第三十話 一目惚れ③
「あなたが六人目ですね。一応、調書を取らせてもらいます、通報があったので。でも、ご心配なく。みなさん同様、すぐに終わりますから」
部屋の真ん中にある事務机では、年配の取調官が向かい合って座る女性の一人にいくつか決まりごとのようなことを言っていた。
「取られたものはない。身体的な被害もない。その他、特にこれといった犯罪行為もない。でも、突然、男につかみかかられて、ネックレスを見られた、ということでいいですよね?」
「はい………」
「分かりました、これで終了です」
取調官はそれ以上は何も聞かず、書類に何事かを書いていた。
その様子を、壁側に並べられた椅子に座っている他の女性たちが見ていた。
と、その時、三玲が部屋に入ってきた。
取調官はノックもなく入室してきた態度を訝しんだものの、上着のロゴを見るやそそくさと席を立ってドアの向こうに消えた。
三玲は椅子に座っている六人を順番に見てから言った。
「全員、ネックレスを見せてもらえないかしら?」
女性たちはいまいち事情が飲み込めない様子ながらも、言われるがままにそれぞれが身につけていたネックレスを外して手の平に乗せた。
様々な形やデザインに一通り目を通す三玲。
どれも違うわ………。
「ありがとう、もう帰ってもいいわ」
探しているものがないことを見て取った三玲がそう言うと、女性たちもいそいそと退出した。
そのあとで三玲も部屋を出ると、ドアの脇では広野と古川が煙たそうな目を向けていた。
が、三玲は気にすることなく二人の前を横切ると廊下を歩いていった。
そして、その三玲を、男を抱えたケンゴが追いかけた。
◇ ◇ ◇
扉の閉まったエレベーターが下降を始めると、階数表示灯がゆっくりと下階に移動していく。
五階、四階、三階、二階………。
狭い空間に二人きりだったが、ケンゴは言葉を発することができず、ただ三玲の後ろ姿を見つめていた。
やがて一階に着くと扉が開き、お互い無言のままエントランスを通り過ぎる。
そして、署の正面玄関を出ると、三玲のあとに続くようにケンゴも西側駐車場に進んだ。
ケンゴさん………?
と、その折、ちょうど外出から戻ってきた平林アヤが東側駐車場からやってきて、二人の姿を見つけた。
が、男を抱えているケンゴが、いつになく複雑な表情をしているのが気になった。
しかも、その前を歩く女性の上着の肩口には、テレビでよく見るロゴマーク。
だからアヤは署内には入らず、正面玄関を横切って西側駐車場に向かった。
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