てたんですね」
「うん…」
「眠そうだな、もう少し寝るか?」
「もう少しだけ」
「私も賛成です、昨日は遅かったので」
「そうだな、じゃあもう1時間」
「うん」
「はい」
そうして俺達は3人揃って二度寝した。
その後、朝食を済ませてから2人と別れて俺はクエストに向かった。ソロでクエストなんて久しぶりだな。
大街道脇の森に入り、ズンズンと奥へ進んだ。小型の魔物が出るくらいで特に脅威は感じない、もう少し進んでみるか。
お、この辺りから薬草が沢山生えている。あまり人が立ち入らないところまで来たようだな。
夢中で採取していると背負い袋がいっぱいになっていることに気付いた。
仕方ない、休息してから帰るか。
ガサガサガサッ!
突然大きな音が聞こえてきた、大型の魔物か?
「ギギギィ…」
あれは虫型の魔物…でかいな。ギルドにあったこの森で確認されている魔物の一覧表に載っていた。こいつは確か『アーマークリケット』だ。名前からして硬いんだろうな。
ちょっとワクワクしてきた。
「いくか!」
ガキィンッ!
素早く抜剣して斬り掛かったが刃が通らない、思ったよりも硬いな。次は本気で斬って…
ドォンッ!!
アーマークリケットは物凄い脚力で突進してきた。
ドガァッ! 「ぐっ」
『鎧』で防御したがなかなかの衝撃、俺の身体は宙を舞った。
あの巨体でこの速さか、なかなかやるが直線的だな…次の突進で終わらせる。
スタッ。 「さあ来いっ!」
態勢を立て直し俺が両手を広げ挑発するとアーマークリケットはギギギと怒りを声にして向かってきた。
先程より速い、だが…。
「連射式大玉っ!」
ボゴゴゴォッ!! 「ギッ…!」
先手で入った『大玉』でやつの勢いは止まった。
「物干し竿っ!」 ザンッッ!!
そして素早く側面に移動して思い切り振り下ろし、アーマークリケットの首を断った。
「ふぅ…」
派手に音を立ててしまったな…他の魔物が集まってきたら厄介だ。
直ぐにここを離れたいがこいつの甲殻…明らかに素材として価値がありそうだ、きっと良い値で売れるだろう。とは言えゆっくり処理してる余裕はない…仕方ない、担いで戻るか。
ソロだとこういう場面で厳しいな…
仲間の有り難みを噛み締めながら俺は帰還した。
レムイノに着くと物凄い数の視線を感じた。こんなもの担いでたら当然か。しかしわざわざ変装するのも面倒だ。
もしもアーマークリケットが俺のランクに釣り合わないほどの強い魔物だったら怪しまれるだろう…そうだ、森の中でたまたま死骸を見つけたことにしよう。
取り敢えずギルドには討伐報告せずにこのまま『戦神の工房』に行って買い取ってもらおう。
「いらっしゃ…ってなんでそんなもん担いでるんだっ!?」
「森で拾ったんだが、買い取りを頼む」
「拾ったってこの斬り口は…ま、まあいい、査定するからその辺に置いて少し待っててくれ」
「ギルドに用があるんだが行ってきていいか」
「構わん。戻る頃には終わるようにする」
「よろしく頼む」
そうして俺はのんびり歩いてギルドに行き、薬草と受注書を渡してお姉さんから報酬を受け取った。
「あんな量、どこで取られたんですか?」
「えっと…深部の手前に偶然手つかずの採取場所を見つけて」
「そうなんですね」
「はは…運がよかったです。では」
俺はなんとか誤魔化して逃げるように外に出た。
「あのっ」
「ん?」
声がして振り向くと4人の男女が立っていた。




