表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
103/190

逆上


「どうしますか」

「町から離れ過ぎないように注意して歩いて回ろう」

「そうだね、なんだかワクワクするね〜」

「はいっ」


今日は取り敢えずヴェザレフの町付近の森や岩場を探索した。俺達は売れそうな素材を見つけ次第片っ端から回収していった。


「もうお昼過ぎでしょうか」

「そうだな」

「あっという間だね」

「2人ともお腹空いたか」

「空いた〜」

「同じくです」

「俺もだ。どこか安全そうな場所で昼休憩にしよう」

「りょーかい」

「はいっ」


その後も引き続き歩き回りながら素材を集めた。途中で小型の魔物数種類と遭遇したが待ってましたと言わんばかりにミミルが一突きで始末していった。


「そろそろ背負い袋がいっぱいだな。今日はこんなものか」

「そうですね、引き上げましょう」

「ねえねえミウくんっ」

「分かってる。ギルドで換金したら温泉に行くぞ」

「やった!さすがミウくんわかってるね〜」

「温泉ですか!いいですねっ」


町に向かって歩いていると見覚えのある顔と出くわした、荒くれAだ。仲間を引き連れている。


「なんだてめぇら、見かけねぇ顔だな」


俺は一刻も早く風呂に入りたいがために無視して行こうとした。すると荒くれAに行く手を阻まれた。


「おいおい、無視はねぇだろ」

「悪いけど急いでるんだ」


そう言って荒くれAの脇をすり抜けたが手下が先回りして道を塞いだ。困ったな、問題は起こしたくないんだが…そして早く湯船に浸かりたい。


「いいご身分だなぁ、女2人と冒険者ごっこかい」


「ミウくん、殺してその辺に埋めておく?」


そう耳打ちされて驚いた。おいおい、まるでガールズ譲りの血の気だな。


「だ、駄目だ。死体が見つかれば騒ぎになる」

「そっか〜」

「私にお任せください」

「えっ、メティちゃん…」


「申し訳ありませんが私達は急いでいるので道を開けてください」

「あぁ?エルフごときが偉そうに。大好きな里に帰ってお仲間の耳長達とコソコソと生活してろよ!」

「えっ…」


えっ!?メティ、前に他種族に対する差別や偏見なんて無いって言ってたよな…もしかしてメティが世間知らずなだけだったのか。


「ったく、気分を害したぜ、おいモヤシ野郎、悪いが痛めつけさせてもらうぞ。もちろん女どもは後でたっぷり楽しませていただくぜっ」

「ぎゃはは!さすがヴラドさん、理不尽っすねぇ!」


ニヤニヤしながら手下どもは俺を囲んだ。仕方ない、死なない程度に…


「どう… そんな… ことを… ですか」


ん?よく聞き取れなかった。


メティが俯きながら荒くれAの前に立って掌を向けた。


「あぁ!?聞こえねぇぞ!その長い耳斬り落とされてぇの…か…あがっ…!?」


「どうしてそんな酷いことを言うんですかっ!!」


メティは鬼の形相で向けていた掌を閉じた。


「ぐっ…が…あ…」


これは、息ができていない。もしかして荒くれAの周囲の酸素を操っているのか?そんなの風魔法の範疇を越えているぞ。


「メティちゃんっ!」


ミミルの一言でメティはハッとして腕を下げた。


「がはぁっ!はぁっ、はぁっ、はぁっ!」


荒くれAは膝をつきギリギリの呼吸をしていている。手下どもはすっかり気後れし後退りして今にも逃げ出しそうだ。


参ったな…これはもう恐怖で収めるしかないか。俺は荒くれAと目線を合わせるように片膝をついた。


「はぁっ、はぁ…ひいっ!」

「今ここで何かあったか?」

「な、なにを言って…」

「粒っ」 ビシッ。

「ぎゃあああ〜っ!!」


俺は荒くれAのつま先に弱めに『粒』を撃ち込んだ。


「今ここで何かあったか聞いている」

「なな、何もなかった!」

「そうか、察しが良くて助かる。ところであんた、また同じ目に合いたくなかったらこれからはエルフを怒らせない方がいいぞ。わかったな」

「わ、わかった!今後は気をつける!本当だっ!」

「信じてるぞ、さあもう行け」


荒くれA達は逃げる様に岩場の方へ去って行った。なにかのクエストに行くのだろうか。


ドサッ。 「うぅ…私はなんてことを…」


メティが座り込んで泣きだしてしまった。直ぐにミミルがしゃがんでメティの背中を慰める様に擦った。


「メティちゃんは悪くないよ」

「そうだぞメティ、むしろ感謝している」

「えっ」

「メティがああしなかったら俺とミミルはあいつらを皆殺しにしていた。そんなことをしたらお尋ね者になってまともに旅を続けられなかっただろう、だから礼を言う」

「そうだよメティちゃん、ありがとね」

「ミミル、ミウ…」

「ほらミウくん、ハグでもキスでもして早く涙を止めてあげて」

「そうだな」

「えっ…」


俺は両膝をついてメティを抱き締めながら頭を優しく撫でた。


「大丈夫だ、大丈夫。メティは俺達を止めてくれたんだ」

「…はい」


「ゴホンッ」


数分経ってミミルが咳払いをした。


「あっ、すいません!もう平気ですっ、落ち着きましたっ」

「そうか」

「じゃあ気を取り直していざ温泉へ〜!」

「そうだな、でもギルドが先だぞ」

「そうですね、行きましょう」


ギルドで換金した後、俺達は町の大浴場に向かった。


「じゃあまたあとでな」

「はい」

「またね〜」


ミミル達と別れ脱衣場に入って服を脱いでいると見知った顔を見付けた。


「ソロン」

「あっ、ミウさん」

「さっきギルドで今日は休みって聞いたが、まさかこんな所で会うとはな」

「奇遇ですね。僕お風呂が好きで休日は必ず来てるんですよ」

「そうなのか、俺も風呂は大好きだ」

「そうでしたかっ」


そんな訳でソロンと一緒に大きな石造りの浴槽に入ってお湯に浸かった。


あぁ~これこれ、やっぱり風呂に浸かるって最高だな。


「ミウさん。僕、あれから母と話したんです」

「そうか」

「予想通り反対されましたが、結局は折れてくれて…まあ快く送り出してくれることはないでしょうね」


ソロンは無理やり作ってみせた笑顔で俺を見た。


「それで…実はミウさんに折り入って相談があるのですが」


一転してソロンは真面目な表情で畏まって話し出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ