同種
ヒュドラの素材を背負い袋に詰め込み、俺とゼリウスで運ぶと決めた。
「大荷物だね〜」
「2人とも重くないですか?」
「問題ないよ、なあミウ」
「ああ、俺達は平気だ。レムイノに戻るぞ」
「りょーかい」
「わかりました」
「うん」
休憩を挟みながら歩き続け、こういう時に荷馬車があれば…などと考えながらレムイノ近くの平原を歩いているとミミルが横に並んだ。
「ミウくん、大街道に出る前に準備しておく?」
「ああ、そうだな」
「では私達が先にレムイノに入り変装用の衣類を買って来ます」
「メティちゃん、ウチとティオちゃんでギルドに報酬の受け取りに行っていい?」
「確かにその方が効率的ですね、お願いします」
「じゃあまた後でね。行こうティオちゃん」
「うんっ」
「では私も行きますね」
「よろしく頼む」
女性陣が行った後、ゼリウスと俺は荷物を降ろして座り込んだ。
「重かったな、いい鍛錬になった」
「はははっ、そうだね。でもこの素材は苦労に見合う価値があるよ」
「ドラゴンほぼ丸ごと一体分の素材だもんな」
「ああ。苦労して運ぶ理由には充分さ」
「その通りだな。ところでゼリウス、そろそろレムイノを出るだろ」
「そうだね、『マリアネ連峰』に行かないと」
「ミモーネだったか、できる限り会っておけよ」
「ありがとう、そうさせてもらうよ」
暫く待っていると3人が戻ってきた。
俺とゼリウスは荷物と武器を渡して変装し、ヒュドラの素材を背負って鍛冶屋に装備の製作依頼に行った。
女性陣は先に大浴場へ向かわせた。さっさと済ませて俺も早く風呂に入りたい。
依頼はゼリウスが『アンドレイの盾と剣』を修繕してもらった鍛冶屋『戦神の工房』の職人に頼んだ。
「この鍛冶屋は個人的にはレムイノで一番だと思うよ」
「ゼリウスがそういうなら心配いらないな」そ
れから具体的にどんな物を造ってほしいか職人としっかり打ち合わせした。
「要望は理解した。必ずいい物を造ってやるよ」
「よろしく頼む」
「それにしてもあんたら何者だい?ヒュドラの素材を持ち込むなんて…しかもこの量、自分らで討伐したんだろ」
「ただの冒険者だ。それ以上は言えない」
「ふん、まあいいさ。完成は10日後くらいだが、支払いは残った素材全部でどうだ」
そうきたか。俺には相場がよくわからないのでゼリウスの意見を待った。
「それで構わない、あなたの腕を信じるよ」
「よぉし決まりだな、10日経ったらまた来てくれ。きっと満足する品ができてるから楽しみにしておきな」
「わかった」
店を出て俺達は人目に付かない路地裏に移動してから変装用の衣服を脱いだ。
「あの職人が造る装備なら提示された支払い条件でも割に合ってると思うよ」
「そうか、俺はゼリウスを信じるだけだ…ん?」
路地裏の奥から柄の悪い連中が危ない目付きでやって来た。身なりは悪く皆痩せている…物取りか、今は丸腰だし俺とゼリウスが弱そうに見えたのか。
「怪我したくなかったらあり金全部よこしな」
そう言って大柄な男が短剣の切っ先を俺に向けた。
「なあゼリウス、俺にとっての正義はこういう奴を減らして少しでも街の治安を良くすることだ。お前はどうだ?」
「うーん…命を奪うのは気乗りしないかな」
「ふっ…確かにそうだな。下がっててくれ」
「わかった」
「おい、なにをぺちゃくちゃ喋ってんだっ…」
バチィンッ! 「ぶっ…!」
俺は創造魔法で掌を覆って大男の横っ面をそこそこ本気で引っ叩いた。
「こいつ!」
「やっちまえ!」
向かってきた他の奴等も同様に頬を一発ずつ引っ叩いた。
「ぐあ…!」
「い、いてぇ」
「なんだこいつの掌は…!」
「おい、リーダーはどいつだ」
「お、俺達に上下関係はねぇ!」
「そうか。じゃあ今から俺がお前らの頭になる」
「なっ、ふざけんな!」
「そうだそうだっ!」
「じゃあ聞かせてくれ、お前らは今の生活で満足しているのか?充実した日々を送っているのか?」
取り敢えずそんな質問をしてみると予想以上に堪えたようで全員悔しそうな表情で黙ってしまった。
やっぱり…こいつらを見ていると『ミゥーズ傭兵団』を思い出す。
「取り敢えずついてこい、先ずは形から入る」
「なっ、なんの話だ!?」
「勝手に進めてんじゃねぇよ!」
「そうだそうだ!」
「取り敢えずお試しで暫く俺と一緒に来い。もし気に食わなかったら好きに抜ければいい、俺は止めたりしない。どうだ?」
「ぐっ、どうする?」
「まあ…好きに抜けていいなら…」
「あ、ああ。そうだな」
「ちょ、どうするつもりだいミウ」
「悪いなゼリウス、先に戻って皆に伝えておいてくれ」
「…わかったよ」
人数は6人か、先ずは身なりを良くしよう。
俺はごろつき共を連れて大浴場に来た。
身体を清めるよう促すと初めは渋々だったが途中から全員はしゃいでいた。
「周りに迷惑だから大声は出すな」
「はい、すんません」
さっきの今で随分と態度が変わったものだ。そんなこんなでピカピカになったごろつき共を連れて次は防具屋に来た。
最低限の衣類と安価な革の鎧を購入して着替えさせると随分と嬉しそうにしていた。
だが問題はここからだ。
「お前ら冒険者になれ。旅はしなくていい、この商都レムイノなら絶えず充分な量のクエストがあるからこの街を拠点にして稼いでいればまともな生活を送れるはずだ」
ごろつき達はお互いに顔を見合わせてから恐る恐る俺に尋ねた。
「俺らみたいなはぐれ者でもできることなのか?」
「もちろんだ。それにお前らははぐれ者なんかじゃない。とは言え先ずは戦闘訓練と冒険者登録の為の1人15ルーマが必要だ」
「あのっ」
「なんだ?」
「俺らと同じような奴等がまだ居るんだ…そいつらも連れてきていいか」
「構わないが、そいつらは平気なのか」
「ああ。話せばきっと来てくれる」
「わかった、今すぐ呼んでこい」
「おうっ!」
「よし、手分けして集めんぞ!」
「おぉーーっ!」
手分け…?どうせ数人だろ。
そんな俺の予想は外れ、数分後に11人も増えた。
合わせて17人になってしまった。おいおい、風呂と衣類と防具代足りるかな…って女の子も3人居るな、うーん。
取り敢えず後から合流した連中にお金を渡して大浴場に行かせた。




