第六話 二つの謎の現象②
「発症者を確保して!」
『了解!』
またもや即応したのは二人だけだった。
『カツヤ! 聞こえなかったの!』
ところが、そのすぐあとでヒナコの声が聞こえた。
『何………よく聞こ………無線の調子が………』
渡辺カツヤの間のびした声が、途切れ途切れに届いてくる。
あえてマイク部分をこすって不調を演出しているのか、雑音まで混じっている。
『ふざけていないで、手伝って! 私一人では重くて無理よ!』
どうやら、すでにヒナコは発症者のもとに駆けつけているようだった。
『だから言って………無線の調子が………よく聞こえない………』
『ヒナコ、カツヤは放っておけ! あとは俺がやる!』
『タツオさん、お願いします!』
そのやり取りから、二人が拘束に取りかかっている様子だと分かった。
『カツヤ! いつまでそんなことをしているの! 若い女の子と話をしている場合じゃないんだから!』
『おいおい、よく見てみろよ? 俺はこのお嬢様方がケガをしないように護衛をしているんだぜ?』
『嘘ばっかり! 今、メモしたのは連絡先でしょ! 任務中にそんなことをしているなんて、信じられないわ!』
『だから言っただろ? 俺はちゃんと仕事をしているって』
真剣さがにじみ出ているヒナコに対して、カツヤの声は何とも不真面目だった。
しかも言い訳に気が取られて、不調だと言っていた無線も正常になっていた。
『発症者の確保が完了しました!』
「了解よ、引き上げるわ、戻ってきて」
三玲はヒナコの報告に答えると、今度は腰の左側につけていた無線機に手をかけた。
『おい、カツヤ! 任務は終了した! 行くぞ! これは俺が預かる!』
『あっ、タツさん! 勘弁してくださいよ! やっとの思いでゲットしたん………!』
そして、タツオにせがむカツヤの声が聞こえる中で電源を切ると、右手に持っている麻酔銃をホルダーにしまった。
が、そのあとで、急に腕が動かなくなる。
しばしば発生する不具合だった。
また………?
それでも左手で右肘のあたりを何度か叩くと、再び正常に戻った。
深刻な不具合じゃなければいいけど………。
と、三玲がそんなことを思いながら車に乗り込もうとした時、八百屋の陰でもつれ合うようにしている男女を見つけた。
カップルが寄り添っている風でもなければ、恋人同士がケンカをしている感じでもない。
どうやら、男が何度か腕を羽のようにはためかせたあとで、三つ編みの女性の首元に掴みかかろうとしているようだった。
………!?
それを見た三玲は再び麻酔銃を取り出して構えると、数秒とかからずに狙いを定めて撃ち、人混みをかき分けながら八百屋に向かった。
「主任………!?」
その三玲の姿をちょうどタツオと一緒に戻ってきたヒナコが目で追うや、すぐにあとに続くように駆け出した。
「何かあったのかもしれないぞ!?」
タツオもそう言うと、抱えてきた発症者をノロノロと歩いて来るカツヤに押しつけてヒナコを追いかけた。
「お前はそこにいろ!」
「言われなくても、そのつもりですよ」
カツヤは振り向きざまに叫んだタツオにそう答えるや、観測所のロゴのステッカーが貼られたバンのドアを開けた。
それから、発症者をシートの上に寝かせると、やる気なさげに地べたに座り込んだ。
その間にも三玲は、八百屋の前を一気に横切るや、三つ編みの女性のもとまで行った。
胸元にはクローバーの形のネックレス。
違う………!?
三玲が真っ先にそれを確認すると、ヒナコとタツオがやってきた。
「今度は“バタフライ現象”ですか………!?」
「そうよ」
ヒナコにそう答えた三玲は、三つ編みの女性に声をかけた。
「あなたは、もう行っていいわ」
そして、女性がオドオドした様子で去って行くと、倒れて眠っている男を見てから言った。
「この発症者も車まで運んで」
「了解です!」
タツオは即座に応じると、男を担ぎ上げた。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
“何となくいい感じ”と思われましたら、広告の下にある「ブックマーク」と「☆☆☆☆☆」のポイント評価をいただけると嬉しいです^^
これからも、皆さまに楽しんでいただける作品を作っていきますので、よろしくお願いしますm(_ _)m