伝説の物語
王様の娘が城下町を歩いていた。するとそこにいきなり、暴漢が襲ってきた。町の住民のハンサムで勇気のある青年が、身を挺して暴漢から王の娘を守った。娘は青年のことをたいそう気に入り、あなたと結婚したいと言った。青年はそれを承諾した。
青年と王の娘との結婚は、サクセスストーリーとして町の人々の間で熱狂的な支持を受けた。王様は政権の座を退き、青年がその国の王となった。
「ねえ、来週パーティを開きましょう。素敵なドレスと宝石を買っておいたので、またお披露目したいの」
「だけど先週、やったばかりだろう。ドレスや宝石だって買い過ぎじゃないのか」
「何言ってるの!私たち二人の物語は、サクセスストーリーの象徴なのよ。一生幸せで過ごしたと、後世に伝える義務があるの。また増税をすればいいじゃない!」
若き王は若き姫に言われて、ハッとなった。そうだった、おれたち二人の物語は人々の間で熱狂的な支持を受け、子どもたちの間でも絵本となって読みつがれ、夢の象徴として語られるのであった。二人がいつまでも幸せで過ごしたという、当然の前提から逃げ出してどうする。王はつまらぬことで、姫を咎めた自分を恥じた。
王の圧政に耐えかねた民衆が、一斉蜂起をしようとした。しかし事前に察知されて、関係者は全員厳しい拷問を受けた後で処刑された。伝説の物語を汚すことが許されるはずもないから、当然の処置といえた。そんな夾雑物を絵本に載せるはずもなかった。
その後、二人は死ぬまで幸せに過ごし物語は無事に完了した。