不図
「戻りました」
「おかえり。鳥か、立派だな」
「はい、この一番大きいのはティオが仕留めたんですよ」
「そうなのかっ、凄いじゃないかティオ」
「うん…」
ティオは照れながらも控え目に笑った。
「でも、弓は難しい」
「そうか」
「ただいま〜」
「おかえりなさい」
「おかえり」
「それは大兎か」
「そうだよ、おいしそうでしょ〜」
「ああ、うまそうだ」
「あとはゼリウスですね」
「そうだな。先に下処理を始めてるか」
「私が手伝うので2人は休んでてください」
「りょーかい、ありがとメティちゃん」
「ありがと」
「いいえ」
2人が天幕に入って行くとメティは素早く俺の隣に移動してぴたりとくっついた。
これが狙いだったか、やるなメティ。
よく見るとメティの頭に木の葉が着いていたので無言でそっと払うと、メティはねだる様に言った。
「ついでに撫でてほしいです」
短く返事をして頭を優しく撫でると、メティは心地よさそうに目を閉じた。
暫くするとガサガサと音がしたので俺達は離れた。
「すまない、お邪魔だったかな」
「気にするな…ん、それは野草か?」
「申し訳ない…。なかなか獲物が見つからなくてね」
「仕方ありませんよ。魔物の影響でこの辺りは動物が少ないので」
「とはいえ手ぶらで戻る訳にはいかないと思って味と香りのいい野草を探して沢山摘んできたんだ」
「そうか。肉は女性陣が獲ってきたから心配ないぞ」
「それを聞いて安心したよ」
「お疲れ様です、ゼリウスも中で休んだらどうです」
「そうだな。ゼリウス、料理は任せて中で休んでろ」
「ありがとう。そうするよ」
ゼリウスが天幕に入ると再びメティが接近してきた。
「そろそろ調理を始めたい。イチャつくのは見張りの時だ」
「…はい」
メティはわかり易くしょんぼりしながら返事をした。これはこれで可愛いが…俺はメティの顎を人差し指でクイッと押し上げてキスをした。
「さあ手伝ってくれ。麗しいエルフさん」
「もうっ、ミウはずるいです」
見つめ合って2人で笑った後、俺達は調理を開始した。
料理が出来上がる頃、天幕からのそのそと3人が出てきた。
「お腹空いた〜」
「ティオも」
「いい匂いだね」
「もうすぐ完成するから少し待ってくれ」
「りょーかい」
「うん」
「わかった」
そして料理が完成し、3人は待ち侘びた様に食べ始めた。
多めに作ったのも空しく俺達はあっという間に完食してしまった。
綺麗になった水場の水で湯を沸かし拭き布で身体を清めた後、ティオを連れて夜の散歩に出た。
「星、綺麗…」
「本当だな」
「…」
「どうした?」
「コホンッ、ミウ…」
「ん?」
「ティオもこのクエストが終わったら何かしてほしい」
「メティの耳打ち、しっかり聞こえてたようだな」
「エルフは耳がいいから。…だめ?」
「だめじゃないが…そうだな…なにか希望とかあるか?」
「キス」
「なっ、随分と…ま、まあいい。わかったよ、約束だ」
「うん、約束」
俺達は小指を結んで微笑み合った。
それから皆の元に戻り、いつも通り交代制で睡眠を取った。もちろん俺はメティとセットだ。
朝になり食事と片付けを済ませ、俺達は火口湖を目指し歩き始めた。
それにしても…これはなかなかハードだ。木々が生い茂って歩きにくい上にこの傾斜、思った以上に消耗するな。
「そろそろ休憩にするか」
「賛成〜」
「同じくです」
「ティオも同じく」
「僕も賛成だ」
休息を挟みながら山を登ること数時間、遂に山頂に到達した。
「うわぁ~っ!」
「これは…芸術とも言うべき眺めですね!」
「綺麗…」
「こんな絶景、初めて目にしたよ」
「俺もだ…本当に絶景だな」
青空の下、広大な火口に巨大な湖、周りには緑も在る。もはや神秘的とさえ思わせる様な情景だ。
俺達5人は暫く無言でこの景色を堪能した。
「せっかくだし湖畔まで行くかい?」
「そうだな」
「行きたい」
「行きましょう」
「行こ行こ〜」
そうして俺達は湖の畔までやって来た。
近くで見ると確かに澄んだ水ではないな。こんな綺麗な場所なのにもったいない…ん、なんだこの…
「全員下がってください!」
メティの一声で俺達は素早く後方へ跳んだ。
ザバァァァァンッ!!
突然物凄い勢いで巨大な水柱が立った。
そして中から現れたのは見覚えのある生物だった。
「ギャオオオ〜ッ!!」
「なっ、あれはまさか…!」
「間違いありません、多頭竜ヒュドラです!ティオ!」
「メラン・オイケーマッ!」
ヴゥンッ。
黒い半透明の小部屋の様な結界が現れて俺達を閉じ込めた。
「ヒュドラが俺達を見失ってる…ティオ、これは?」
「結界、隠蔽、闇魔法を組み合わせた魔法。姿や気配、魔力だけでなく生命力も遮断する部屋」
「なっ…3種類の魔法を組み合わせたのか」
「驚いた…なんて魔法技術だ」
「ティオちゃん、これ凄いなんてものじゃないよっ」
「でも魔力消費が激しい…長くはもたない」
「そういう訳で手短に話しましょう。声も抑えてくださいね」
全員は黙って頷いた。
それにしてもヒュドラと再び遭遇するとはな…しかもティブア湿原に居たやつより身体が大きく首が既に4本だった。確実に前に倒した個体より手強い…だがこのメンバー、この状況なら負ける気がしない。
「倒すぞ」
4人は驚いて俺の顔を見たが、直ぐに安堵した表情に変わった。
「その顔、やれるんだね相棒」
「ああ。ティオ、手持ちの魔力回復薬を全て使ってあとどれくらいこの『部屋』を維持できる?」
「…9分くらい」
「充分だ。この中にヒュドラとの戦闘経験があるものはいるか?」
4人は同時に首を横に振った。
「俺はヒュドラを一度討伐している、先ずはやつの攻撃について教えるぞ」
4人は頷いてから俺に近付いて耳を傾けた。




