第八話 表向きの目的①
エレベーターの扉が開くと、三階のフロアの壁に沿って装置や機器類が並んでいたが、その多くは埃をかぶっていた。
唯一稼働しているのが宇宙調査用の観測機と、そのデータを表示している中型のモニターだけだった。
モニターの中央には地球と、その左右それぞれに岩石らしきものが一つずつ表示されている。
左側のものは遠ざかり、右側のものは接近してきているようだった。
そして、ボタンやスイッチ類が複雑に配置された観測機の操作盤の前には、二人のスタッフがいた。
入力端末らしきものにテンポ悪く数値を打ち込んでいる村下ダイスケと、苛立たしげにそれをのぞき込んでいる福原マナブ。
「どうだ?」
「今、やっています。何度試してみてもダメなので、出るかどうかは分かりませんけど」
ダイスケは佐山にそう答えると、またチマチマと入力端末を指で叩いた。
すると、右側の岩石から地球のわずかに上をかすめていく点線と、予想到達時刻が表示された。
岩石は約十四時間後、朝方の六時半前後に地球の近くを横切るようだった。
「どうやら、出たようです」
ダイスケがヤレヤレといった感じで言い、思い通りにならない機械にしかめっ面を向けた。
「予測軌道からすると、二つ目のものも彗星のようだな………」
佐山がそれを確認すると、横にいる三玲が何かを探すようにモニター全面に目を通したあとで言った。
「他のものは観測できていないようね?」
「見ての通りです。本当に何もないのか、観測機が不調で捉えられていないのかは分かりませんけど」
と、ダイスケがそう答えた直後、突然、電源が落ちてモニターが真っ暗になった。
「まただ、これで四回目ですよ………」
ダイスケとしては、つい、そんな愚痴もこぼしたくなる。
それでも面倒くさそうに何度か操作盤を叩くと、観測機内部から再起動を始めるような音が聞こえてくる。
そして、ほどなくすると、モタモタとすっきりしない反応ながらモニターが復旧した。
「いやはや、ポンコツ過ぎますよ」
ダイスケは、もうお手上げ、と言わんばかりに大げさに両手を上げてみせたが、すかさずマナブが釘を刺した。
「お前がダラダラやっているからだろ! ちゃんと仕事をしろ!」
「そうよ、マナブさんの言う通りだわ! 全然シャキっとしていないもの!」
それを聞いたダイスケはムカッときたものの、ヒナコへの反論を一旦置いておき、まずはマナブに言った。
「あのですね、マナブさん、何度も言いますけど、この仕事は俺たち二人が担当なんです。それなのに、俺ばっかり働いている気がするんですが………?」
「仕方ないだろ! 俺は機械が苦手なんだよ!」
ところが、やはりいつもの答えが返ってくるだけだったので、それ以上は何も言わなかった。
さすがのダイスケも、強面で年上のマナブには遠慮気味だったからだ。
その分ヒナコに対しては黙っていなかった。
「そういうことだから、ヒナコ、代わりにお前が手伝ってくれてもいいんじゃないのか?」
「無理よ、私も機械はダメなんだから!」
「そういう問題じゃないと思うけど? 俺だって、いきなりここに異動になって、マニュアルもないのにこんな古めかしい観測機を操作しろって言われたところで、出来るわけないに決まっているさ。しかも、耐え難いほどの劣悪な待遇。まったく仕事量に見合っていないヒドい低賃金だから、頑張ろうとする気持ちさえ起こらないね」
ダイスケはそう言うと、疲れている風をよそおって自分で肩を揉み始めた。
「いやはや、まったく同感だぜ」
すると、今度はカツヤが便乗した。
「どんなことであれ、上からの指示ならやらなきゃならない。それが仕事ってもんだろ!」
が、年配者のマナブに睨まれるように言われると、ダイスケ同様、カツヤも口を閉ざすしかなかった。
「そう言うなら、マナブさんも、少しは仕事をしてくださいよ………」
「やっているだろ! これが二人の仕事だと言うなら、お前が怠けないように見張ることが俺の役目だ!」
「随分楽そうな仕事ですよね? それで同じ報酬っていうのは、まったく納得できないんですけど………」
それでも、何とか頑張ってダイスケが控えめに皮肉ると、マナブが凄味を利かせて言い返した。
「ごちゃごちゃ言っていないで、仕事に集中しろ!」
そして、そんなスタッフたちのやり取りをずっと見ていた佐山としては、その言い分も分からないでもなかった。
察するに、丁寧な事前説明もないまま今の仕事を無理矢理あてがわれた感があるため、少なからず任務に対する疑問や不審感を抱いていると思えたからだ。
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