競売
ゼリウスが言うには残りの元勇者パーティー2人は現役の冒険者らしい。そして数ヶ月前にクエストで遠出をした時に『勇者の剣と盾』を持って行ったと言う。すると突如現れた飛竜に襲われ、なんとか逃げたものの勇者の武器を奪われてしまったらしい。なぜ武器なんて奪うのかと聞くと、そのドラゴンは変わった習性を持っているとか。魔導具や魔導武器を巣に持って帰るのだ。
飛竜の名は『ロブドラゴン』、聞く限りでは俺達が戦ってきたドラゴンに比べると劣っていそうだが油断も容赦もしない。位は低くてもドラゴンに変わりはないからな。
「そのロブドラゴンってやつの巣に行けば勇者くんの装備が手に入るってことなんだよね」
「その通りだよ。しかし…」
「何か問題があるのか?」
「ロブドラゴンの巣が在るのは『マリアネ連峰』、元勇者パーティーの2人…ノイルとネネアスは遠出したと言っただろう」
「ここからどれくらいかかるのですか」
「馬車で3週間ほどかかる。あくまで順調に進めた計算だけど」
「片道約3週間ってことか…」
「結構遠いよね〜」
「この際武器は諦めて神国を目指すかい?まだまだ先は長いんだ。僕は全然構わないから」
「いや、せっかく1つ回収できたんだ、どうせなら3つ揃えたい。2人はどう思う?」
「私はミウと同意見です」
「ウチも〜」
「本当にいいのかい?」
「水くさいぞゼリウス、仲間だろ」
「そうですよ」
「そうだよ〜」
「ありがとう、この恩は忘れないよ…。そういえば聖騎士について情報があるんだ」
「教えてくれ」
「現在聖騎士は戦争でも始めるのか兵を募って育成しているらしい。それと別世界…恐らく君達の大陸のことだろう、そこにいる魔族は滅ぼしたと公言しているそうだから今のところは安全なんじゃないかな」
安全…本当にそう言えるのか、魔王城を襲撃したあの聖騎士があの時魔王やイヴ達を逃がしたことに気付いてないとは思えない。
「どうしたのミウくん」
「ミウ、大丈夫ですか」
「何か引っかかるのかい?」
「ああ、安心するのは早い気がしてな」
「すまない、確かにそうだね」
「気にするなゼリウス、聖騎士の情報が手に入ったのは大きい。ありがとな」
「当然さ、僕らは仲間だろう」
「ふっ、そうだな」
「ウチらの住む大陸と連絡を取り合えたらいいんだけどね」
「そうだな、転送石さえ使えたら…」
「前に言ってましたね、確かこちらの大陸では使用できないとか」
「そうなんだよ〜、ただの石ころになっちゃった」
「物体を転送させる魔導具なら聞いたことがあるけど、残念ながら見たことはないな」
「あっ、もしかしたらオークションで出品されるかもよ」
「可能性はありますね」
「よし、気合いを入れて元手を増やすぞ」
「ああ!」
「そうだねっ」
「はいっ」
それから俺達はオークション開催日までなるべく報酬の高いクエストを選んでこなした。
そしてオークション当日、俺達4人は朝早くオークション会場に行き参加料を払って札を受け取った。
会場は都市の中心に在る闘技場で毎年行われている。
既に物凄い数の人が集まっていて、参加者以外にもただの見物客も多い。
そしていよいよ開始時刻になりオークションがスタートした。
手始めに希少な武器や防具、装飾品が1つずつ紹介され値段が付けられていったが、俺達は装備品は狙っていないのでスルーだ。
次に出て来たのは魔導書と魔導具、俺達は顔を見合ってから頷いた。ここからは集中して選定するぞ。
先ず出て来たのは『魅了魔法の魔導書』。対象の『心』を術者に夢中にさせるとか。当然術者と相手の魔力差、生命力や耐性によっては全く通用しない。故に実力のある者が会得しないと効果は期待できないものだ。しかし入手がとても困難な代物の様で次々と参加者は札を挙げていった。
「あんなもの欲しがる意味がわからないな〜」
「そうだな」
「使い手によりますからね、非力な貴族や富豪が手にしたところで宝の持ち腐れな気がします」
「その通りだよ。下手すれば一般人すら魅了できないからね」
次に出て来たのは『洗脳魔法の魔導書』。洗脳魔法は先の魅了魔法と効果はそんなに変わりないものだ。だがこちらの方が明らかに悪質な魔法だ。なんせ他人を好き勝手に操れるからな。金持ちはこういう物を欲している様でどんどん値が上がっていく。
「くだらないな」
「確かに〜」
「そうですね」
その後もいくつか魔導書が出品されたがどれも唆られるものではなかった。
そして遂にカートに乗せられ魔導具が運ばれてきた。現れたのは『解毒石』と『治癒石』のセット売り。解説によるとこれらは魔力を込めれば無限ではないものの永続的に使用可能な優れ物だとか。確かにそれぞれの魔法を扱えない冒険者にとってはかなり使える魔導具だ。エダロスに貰った魔結晶を使った転送石に近い物か。俺とミミルはイヴの恩恵があるがメティとゼリウスは毒に耐性がないから旅を続けるにあたって必要性を感じる。
。
「ミウくんあれどう?」
「欲しいな」
「値は上がってますが先の魔導書に比べたら安いものですね」
「様子を見ながら挙げてみるかい」
「ああ、そうしよう」
結局値はそんなに上がらなかったので俺達が落札した。
「やったね〜」
「なんだが楽しいですね」
「そうだな。まだまだ元手は残っているんだ、オークションを楽しむぞ」
「はいっ」
「そうだね〜」
「楽しもうっ」
その後も数々の珍しい魔導具が出たが惹かれる物はなかった。
そして魔導具の次に出て来た『商品』で急に会場は盛り上がった。




