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大凶


ワイルドウルフの尻尾と証明書をカウンターに置くと、


「えぇーっ!凄いっ!」


とギルド内に声が響いた。


お陰で他の冒険者どもがぞろぞろと近寄って来た。


どうやらCランクとは言えワイルドウルフは賢く、逃走されて追加報酬を得るのは難しいものらしい。


確かにあの速力で散らばって逃げられたら魔法使いだろうが弓使いだろうが全て仕留めるのはキツそうだ。


それをEランク新人冒険者の俺がソロでやってのけたんだ、そりゃ驚くよな。


報酬を渡す時にお姉さんがカウンターから身を乗り出し耳元で「約束覚えてますか」と囁いた。


「勿論です。今晩はご都合いかがですか」


「大丈夫です、美味しいお店を知っているのでお店選びは任せて下さい。18時頃には別の子と交代するので」


「ありがとうございます。ではそのくらいの時間に迎えに来ますね」


「はい、楽しみにしながらお仕事頑張りますねっ」


うわ、可愛い。


しかし何だこの展開は。予想以上の収入とプチモテ期到来…嬉しい反面順調過ぎて少し怖いな。


それぞれのランクのクエストを複数人だと10回達成、単独なら1回達成でランクアップする。聞いた話ではAランクからはランクアップの条件が厳しくなるそうだ。そんなこんなでCランククエストを単独でこなした俺は飛び級でCランク冒険者になった。


「おい、あんた」


げっ、昨日絡んできた臭い冒険者。


「なんだ?」


「大した腕だな。昨日の無礼の詫びも兼ねて1杯奢らせてくれ」


おお、わざわざそんなことを言うとは案外良い奴だな。


「ありがとう、お言葉に甘えるよ。その代わり2杯目は俺の奢りだ」


臭い冒険者はニカッと笑った。


他の奴等も集まってきて少々盛り上がってしまった。前世では飲み会とか苦手だったけど、こういうも悪くないな。


それからギルドカウンターのお姉さん…名前はリュヒアさんと楽しく濃密な夜を過ごした俺は翌朝、再びギルドに来ている。


どうやらこの町ではCランク以上のクエストは無いみたいだ。


理由としてはこの地域には危険度の高い魔物は出現することが殆ど無いからだ。なのでCランクになった冒険者は大抵活動拠点を変える為にロークスの町を出て北に在る『王都アルディア』に行くそうだ。


まあ俺はまだまだ滞在するつもりだけど。


村の皆のおかげでお金には困っていないが、Cランククエストをこなしてお金をもっと貯めながら居眠り亭のテルラちゃんとギルドカウンターのリュヒアさんと夜のクエストを楽しむ…この生活で充分満足している。


テルラちゃんとリュヒアさんに聞いた話だとどうもこの世界は女性蔑視、亭主関白が主流らしい。もちろん力のある女性冒険者などは別だが。


特に冒険者や傭兵や騎士など一般人より力を持ってる者程そういう奴が多いらしい。なので俺みたいに柔和で優しく接してくれる男は割りと珍しいとか。確かにギルドの連中見てるとそんな感じするかも。


それにしてもこの現状って冒険者なのに殆ど冒険してないよな。まあ募集クエストも減ってきたしもう少しお金を貯めたらぼちぼち活動拠点を変えることを検討しよう。


そんなある日、物凄い音がして飛び起きた。


外から沢山の悲鳴が聞こえる。あの日を思い出し、軽い動悸と眩暈がしたが頬を叩き深呼吸して落ち着かせ短剣ベルトを巻いて外に出た。


「魔人族だ逃げろ!」

「王都の騎士はまだ来ないのか!」

「助けてくれ!」


叫びながら人々が逃げて行く。町の入り口に何人か倒れている。


近付くと曲がった黒い角に瑠璃色の毛髪の女の魔人が立っていた。また魔人族か…魔人絡みのクエストはBランク以上と聞いたことがある。何故ポマリス村やロークスの町に魔人族が現れるんだ?


「よくも俺の仲間を!うおおー!」


大剣を持った冒険者が女魔人に斬り掛かったが一瞬で首を切り落とされた。あれは居合い抜き…?速すぎて刀身が見えなかったが奴の腰に有るのは見た目が完全に日本刀だ。


女魔人が柄に触れた。まずい!奴が振った刀から魔力の斬撃が放たれた。その先に在る建物には逃げ遅れた母子が隠れている。


俺は素早く移動し親子の前に立ち創造魔法の鎧を纏って斬撃を弾いたが攻撃範囲が広く防ぎ切れず、衝撃で建物が切り裂かれ倒壊した。


親子に覆い被さる様にして何とか守りきって瓦礫から親子を連れ出すと、女魔人がこちらをじっと見ていた。


なんだ?何を見てるんだ?


その時、町の外から馬の駆ける音と甲冑の音が聞こえてきた。


「そこまでだ!邪悪なる魔人族め!」


馬に又借り鎧を纏った騎士が20人程居た。あれが王都の騎士団か、強そうだな。


後方で息を潜めていた町の人々が歓喜した。と言うことはやはり彼らは腕が立つのか。


そんな期待も虚しく馬から降りる前に女魔人の一振の斬擊で8人が鎧ごと切り捨てられた。


街の人々は再び沈黙し、絶望していた。


残りの騎士達が剣と盾を構え女魔人を取り囲んだが、魔人は一瞬で間合いを詰めて目の前の2人の首を落とした後向きを変えもう2人の首も落とした。


すると騎士の1人が突然叫んだ。


「あああ、その刀剣と抜刀術に青い髪、まさか『魔王六大凶牙』四の牙、濃藍のセルビナ!何故こんな所に魔王直属の精鋭が…!」


「ひぃぃ、勝てる訳がない!」

「駄目だ、逃げろ!」


騎士達の戦意は喪失した様だ。


六大凶牙?っていうのは魔王軍の幹部みたいなものか…兎に角被害が増す前にどうにかしないと。


「貴様等に訪ねる。ポマリス村で無惨な亡骸になっていた私の部下をやったのは誰だっ」


初めて喋った…ってポマリス村を襲ったあいつの上司だと。いちおう死体は埋めておいた筈なのに…。


いやそれよりこいつの狙いは俺じゃないか、他の人は関係ない。


「俺だ!」


セルビナとやらが振り返る。

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