仇討
「…わかった」
「ティオはどう思う?」
「魔犬を飼っている時点で人じゃない。魔族か魔物」
「そうだよな」
「でも都市の近くで暴れるほど無能じゃないと思う」
「そうだな。まあ念の為警戒はしておこう」
「うん」
「何か些細なことでも気づいたらすぐに知らせてくれ」
「わかった」
俺達は一度片付けて魔犬が居た場所から離れる様に移動して再び野営の準備をした。
「ふう、終わったな」
「うん」
「ところでティオ、魔術を少し教えても良いか」
「いいの」
「ああ、実は前に闇の属性魔法の使い手と戦ったことがあるんだ」
「それって…」
「ダークエルフじゃないぞ。魔人族って種族だ」
「そう…強かった?」
「ああ、俺一人じゃ絶対に敵わない。それに命の恩人でもあったんだ」
「命の…?」
「ああ。あんまり話せなかったけど…そいつには感謝してるんだ」
「…そっか」
ティオは安堵したように息を吐き、真剣な眼差しで俺の目を見て言った。
「魔術、教えてほしい」
「任せろ」
魔術講座に熱中していたら暗くなってきた。
ティオの成長速度は尋常なものではなかった。ダークエルフにとってはこれくらい普通なのだろうか。
「ティオ、お腹空いたか?」
「すこし」
「ちょっと早いけど飯の支度するか」
「うん、手伝う」
一緒に調理しながら色々教えてもらった。ダークエルフの平均寿命はエルフと同じくらいでティオはまだ29歳、エルフ基準だと子供扱いだそうだ。俺からすれば身も心もしっかり大人に見えるけどな。
「おいしい」
「それはよかった」
頬を膨らませて煮込み料理をムシャムシャ食べているティオはとても可愛くて癒される。
「ムグッ?」
「ああ、すまない。可愛くてつい…」
「ンッ!!」
ティオは突然胸をトントン叩き始めた、詰まらせたか。
お茶を渡すとゴクゴク飲んでから死ぬかと思ったと言わんばかりにぷはあっと声を出した。それがおかしくて笑うとティオは居心地悪そうに俯いたが口角は上がっていた。
食後は2人で星を眺めながらのんびりお喋りした。
「きれい…」
「そうだな」
「あの…」
「ん?」
「また来たい、きゃんぷ」
「ああ、必ず行こう。約束だ」
「うんっ」
ーーーーーーーーーー
「うそ…」
「まさかスオウが殺られるなんて…これは魔術か」
「カリン…」
「おい、遠くに灯りが見えた。魔力も感じたから恐らくそいつらの仕業だ」
「どうすんだ」
「許せないわね」
「スオウ…」
「カリン、『鬼門』を出すからスオウを連れて先に帰れ」
「みんなは?」
「奴等を斬り焦がしてから帰る」
「自重はする、心配するな」
「だったらあたしもっ…」
「私が居るから平気よ。それよりスオウをこんな所に置いておくのはかわいそうだわ」
「…そうだね。みんな無理はしないでね」
「おう、直ぐに帰るから安心しろ」
「お頭には怒られるだろうな」
「構わないわ、スオウは家族よ」
「そうだな…。暗闇だと俺等の魔法は目立つ、夜明けにやるぞ」
「ああ」
「わかったわ」
「待ってろよ人間ども」
ーーーーーーーーーー
少し早いが湯を沸かして拭き布で身体を清め、ティオを先に寝かせた。
「わた…ティオが先に寝てもいいの」
「もちろんだ。それよりティオ、気になっていたんだが一人称名前だったのか?」
「いや、それは…」
「…まあいい。今日は疲れたろ、ゆっくり休め」
「うん」
ティオは天幕の中に入って行った。寝床はいつもより多めに草を敷いたから寝心地が良いはずだ。
さて、ここからは独りの時間だな。焚き火、川のせせらぎ、草木のざわめきがとても心地よい。俺は目を閉じてそれらを満喫して過ごしながら、やっぱりこういう独りの時間も大事だなと改めて思った。
数時間後、ティオと交代してぐっすり眠った。
その後も交代して見張りをしていると空が明るくなってきた。
もう少し経ったらティオを起こして…
「っ!?」
俺は素早く剣を取って気配のする方へ飛び出した。
「よぉ、てめぇがスオウをやったのか」
「スオウ…?」
なんだこいつら。体格や容姿は人間と変わりないが3人とも赤や青みを帯びた肌に額には角、口から牙の様な歯が覗いている。魔人族とは違うオーガの様な角だ。
それに腰にあるのは刀か?いやそれよりもスオウってもしかして…
「赤黒い魔犬のことか」
「ああ、あいつは俺等の家族なんだよ」
「やはりお前が殺したんだな」
「覚悟はできてるわね」
「なんの覚悟だ」
「ざけんなっ!」 キィーンッ!
血の気の多そうな男が斬りかかってきた。抜刀も移動も速い…こいつらできるな。
「死ぬ覚悟に決まってんだろ!」
キィィン! 「…」
なるほどな、飼い犬を殺されたから仇討ちか。
「ふざけるなっ!」
ガキィィンッ! 「ぐっ」
「あの魔犬が襲ってこなかったら殺していない」
「スオウは賢い子よ。自分より強い相手には挑まない」
「てめぇ、魔力をかなり抑えていたんだろ」
「…」
「図星のようだな。卑劣な人間め」
「ニワビ」
「わかってる、こいつは強い」
ジャキッ。
他の2人が武器を構え、先に斬り掛かってきた男は少し下がった。口調の割に冷静な奴だな、ちゃんと俺の実力を見抜いている。
「ここからは3人でいかせてもらうけど、お仲間はどこ?」
「魔犬を殺したのは俺だ、仲間は関係ない」
「悪いがそうはいかない」
「口封じか」
「当たりだ。俺達のことを話されると困るから…ん?」
「ミウ…?」
「ティオ、下がってろ!」
まずいな、ティオの顔を見られた。こいつらを生かしておいたら狙われる可能性がある、どうしたものか。
「おいおいおい、黒エルフじゃねぇか」
「なぜダークエルフが人間なんかと…信じられないな」
「ティオ、隙を見て逃げるんだっ」
「でもっ…」
「安心しなさい。事情が変わったわ」
「なんだと」
「はっ、黒エルフの言う事を人間どもが信じるかよ」
「その通りだ。念の為消すべきだろうが嫌われ者の種族同士、できれば命は奪いたくない」
「そういうことよ、運がよかったわね」
「さあて、お喋りは終いにしてそろそろ始めようぜ」
女が下がり男2人が前に出てきた。色々と気になるが今は戦いに集中しないとやられる、こいつらは強い。
俺は剣を強く握り集中力を高めた。




