第二十一話 おとりのエサ
楠川駅から電車で四十五分ほどの大広下駅の改札を出たノボルは、自分のあとから三人が出てきたのを確認した。
きっと、他社から派遣されてきた人たちだろう。
昨日のように一人ではないことが分かり、とりあえずはホッとした。
だが、それは束の間の安堵だった。
駅前の荒み具合を見るほどに、またイヤな予感が頭を過ぎったからだ。
こんなところでする仕事は、間違いなく難儀なものに違いないはずだった。
しかも、閑散とする家並みの中には、かなりの数の空き家が目立っていた。
いずれは無人と化してしまうだろう場所で、害虫駆除………?
ノボルがそんな疑問を覚えていた時、ロータリーにとまっていた車からスーツ姿の二人の男が下りてきた。
一人はこの地区の担当職員のようで、首からネームカードを下げていたが、仕立てのいいスーツを着て、値の張りそうな腕時計をしていた。
もう一人は今回の案件の依頼人のようだったが、さらに高価そうな服を着て、体中に豪華な金目のものを身につけていた。
二人とも、どう見てもこの場所には不釣り合いな出で立ちだった。
ひょっとすると、“四区成り金”………?
ノボルは、さらに気持ちが沈んでいくのを感じた。
四区内には、誰も住んでいないエリアが無数にあった。
生活ができなくて住む家を手放さざるを得ない人が後を絶たなかったからだ。
だから住人のいなくなった一帯は荒れ放題で、空き家の窓や壁は無残にも壊されたままになっていた。
また諸事情により、人目を避けることを余儀なくされた人たちの隠れ家として使われることも多々あったため、治安状況も極めて悪かった。
ところが、得るものが少ないという理由で、警察も四区の事件には積極的に関与しようとはしなかった。
その結果、取り締まりの目が届かないグレーゾーンとなり、様々な不法行為が横行していると噂されていた。
今日の現場は、そんな界隈にごく近いところのようだった。
だからこそ、一攫千金も夢じゃない。
つまり、今回の依頼人は、金儲けを続けるための場所を必要としており、担当職員はそのおこぼれに与っている人。
ノボルは今日の案件の背景が垣間見えたような気がしてますます重い心境になりながらも、視線を二人の横に向けた。
それぞれ手にバットや鉄パイプを持っている複数の男たちがいる。
人相も悪い。
しかも、どの面々も、早く体を動かしたくてウズウズしているように見える。
そして、その後ろには、人間が一人すっぽりと入れるほどの大きな檻。
あんなものが必要だということは、よほど大きな害虫なのだろうか………?
だが、それほどのサイズの虫が、果たしているのか?
「仕事を始める前に、全員、この書類にサインをしてもらう!」
と、ノボルがそんな状況に戸惑っていると、担当職員がやや命令口調で言った。
【業務受託者側にもしもの事態が起きても、依頼側は一切の責任を負わないものとする】
書類に記されている一文を見て、さらなる不信感を覚えたノボルだったが、それは他の三人も同じようだった。
だが、誰もお互いに話をしない。
どの現場でも、ほとんどそうだった。
スリーメールワーカーは、人との関わりで傷つき、どこにも居場所を見い出せなくなったがゆえに、最終的に社会の最底辺に流れ着いた労働者でもあったからだ。
だからノボルたちが無言でサインしたのを見届けると、また担当職員が言った。
「お前たちの仕事は、この辺りの空き家のどこかに住みついた害虫をおびき出すことだ! 捕獲はこちらで用意したスタッフが行う! 以上だ!」
一方的な説明が終わるや、出番を待っていたかのように男たちが凶器を高くかかげて声を上げた。
「おい! さっさと行け! おとりのエサどもが!」
男たちは三人一組になり、我先にそれぞれノボルたちの中から一人ずつ引き連れて空き家が連なるほうへと向かった。
エサ………!?
どうやら駆除ではなく、それが今回の本当の仕事内容のようだった。
悪い予感が的中してしまったが、今さらどうすることもできない。
「お前もだ! このエサ野郎が!」
ノボルは同行することになった三人組に手荒く追い立てられつつ、人気のない一帯へと進んで行った。
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