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「僕、実は冒険者を目指していたんです」

「今は目指していないのか」

「諦めようかと思っています」

「どうしてだ」

「母に猛反対されていて…それに僕は属性魔法を持っていません」

「母親はどうして反対してるんだ?」

「父が冒険者で、旅の途中で命を落としたからです」

「なるほどな」

「諦めきれずに剣の腕を磨いていますが、そろそろ潮時かな…と思いまして」

「後悔はないのか」

「それは…」


ソロンは俯いて唇を噛み締めた。


「まあ母親のことは置いといて、属性魔法を持っているいないは関係ないと思うんだが」

「高ランクの冒険者の大半は属性魔法を持っていると聞きました。なので…」

「属性魔法を持っていない者は数ある一般魔法のどれかにずば抜けて得意なものが存在する」

「えっ!?そうなんですか?」

「ああ、名前は言えないが属性魔法を持たずに生まれ、Sランク冒険者にまで登り詰めた奴を知っている。因みにそいつは身体強化魔法の扱いに長けている」


これはルシガルのことだ。それにポルメネだって支援魔法と結界魔法を得意としていた。


恐らく属性魔法を持たずして生まれた者は別の何かしらの魔法の才を持っている。俺はそう考えている…と言うかそう信じている。でなければ不平等だからな。


「え、Sランクですか!?信じられないです」

「信じろとは言わないが逆に属性魔法を持っていても低ランクのままの冒険者も存在するだろ」

「…確かにそうですね」

「ソロン、もしも本気で冒険者になりたいのなら一歩踏み出してみろ。諦めるにはお前はまだ若い、もったいないと俺は思う。…なんて最低ランクの冒険者が偉そうに言える立場じゃないがな」


そう言って笑ってみせるとソロンは真面目な表情で首を横に振った。


「そんなことはありません!ここまで自身のことを出会ったばかりの方に話したのは初めてで…あの、助言をありがとうございます!僕、もう一度母と話し合ってみます」


「そうか…」


「ハッハッハ!いいねぇあんた!」


驚いた、なんという豪快な笑い方なんだ。いつの間にか大剣を背負った大柄な女性が隣に立っていた。たくましい女戦士って感じだな。


「すまないねぇ、盗み聞かせてもらったよ!なんせあんた達、初対面にも関わらず面白い会話をしていたからねぇ」

「ヴァンナさん、いつの間に!?」


確かに警戒していなかったとはいえ気配をあまり感じなかった。そこそこの実力者か。


「あたいはヴァンナ。あんた、名前は何ていうんだい?」

「Fランク冒険者のミウだ」

「ふぅん…Fランクには見えないけどねぇ」


腕組みをしながら俺をじっくり見てヴァンナはそう言った。まさか疑われているのか?実力者に目をつけられるのは避けたいところだ。


「ライセンス見るか」

「いや、遠慮するよ。それよりあんたみたいな男がいるなんてねぇ。ただのお人好しとも少し違う…どうだい、うちのクランに入らないかい」

「クラン?」

「クランとは複数のパーティーが同盟を結んで構成された団体、組織のことを指します」

「なるほどな。うちのクランと言ったな、じゃああんたが頭か」

「ハッハッハ!察しがいいねぇ、気に入ったよ。その通り、あたいがクランリーダーさ。今仲間を増やしていてねぇ、あんたさえよければ…」


「彼はクランには入りません」


メティが俺とヴァンナの間に割って入ってきてぴしゃりと言い切った。


「ほう、エルフかい」

「リクトメティアと申します。ミウ、話が済んだのならこの女性にはお引き取りを…」

「ちょっとメティちゃん、落ち着いて」

「ん、なんだいあんたも仲間かい?」

「そうだよ。ウチはミミルっていいます」

「悪いなヴァンナ、俺達はクランに加入するつもりはないんだ」

「そりゃ残念だね。まあ気が変わったらいつでも言いなよ、暫くはこの町を拠点に活動してるからさ!そんじゃあねっ!」


そう言ってヴァンナは去っていった。


「なかなか呼びに来ないので心配しましたよ」

「ああ、2人ともごめんな」

「すいません。僕が引き留めてしまったばかりに」

「気にするなソロン。それよりヴァンナってランク何だ?」

「Dランクです、この辺では割と名が知られている方ですよ。腕利きでありながら人望の厚い方で、着実にクランを拡大させています」

「そうなのか」

「へぇ~そうなんだ」

「それよりEランクのクエストを見せていただけますか」


あれ、メティ…なんか怒ってる?


「あ、はい!こちらになります」


クエスト表を見ながら俺達は話し合い、先ずは手頃な採取クエストを受注した。取り敢えずこの辺の地形と生態系を知っておきたい…それに旅の疲れもまだ癒えていないからな。


「確かに受注致しました。指定日時や期限はないのでご自身のペースで行って下さい。それではお気を付けて」

「ああ。またよろしくな」

「あ、ミウさん!」

「どうした」

「今日はその…話を聞いて頂いた上に貴重な助言まで…兎に角ありがとうございました!」


ソロンに深々と頭を下げられて俺は少し困惑した。そこまで感謝されるとは意外だった…まあでも感謝されて悪い気はしないな。


「ミウくんは同姓にもモテるよね〜」


「…」


いてててて。


無言で俺の腕を力強く掴むメティ、ご機嫌斜めだな…これはまずい。


「メティ、あとで時間をくれるか」

「はい、喜んで差し上げます」


ミミルは呆れる様に鼻で笑ってから言った。


「ねぇミウくん、メティちゃんとのデートは構わないんだけど、その前に勇者の居る鍛冶屋に行きたいな〜」


「で、デート…!」


いや今更照れるのかメティよ。前にもデートしたのに…もしかして『デート』って単語に耐性が無いのだろうか。


「元々鍛冶屋には行くつもりだったからな。勇者の居る鍛冶屋に行こう」

「やった〜」


そうして俺達は件の鍛冶屋に向かった。

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