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要望


「僕を『女神の聖槍』に加えていただけないでしょうか。ギルドには退職の旨を伝え、冒険者登録も済ませました」


そうきたか、ううむ…。


「お前の決意は認める。だが俺だけでは決められない、パーティーメンバーと話し合ってから返答させてくれ」

「もちろんです、待っています」


それから世間話や他愛のない話をしてからソロンと別れ俺は大浴場の外で待っていた。暫くするとミミルとメティが出て来たので歩きながらソロンの話をした。


その時メティがベタベタくっついてこなくなっていることに気付いた。


相変わらず熱い視線は送ってきてるが…と言うかなんか興奮してる様に見える、若干息が荒いしうっとりした表情だ。


「お風呂上がりのミウ…」

「ん?」

「い、いえなんでもありません!それよりソロンさんのこと、2人はどうお考えですか」

「う〜ん、取り敢えずウチは実力を見てみたいかな」

「流石だなミミル、俺も同意見だ」

「では彼の実力を見る場を設けないといけませんね」

「そうだな」

「だったらお試しで一緒にクエストに行くのとかどう?」

「ああ、そうするか」

「賛成です」


それから俺達は甘味屋の店員お薦めの店の1つに向かった。


「ここだな」

「大きなお店ですね」

「大衆食堂って感じだね〜」

「いらっしゃいませ!お好きな席にどーぞ!」


店員にそう言われ六人席に座った。


メティが俺の隣に座ると、なぜかミミルが両腕をテーブルに乗せて少し乗り出してから目を細めた。


「あっ、すいません!」

「どうしたんだ」

「ふぅ…あのねミウくん、実はメティちゃんにベタベタするのを控える様に言ったんだ。理由は最近のメティちゃん、気が緩んでるから。ミウくんなら解るよね」

「ああ、気の緩みで簡単に命を落とす…それが戦いというもの。イヴの教えだったな」

「アニラちゃんは規格外の強さだから許されてたみたいだけど、メティちゃんはそうはいかない」


手厳しい言葉だがミミルの思想は正しい。先の荒くれAと揉めた後、メティはより一層俺を好いてくれている。本来なら嬉しいことなのだが…ちゃんと切り替えが出来ていないと危険に晒される可能性がある。


「納得した。メティ、俺は君になにかあったら…」

「ミウくんストップ!メティちゃんが更に惚れ直しちゃうからこのタイミングで甘い言葉は無しっ」

「えっ、ああ…すまない」

「ただでさえ我慢してる状態なんだからこれ以上苦しめちゃ駄目だよ」

「わ、わかった」


ミミルの気持ちは分かるが…それだとメティが不憫で仕方ない。と言うかもう既に俯いてあからさまに落ち込んでしまっている。


「ごめんなさい、私のせいで…」

「よしわかった!メティ、あとで時間をくれ。2人きりで話したい。構わないなミミル」

「…もちろん、ウチはミウくんを信じてるから」

「ミウ、ありがとうございます」

「気にするな、さあ湿っぽい雰囲気はおしまいにして食事を楽しむぞ」

「そうだね〜」

「そうですねっ」


店員を呼んで料理と酒を注文して待っていると大柄な男が近寄って来た。こいつ、どこかで…ああ、荒くれBだ。


「よぉ、俺の名はフィガロ。あんたがミウか」

「そうだが、どこかで会ったか?」

「惚けるな、あの場に居たろ…まあいい」


こいつ、あの状況で周りの人を見ていたのか、しかも顔を覚えているとはなかなかの洞察力と記憶力だな。


「お前、姉御の誘いを断ったらしいな」

「アネゴ…?」


メティ、発音が可愛いぞ。ミミルは笑ってるけど。


「姉御ってヴァンナのことか」

「ああ。姉御があんなに誰かを気に入るのは珍しい…どんな野郎か見てみたくてな」


そうか、こいつはヴァンナのパーティー若しくはクランのメンバーか。


「ちょっと君さ、今からウチらは楽しい食事なの。邪魔しないでくれるかな〜」

「そいつは悪かったな、用が済んだらすぐ帰るからよ」

「用ってなんだ」

「俺と腕相撲しようぜ」

「えっ」

「はっ?」

「腕相撲…ですか?」


ミミルとメティはぽかんとしている。


一見くだらない事…だがしかしっ、こういう展開は少しワクワクする。


料理もまだ来ないし腕相撲くらいなら問題ないだろう。


「よし、その勝負…」

「もしよければ代わりに僕が相手をしよう」


聞き覚えのある声が俺の台詞を遮った。


「なんだ勇者かよ、てめぇに用はねぇ」

「じゃあ自分が代わりに相手するッスよ。こう見えて腕相撲には自信あるッス」

「ちっ、邪魔な奴等だ。おいお前、また今度だ、いいな」

「ああ、楽しみにしてるよ」


にやりと笑ってからフィガロは去って行った。口は悪いがただの荒くれ者ではなさそうだ。まああのヴァンナの仲間なら納得だな、案外良い奴なのかも。


「ありがとう、助かった」

「当然のことをしたまでさ」

「先輩は困ってる人を放っておけないッス」

「へぇ~、立派だね」

「そうですね」

「もしよければご一緒してもいいかい」

「ああ、構わないぞ」

「そうそう、恩人だからね〜」

「ありがとう、それじゃ座らせてもらうよ。さあゼノも」

「はい、失礼するッス」


乾杯して飲み食いしながら色んな話を聞いた。


その中でも少し気になる話があった。大昔、この地で暴れ回った末に当時の勇者が封印したとされる『悪魔』の話だ。


俺達の大陸では怪人族と悪魔族は聖騎士に葬られたとされている。その封印された『悪魔』っていうのは悪魔族のことなのだろうか、それともまた別の種族なのか…。


「なるほど、勇者というのは家系なんですね」

「そう、代々受け継がれるものなんだが…悲しいことに僕の代で終わりという訳さ」

「自分は認めないッス!」

「いやゼノ、認めないと言われても…」

「絶対認めないッス!勇者という存在が消えるなんて駄目ッス!」

「なんでゼノはそんなに勇者に拘ってるんだ」

「自分と自分の家族の命の恩人だからッス。生きる希望を与えてくれた偉大な存在だからッス」

「それ、なんとなくわかります。私もこの2人に命を救われた身なので」

「そうか、やはり君達は僕が思っていた通りの人間のようだ…。そこで頼みがある」

「頼み?」


ゼリウスは爽やかに微笑んでから言った。


「ああ。もしよかったらこのゼノを君達のパーティーに入れてくれないか」

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