平原
「おはようミウ」
「おはよう、いつ戻ったんだ」
翌朝、目を覚ますと部屋には当たり前の様にゼリウスが居た。
「その…つい先程だよ」
「そうか」
「ミウ、改めて感謝するよ。ミモーネに会いに行って正解だった…尻込みしていた自分が恥ずかしいよ」
「気にするな。それより頼みがあるんだが」
「なんだい?」
「その王宮騎士の武器で手合わせしてほしい」
「はははっ、ちょうど僕も武器を慣らしておきたかったんだ」
「決まりだな、行くぞ」
「ああっ」
各々武器を手に部屋を出ると丁度女性陣が食堂に向かおうとしていた。
「おはよ〜、2人とも武器持ってどうしたの」
「おはよう、ちょっと運動にな」
「え〜、ウチも行きたい」
「ミミル、今日は私がティオと過ごすので行ってきて構いませんよ」
「えっ、いいのメティちゃん」
「はい」
「メティ、本当に大丈夫か?」
「問題ありません、エルフ同士で色々と話したいこともありますし」
「わかった」
そうして食堂で朝食を済ませ、俺とミミルとゼリウスは商都を出て適当に開けた場所に行って手合わせをした。
ゼリウスの新しい剣と盾はやはり素晴らしい物だった。ゼリウス自身も扱いやすさに驚いていたくらいだ。
「勇者くん、良い武器手に入れたね〜」
「そうだね、改めてお礼を言いに墓参りに行くよ」
昼過ぎになり空腹を理由に俺達は商都に戻った。
大衆食堂に行って食事を済ませ『日だまり亭』に向かった。
宿の食堂で各々飲み物を頼んで待っているとメティとティオが現れた。
「戻っていたんですね」
「ついさっきだよ〜」
「そうでしたか。ちょうどよかったです」
「どうかしたのか」
「いいですねティオ」
「…」
ティオは少し躊躇ってから頷いた。
「ミウ、明日はティオと2人で出かけてください。私達3人はクエストに行ってきます」
「えっ」
ミミルとゼリウスの声が揃った。
なるほどな、確かに一度2人きりで話したいとは思っていたが…ちょっと早すぎる気がする。
「俺は構わないが、本当に大丈夫なのかティオ。もしも無理してるなら…」
いててててて、胸が。
「もしかしてメティちゃん妬いてるの〜」
「はい」
「はははっ、随分と素直なんだね」
「本当だよ〜」
「ミウの優しさは強烈だからね」
「その通りです」
「わかったから、あんまりイチャつくとまたミミルに怒られるぞ」
そう言うとメティは渋々俺の腕を離した。
俺はメティの頭を軽く撫でて言った。
「今度埋め合わせさせてくれるか?」
「は、はいっ!」
顔を上げたメティの目はキラキラ輝いて見えた。しかも小さくガッツポーズまでしてる、普通に可愛い。
「全く、この色男は〜」
「なるほど、ミウが好かれる理由がわかった気がするよ」
「…」
ティオは俺達のやり取りを黙ってずっと見ている、好奇心…とは少し違う視線だ。
「どうしたティオ」
「…いや、なんでもない」
「そうか…。今更だが明日はクエストに行かないで休みにしてもいいんじゃないか」
「ミウ、私達は冒険者ですよ」
「確かに、休んでばっかじゃ身体も鈍るし何よりお金稼がないとね〜」
「僕も2人と同意見だよ。だから明日は任せてくれ」
ふう、ちゃんと埋め合わせしないとな。
「ありがとう。よろしく頼むよ、くれぐれも…」
「油断も容赦も無し。ですよね」
「あ、ああ」
「メティくん、クエスト選びはまだかい?」
「まだです」
「じゃあささっと済ませちゃお〜」
「そうですね。ミウ、私達はギルドに行ってきますね」
「わかった」
3人は居なくなり、俺とティオが残された。
お茶を啜りながら俺の様子を覗っている。やはり警戒されているのか…まあ睨まれなくなっただけでも充分嬉しい。
「明日のことだが、本当に平気なのか。気にしないから正直に言って構わないぞ」
「…平気。場所にもよるけど…」
そうか、ダークエルフは目立つ。きっと街中でもオークション会場いた奴等と同じ反応をされるだろうな。
だったら…
「キャンプに行こう」
「きゃんぷ…?」
このやり取り…懐かしいな。
「天幕を張って自然の中でのんびり過ごすことだ」
「それだけ…?」
「ああ、それだけだ」
「…」
微妙な反応だが、行ってみれば分かるはずだ…多分。
そうだろポルメネ。
少し買い物をした後、戻ってきた3人ともども俺達は早めに就寝した。
朝を迎え、俺達は食事を済ませてから宿の前に集まった。
「それじゃあ行ってくるよ」
「ああ、気をつけてな」
「はい、気を引き締めて行ってきます」
「討伐じゃなくて調査クエストだし、心配無用だよ〜」
ミミルの緊張感のない台詞に2人はため息をついた。
そうして3人はクエストに出発した。
「さて、俺達も行こうか」
「…うん」
念の為岩場や森は避けたいので少し遠いが今日はレムイノの東に広がる『ブォモル平原』に行くことにした。
俺とティオは荷物を持って大街道に向かった。
「疲れたら遠慮なく言ってくれ」
「…」
ティオは俺の顔をチラリと見てから黙って頷いた。
大街道を暫く歩いてから外れ、森を抜けるとブォモル平原に出た。なかなかの広さで所々に木が見える。念の為森を抜ける時に薪は拾っておいた。
これだけ開けていたら万が一の敵襲に対処しやすいし何より星がよく見えそうだ。
「重くないか」
「…大丈夫」
「そうか」
歩きながら設営場所をどこにするか考えているとティオが俺の前に出た。
「…水の音」
「場所はわかるか」
「うん」
やはり聴力が高い様だな、俺には全然聞こえない。
ティオに着いて行くと本当に小川が流れていた。
「側に木も生えてるしこの辺りにするか」
「うん」
こうして俺達のキャンプ場所はここに決定した。




