疑問
翌日は山を登るのに丸1日使った。更に頂上に近付くとワイバーンが現れ戦闘になった。
相手は1体、メティが言うには恐らく群れから逸れた個体らしい。そいつは俺達を見つけるなり即座に上空から襲いかかってきた。
「シーフナス!」 ゴォォォォ!
「ギャウ!?」
「回転式杭っ!」 ドシュッ!
メティが竜巻を発生させてワイバーンの態勢を崩し俺が撃ち抜いた。実に呆気ない。
メティには弓もあるしミミルの槍術と雷の属性魔法もある。俺達のパーティーは飛行型の魔物に強いかもしれない。
「メティちゃん、ワイバーンってドラゴンなの?」
「はい、いちおう下位の飛竜です。基本的には群れで行動するのですが、はぐれてしまったようですね」
「へぇ~、メティちゃんって本当に物知りだよね」
「うふふ。里に居た頃、冒険者に憧れて様々な書物を読み漁っていたので」
「俺達はメティの知識にかなり救われている。ありがとな」
メティは頬を染めて体をふるふるさせてから黙って俺の腕に抱き着いた。む、胸が。
それを見てミミルが少し呆れた様子で鼻息を吐いた。
山頂からヴェザレフの町が見えた。見た感じだとテッサの町の倍近くの大きさだ。
非常に楽しみだ、なぜなら念願の温泉がこの町にはあるらしい。お湯に浸かれるなんて待ち遠しい限りだ。
それから2日掛けて下山して漸く町に到着した。
「着いた〜!」
「着きましたね」
「ああ。先ずは宿屋に行って部屋を取って荷物を置こう」
「はいっ」
「りょーかい」
町に入って宿屋を探そうと歩いていると鍛冶屋を見付けてしまった。
「あ~!鍛冶屋だっ、槍置いてるかな」
「駄目ですよミミル、先ずは宿屋です」
「今は我慢だミミル、宿を見つけて荷物を置いてギルドに行ってから…」
「おいコラどこ見て歩いてんだっ!」
「てめぇこそちゃんと前見て歩けコラァッ!」
凄い、急に目の前で荒くれ者同士のベタな喧嘩が勃発した。
「なんだと殺すぞオラァ!」
「やってみろクソがっ!」
胸ぐら掴み合って今にも始まりそうだ。どちらも大柄であの身なりからして冒険者か傭兵ってところだな。
「どっちが勝つかな〜」
「ミウ、止めた方がいいのでは」
「いや、なるべく面倒事は避けたい」
既にギャラリーがかなり集まって来ている、できれば目立ちたくない。
すると1人の青年が2人を引き剥がした。服装からして鍛冶屋の店員か。
「二人とも、店の前でやめてくれないか。それに喧嘩はよくない」
「あぁ!?」
「おっ、誰かと思えば勇者様じゃないですか」
勇者だと、あの青年が?荒くれAが急に敬語を…やはりそれなりに慕われてるのだろうか。
バキィ!
そう思った矢先、勇者とやらは荒くれAに横っ面を殴られた。続けて腹を殴られたあと前蹴りをくらって倒れた。
「ヘヘッ、さすが勇者様。代わりに傷めつけさせてくれるなんてよっ!」
ドゴォ!
倒れている所に容赦の無い蹴り、すると荒くれBは呆れて去っていった。
荒くれAは更に蹴りをくらわせようとした。
「やめるっス!」
その時、勇者と同じ格好をした若者が止めに入った。
それにしても町の連中は誰も止めようとしないんだな。俺と同じで面倒事は避けたいのか。
「なんだクソガキ、まだ俺様の鬱憤は晴れてねぇんだよっ!」
「ヴラドさん!その辺にしてくださいっ!」
そう言ってまた別の若者が止めに入った。あの制服は、ギルド職員か…?
「ああん、ソロンじゃねぇか」
「今日はいいクエストがあるんです。そんな人達放っておいてギルドに行きましょう」
「おっ、そうなのか!」
荒くれAは勇者達を見てニヤけた後ギルド職員と去って行った。
「先輩、大丈夫っスか」
「ああ、平気だよゼノ。ありがとう」
2人は鍛冶屋に入って行き、いつの間にかギャラリーも散っていた。それにしても…
「勇者って今は鍛冶屋なの?」
「そうみたいですね」
「2人とも、気付いたか」
「うん」
「はい」
「止めに入らずに正解だったな。さあ宿屋を探そう」
良い感じの宿屋を見付けたのでニ部屋取って荷物を置いてから冒険者ギルドに向かった。
ギルドの場所は宿屋の主人に教えてもらった。
「全体的にテッサの町よりも大きいですね」
「そうだね〜、お店も多いからゆっくり見て回りたいな」
「先ずはクエストを見ておきたい、それから装備を整えよう」
「わかりました」
「りょーかい」
ギルド内は冒険者で溢れていた。この雰囲気と熱気、なんだかワクワクしてきた。
クエスト表を見せてもらおうと受付に行くと見覚えのある人物が居た。
「ようこそヴェザレフのギルドへ」
ああ、さっきの荒くれAをなだめてた若者か、やはりギルド職員だったか。先ほども気になったのだが…
「君、名前は?」
「えっ?ソロンと申します」
「そうか。俺はミウ、Fランク冒険者だ」
そう言って俺は冒険者ライセンスを見せた。
「ミウさんですね、Fランクですとこちらのクエストなんていかがで…」
「ソロンも冒険者なのか」
「えっ、何故ですか」
「身体を鍛えているだろ、それに長年武器を握っている様な手をしている」
「よく見てますね、でも僕はただのギルド職員ですよ」
「そうか」
何か言いたげな表情でソロンはミミルとメティをチラチラと見た。
「メティちゃん、ウチらは外で待ってようか」
「はい、話が終わったら呼びに来てくださいね」
「わかった」
気を利かせてくれた2人は出口に向かった。
「それでソロン、なにか話したいことがあるなら聞くぞ」
「いいんですか」
「構わない、もちろん無理にとは言わないが」
「…ではお言葉に甘えます」
「ああ、聞かせてくれ」




