意欲
「おい、多くないか?」
「す、すいやせん!」
「すまねぇっ!」
「悪いとは思ってる…だがこの機を逃したら皆揃って後悔すると思ったんだ」
お、いいこと言うな。それに言葉遣いが他の奴とは少し違う…。
「お前、名は?」
「キリルだ」
「キリル、お前がリーダーだ。副リーダーは様子を見てお前の意思で決めろ」
「お、俺がリーダー!?そんなの無理だ…!」
「取り敢えずやってみろ、駄目なら他の奴に代わればいいさ」
「わ、わかったよ。そういえばあんたの名前は?」
「俺は冒険者のミウだ」
「ミウ…あんたはリーダーやってくれないのか」
「無理だ、俺は10日後ぐらいにはこの街を去る予定だからな」
「…そうか。よし、気合い入れてリーダーやってみるよ」
「その意気だキリル。じゃあ次は武器だな」
後から合流した連中を待って衣類と防具を買い与え、鍛冶屋に向かった。もちろん『戦神の工房』だ。あそこなら品揃えも豊富だからな。
ぞろぞろと引き連れて店に向かっていると後ろから聞き慣れた声がした。
「ミウ!」
「おお、メティ。ちょうど良かった」
「もうっ、なにをしているんですか!」
「すまない」
「この方々は?」
「元ごろつきだ、面倒を見ることにした」
「ど、どうして…!」
「あとでちゃんと説明させてくれ。それでもいいか?」
「はぁ…わかりました。ちなみに今からどこへ?」
「武器を買いに行く」
「お金は足りますか?」
「足りない可能性がある」
「出します」
「わるいな…」
「埋め合わせしてもらいますからねっ」
「もちろんだ」
プリプリしてるメティも可愛い、そしてやはり心優しい子だ。
「いいですかあなた達っ」
元ごろつき達はメティの威圧で一斉に背筋が伸びた。
「自分達で稼げるようになったらちゃんと返してもらいますからね。わかりましたかっ」
「は、はい!」
「もちろんだ!」
「頑張ります!」
「よろしい、では行きましょう」
あれ、もしかしてちょっと乗り気になってる?
「いらっしゃ…な、なんだなんだ!?」
やっぱり全員で店内に入るのはまずかったか…でもちゃんと説明しないといけないしな。
「いいか、これからお前達一人一人のジョブを決める為に色んな武器を買う。それを全員で使い回してみて自分が一番扱いやすい武器と立ち回りやすい役割を見つけるんだ」
元ごろつき達が一斉に返事をしたところで店主に怒られたので数人残して店の外で待機させ、盾、直剣、双曲剣、長槍、戦斧、弓、弓銃、杖を各2つずつ購入して運ばせた。
「この中で魔術の心得があるやつはいるか」
「…」
居ないか。そうなるといよいよメティの出番だな。あとは…
「おーい、ミウくーん」
「皆きたのか」
「ティオくんが痺れを切らしてね」
「ミウ遅い」
ちょっと怒ってる、あのティオが。怒らせといてなんだがティオが普通に対等の仲間のように接してくれて俺は嬉しい。
「ごめんなティオ」
「埋め合わせして」
おいおい、埋め合わせって…メティの入れ知恵か?まあ全然構わないが。
「もちろんだ。楽しみにしておいてくれ」
目を見て笑うとティオはさっきまでの威勢を失い、耳を赤くして口を噤んで頷いた。普通に可愛い。
改めて4人に事情を話すとミミルとメティは呆れていたが全員協力を快諾してくれた。
「ミミルとゼリウスはこいつらに武器の扱いを教えてやってほしい」
「りょーかい」
「了解した」
「ティオは私と魔術を教えましょう」
「でも…」
「大丈夫だティオ、こいつらは種族なんて気にしない。そうだろ?」
「もちろんだぜ!」
「そうだそうだ、ダークエルフだろうが何だろうが関係ねぇ!」
「そうよ、ミウさんの仲間なら全然受け入れられるわっ」
「…」
ティオは黙って俺の側に寄ってきた。少し困惑している…?
そうか、こんな大勢の人間に受け入れられるなんて初めてだからどう反応していいか分からないんだな。
「よかったなティオ」
そう言って肩をポンポン叩くとティオは嬉しそうに短く返事をした。
4人に元ごろつき達の鍛錬を任せ、俺は明日、1人でクエストに行くことにした。
メティとティオが渋っていたがなんとかお許しをもらって俺は冒険者ギルドに来ている。
因みにマッドゴーレムを討伐したおかげで俺達は全員ランクアップした。これでメティとゼリウスがCランク、俺とミミルがDランク、ティオがEランクだ。
そういう訳でDランクの中で一番報酬額の高いクエストを受注した。内容は大街道付近の森での薬草の採取だ。
なぜDランク指定なのかというと、どうやら近場の薬草を取り過ぎて森の奥まで行かないとなかなか手に入らない状態になっているらしい。そうなると出現する魔物が手強くなるので一段と危険度が増すという訳だ。
おかげで受注の際、受付嬢に単独で行くのは止めた方がいいと散々言われた。
なるべく薬草を沢山取って報酬を増やし、ついでに魔物も狩って素材を買い取りに出そう。俺達がレムイノを発つまでに返済すると約束させたものの、勝手にあれだけの出費をしたことに対して随分と責められたからな…特にメティに。その分自分でしっかり稼がないと。
皆は鬼人族と交戦したブォモル平原で鍛錬しているのでギルドを出てそこに向かった。
元ごろつき達は住む場所が無く宿賃も持ち合わせていないのでティオとキャンプした小川の側で暫くの間野営させることにした。
大きめの天幕と毛布を幾つか買って設営方法を教えた。他にも火の起こし方や狩りから調理まで…兎に角生きる術を身に着けさせた。それとメティが水浴びや湯浴みで身体を清潔に保つよう厳しく指導していた。どうやらエルフは身嗜みに重きを置く種族らしい。
その熱心に教示する様子がまるで母親の様で俺は思わず笑ってしまった。




