性分
俺はそれを見て驚くと同時に嫌な思い出を蘇らせた。
運ばれてきた『商品』は奴隷だった。
「え…あの子って…奴隷…?」
「あらミミル、奴隷を見るのは初めてですか」
「いや、ウチらの大陸にも奴隷は存在するんだけど…」
そう言いかけてミミルは不安そうに俺を見た。
「平気だよミミル、気分は悪いがな」
「…ミウ?」
心配そうにメティは俺の顔を覗いた。するとゼリウスがちょっといいかい、と話し出した。
「文化が異なるかもしれないから説明しようか」
ゼリウスの話ではこちらの大陸での奴隷の立場や扱いはそんなに悪いものではないらしい。恋人や結婚相手、旅の仲間など様々な場面での戦力としても取り引きされてるとか。もちろん扱いの酷い場合も稀にあるようだが…。
だからこそやはり俺は奴隷制度を好きにはなれない。
「聞こえは良いけど言いなりなんだろ」
「…確かに奴隷は首輪をはめられ主人に危害を加えることはできない。でもそれは人を信用できない人にとっては救いでもあるだろう?」
「一方的に信用を金で得ているだけだろ、結局奴隷は都合よく使われる。それに変わりはない」
「…確かにミウの言う通りかもしれない。すまない、僕は奴隷には縁がなくて今までちゃんと考えたことがなかった」
「いや、気にしないでくれゼリウス。俺の方こそすまないな、言い過ぎた」
その時メティが無言で俺の手を握った。不安にさせてしまったか。
「メティ、ごめんな」
「ミウ…」
「ん〜とね、ミウくんの恋人の1人でウチの師匠の1人でもあるアニラちゃんって子が元奴隷でさ。かなり酷い扱いを受けてたのをミウくんが解放したんだ」
「な、そうだったのかい!?」
「そうでしたか…気分を害すのは当然ですね」
「ミウくん、帰る?」
「そうだな…」
「さあお次は希少種族、ダークエルフです!」
「えぇっ!?」
「なんだって!?」
「ダークエルフ…?」
「なにそれ、メティちゃん達とは違うの?」
俺達がそんなことを言っている間にステージに連れて来られたのは褐色の肌、銀色の長髪に臙脂色の瞳、そしてメティと同じ尖った長耳。あれがダークエルフという種族か。クールビューティーな雰囲気…セルビナに少し似てるかも。
「メティ、知ってる範囲で構わない、教えてくれ」
「はい。見ての通り私達とは肌や毛髪の色が異なるエルフの亜種族です。エルフより数が少なく、私も実際に見るのは初めてです…。それと、その…」
「ん?なんだメティ…」
「おい!そんなものを誰が欲しがるのだ!」
「そうだ、早く下げて次の奴隷を連れて来い!」
「縁起の悪い物を見せないでちょうだい!」
するとダークエルフの女の子は参加者達を睨みつけた。
「ひっ、なんて恐ろしい目だ」
「さっさと下げろ!」
「そうだそうだっ!」
なるほどな。獣人族や魔人族と似たような扱いか。こういうのには本当に嫌気が差す。まあそんなことより…
「メティ、ダークエルフには何か固有の能力があるのか?」
「里で聞いた話ですと、私達同様視力と聴力に長けており身体能力はバラつきがあるものの魔術の才はエルフ以上だとか」
「なるほどな…つまり後衛に向いてるってことか」
「ちょ、まさかミウくんっ」
俺は躊躇いなく札を挙げた。
「おおっ!あ、えーっと…他に札を挙げてる方はいないようなので83番の方、見事落札です!!」
「な、なにを考えているのだあの男は!?」
「あんなのを側に置くなんて物好きな人もいるのねぇ」
「ダークエルフが恐ろしくないのか」
などと参加者達は好き勝手言っている。正直自分でも俺は何しているんだと思っているくらいだが、どうしても放ってはおけなかった。それにこの子…何か縁のようなものを感じる。
「金も残り少ないし帰ろう」
「あ、ああ。そうだね」
「はい…帰りましょう」
「帰ろ帰ろ〜」
俺達はステージ裏に『治癒石と解毒石』とダークエルフの女の子を引き取りに行った。
金を支払い、彼女の首に着いている『奴隷の首輪』に魔力を記憶させた。これでこの子は俺に逆らうことはできなくなった。
「俺は冒険者のミウ、君は?」
「…」
俺を睨みつけてから外方を向いてしまった。
「あなた、口はきけますよねっ」
「メティ、俺は平気だからそんな恐い顔するな。美人が台無しだ」
そう言って手を引いて俺の方に身体を向けると、メティはときめきを帯びた眼差しで俺を見た。普通に可愛い。
俺達が見つめ合っているとミミルがため息を吐いた。
「はいはい、イチャイチャはそこまでにして宿に戻るよ〜」
「はははっ、相変わらず愛し合ってるな」
「愛し…合っている…?」
お、喋った。案外可愛い声をしているな。ダークエルフの女の子は物珍しそうに俺とメティを交互に見た。恐らく異種族同士が親しくするのを見たことがないのだろう。
俺達は宿に戻り受付で1人分の宿泊代を追加で払ってから食堂に向かった。
「何か食べたい物ある?え〜っと、ダークエルフちゃん」
「あの、お名前くらいは教えてもらえませんか」
「…ティオフィリア」
「おお、立派な名じゃないか」
「確かにそうだな」
「じゃあティオちゃんだね。お腹空いてるでしょ、適当に頼んじゃうから遠慮なく食べなよ〜」
「…」
暫くするとテーブルに様々な料理が運ばれてきた。
俺は大きめの皿に色んな料理を少しずつ盛り付けてティオに渡した。
ティオはすぐには手をつけなかったが俺達がガツガツ食べているのを見て、恐る恐る料理を口にすると、そこから火が点いたようにティオはバクバクと料理を食べた。余程お腹が空いていたのだろう。
「ティオさん、まだ食べれますか」
「…」
ティオは少し考えたあと無言で頷いた。
メティは嬉しそうに笑ってから追加で料理を頼んだ。
俺達4人は食べ終えたがティオはまだ食べ続けている。
「ティオちゃんよく食べるね〜」
「好きなだけ食べてくださいね」
「そうさ、遠慮は要らないよ」
「…ありがとう…ございます」
「食べ終わったら大浴場に行こう」
「ミウ、その前にティオさんの衣類を揃えたいのですが」
「そうだね、ウチらに任せてミウくん達は先に行っててよ」
「わかった、任せる」
「ではお先に失礼するよ」
俺とゼリウスは支払いを済ませてから大浴場に向かった。




