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君色 ~君は何色に染まる?~  作者: 林 凛夏
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7.運命の歯車が動き始めた瞬間

「へ?」

 意識がはっきりしてきて、周囲の様子を把握しきった私の口から出てきたのはこれ以上ないくらい腑抜けた声。

 うん。私、やばい。

 何がやばいって、一番やばいのは『ここがどこなのかを正確に認識できないこと』で、どうしてやばいかっていうと『握手会のブースが分からない』ってこと。

「どうしよう……」

 う~ん、まずそもそもアイドル達の名前を知ったとしても、顔が分からないし。

 それに分かってても見えないし。ん~、困った。



 テキトーにどこかの列に並べば今日のミッションは完了、だよね。

 近くでいいから、列をまず見付けて……。

「すみません。この列って誰の握手待ちですか?」

 まだ神様は私を見捨ててなかったみたいだ。運よくすぐそこに長めの列があって、前の人に声をかけてみる。

「あ、こんにちは。ここは紫陽くんの列だよ。あなたも紫陽くんオシなの?」

 あ、優し気なお姉さんって感じの人だ。

 空気がやわらかい。話しかけた人がこの人で良かったかもいれない。

「いえ。私は友人に連れられて初めて来たので誰も知らないんですよ……」

 正直にそのままを伝える。たぶんこの人には中途半端な言い回しはダメな気がするな。

 正解の答え方を探して、その人が不快な思いをしないように考えて考えて会話する。

「あっ、そうなんだ!じゃあここに並びなよ。紫陽くんって誰に対してもファンサ神がかってるから、初見さんでも十分楽しめると思うよ~!私のオシだしねww」

 あぁ、このひとのも『好き』があるんだ。

 自分にとっての大切なものとおんなじくらいの熱量を持っている、何かが。

「へ~、そうなんですね。じゃあ私ここに並ばせてもらいますね!!」

 私にはないもの。

 ううん、つくっちゃダメなもの。

 でも心から楽しそうに話す。はじけるような笑顔と一緒に。

 ま、正直助かったし……。

「そう来なくっちゃ!」

ふ ふ、うれしそう。よかった、正解だったみたいで。

「あっ、自己紹介忘れてた。私の名前、優香ゆうかって言います。優しい、香りってかいて優香、です」

 ふんわり笑う彼女は、名前通りの優しい香りをその身にまとっていたらしい。

「ピッタリな名前ですね!」


「ありがと!あなたは?」

「私は美しい曲と書いて美曲みわって言います」

 自分で紹介するのに恥ずかしいな、これ。

 自分で美しい、とかナルシストじゃないんだし。

 由紀がこの場所にいたら何て言うかな?思いっきり笑われるかな?

「きれいな名前。美曲の姿まんま名前を表しているみたいね」

 目の前の彼女は笑わなかった。一ミリも。

「美曲に会えてよかった、よろしく」

 なんだか少しこそばゆかったけど、

「よろしくお願いします」

 差し出された右手をそっと重ねて二人の熱を交わし合う。


 それからたぶん20分くらいかな?

 ちょっとしたことを話しながら、途中途中で何回か笑い合って―――。



「あっ、そろそろ順番くるっ!!」

 そんな彼女のはじける声がふと耳をさして。

 彼女が自分の順番が来たことを知らせる。



「じゃあね、美曲!

 また会えたら声かけてね!絶対私も声かけるから」

 元気な笑顔と一緒に紫陽くんがいるであろうテントの中に進んでいく。

「うん!じゃあね!楽しんで!」

 優香と会えてよかったな、なんて何度思ったか分からないことを思いながら、目前に迫った紫陽くんとの握手を待つ。



 どうしよう。なんだか緊張してきた。

 心なしか、手先が冷えてきた感じがする。

 たぶん、大丈夫だとは思うけど……、もし、万が一“私”のことを知っていたら?

 ううん、だめだめ、そんなにマイナスに考えないようにしないと。

 自分で自分の首を絞めないことが大切だって学んだんだから、ほら、気を引き締めて。

「次の人、どうぞ~」

 ちょうど気を入れなおしていた時、彼の声が私を呼んだ。

 返事をするものなのか、ここからどう動くのか、一瞬頭が真っ白になってしまったから、

「あ~、そのまま入ってきて~」

 彼の声が続いて私を招くまで、何をしていたかぼんやりとしか覚えていない。

 けど、

「す、すみません」

 そう謝りながら入っていった先で、彼――紫陽が細く息を吸い込んだ音をきいたことは不思議と覚えている。


「っ!」

 大きく開かれた目に映るのは、“普通じゃない”私の姿。

 きっと私の時間はこの握手会トキから再び動き始めたんだと思う。


本当に大変お待たせしました!

更新が遅くなってしまってすみません。

なんだかんだと課題に追われているうちに、時間が過ぎてしまいました……。

次からは更新する曜日を指定していきたいと思います……。

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