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第七話 発症者たち①

 頑丈な重たい鉄製の扉を開けて中に入ると、ひんやりとしたカビくさい空気が鼻にまとわりつく。


 砂子坂観測所の地下には、かつて倉庫として使われていた広いスペースがあったが、今は鉄格子で仕切られた狭い個室がびっしりと並んでいた。


 そして、その三分の一ほどは、中腰で奇妙な鳴き声を上げている人たちが入れられていた。


 カエル化現象の発症者たちだった。


 どのようなきっかけでそうなるのかは分からなかったが、突然、カエルに似た挙動をし始める。


 ところが、数日も経てば、まさにケロッと元の自分に戻り、発症していた時のことは覚えていないのだった。


 その一方で、残りの三分の二はバタフライ現象の発症者たちが占めており、すでに空き部屋は数えるほどしかなかった。


「一杯になるのは時間の問題だな………」


 それを見ながら、佐山が腕を組んで言った。


 彫りの深い端正な容貌に、広い肩幅。


 状況はあまり芳しくなかったが、声のトーンは落ち着いていた。


 どんな事態の中でも相手に不安を抱かせるような言い方をしない。


 それが佐山のポリシーでもあったからだった。


「何か方法を考えなければ………」

「方法って、どうするんですか? カエル化現象はますます増えているんですけど?」


 そんな佐山に食ってかかるように言ったカツヤに、ヒナコがすぐに反応する。


「だから、長官が何とかしてくれるって言っているじゃない!」


 二十代半ばのヒナコは、肩口にかかる髪のカールがまだ幼さを残していた。


「それ以上に、バタフライ現象もますます増えてくるはずよ。今はまだ不定期で、一日に一ヶ所だけで済んでいるけど、今後は立て続けに発生するようになってくるわ。しかも、同時多発的に」


 さらに、三玲が確信めいた口調でそう言うと、佐山は真剣な面持ちで腕を組み直した。


「確かに、そっちも気にかかるな………何故、ネックレスを狙うのか、目的も依然分からないままだからな………」


 三玲の言う通り、バタフライ現象も、最近、頻繁に発生するようになってきていた。


 原因は不明とされていたが、カエル化現象と同様に、突然、ある症状を発症する。


 それは目が暗い色を帯びて虚ろになり、手当り次第に人々に襲いかかってネックレスを物色するというものだった。


 ところが、どういうわけか、ただ確かめるだけで終わり、時折、腕で羽をはためかせるような仕草をする。


 しかも、発症者は症状が解けることはなかった。


 ただ、事件性が低いということもあり、警察が積極的に関与することはなかった。


 それに対して、砂子坂観測所はどちらの現象の解決も主たる任務としていたので、通報を受けたら連絡をしてくるようになっていた。


「何が気にかかるんですか? 俺はまったく何とも思いません。むしろ、カエル化現象よりどうでもいいって感じですけど?」


 カツヤは三玲にではなく、佐山に向かって挑発的な言い方をした。


「どうでもいいわけないでしょ! どっちも私たちが対処しなければならないことなんだから!」

「二兎を追う者は一兎をも得ずっていう言葉があるのを知らないのか? 体は一つしかないんだ、無駄な追いかけっこはしたくないんだよ。それに、そもそも、そっちは正式な任務じゃなかったはずだろ?」

「長官がそう決めたんだから、もう私たちの任務なのよ! それに、あなたが追いかけているのは女の子でしょ! 本当に屁理屈ばかりね!」

「はいはい、分かりましたよ、お利口さんのヒナコさん」


 カツヤにいつもの決めゼリフを言われたヒナコは、悔しそうに頬をふくらませた。


 やや褐色がかった肌にむさくるしい長髪のカツヤは、ヒナコよりやや年上の二十代後半。


 佐山はといえばすでに五十を過ぎており、観測所のトップの地位にある。


 にもかかわらず、反抗的な態度を取り続ける若者を受け入れていたのは、そうせざるを得なかったからでもあった。


 それが人々を隔てる感情的な構図だからだった。

ここまで読んでいただきありがとうございます!


“何となくいい感じ”と思われましたら、広告の下にある「ブックマーク」と「☆☆☆☆☆」のポイント評価をいただけると嬉しいです^^


これからも、皆さまに楽しんでいただける作品を作っていきますので、よろしくお願いしますm(_ _)m

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