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君色 ~君は何色に染まる?~  作者: 林 凛夏
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5.王子様(すき)を探して

「とりあえずさ、誰のところ行くのか、今回は選択式だから選んでもらってもいい?メンバー知らない中あれなんだけど」

 歯切れ悪いながらも、由紀はいつも通りに戻りつつあった。

 明るくて話しかけやすい、太陽みたいに笑う由紀に。

 なんだかさっきの空気を消し去ろうとしてくれているみたいだ。

「ん-、誰がどうとかあるの?正直裸眼だからどんなに顔面が良くても判別つかない気がする……」

 私も彼女にのっかって意識的に明るい声を出す。

 楽しんでるよ、楽しみにしてるよって体全体から幸せオーラを出すイメージで。

「ああー、そっか、そうだった。裸眼だもんね……。じゃあ残念だけど」


「って言うとでも思った?」

「へ?」

 シリアスな声だったから落ち込んでるのかな?と思って、気にしないで、と言おうとしていた時。

 なぜかふふん、と自慢げに鼻を鳴らす彼女の声がきこえてきて。

「推しはね、耳からもうまれるのよ」

 とてつもなくホラーなことを言い始めた。

「推しはそこにいるだけで、ううんいなくてもこの世に存在しているってだけで人類を救うのよっ!今日なんて同じ空間に入れるだけでもう幸せ以外の何物でもないのよ!!それが何、姿が見えないからってあきらめる?そんなことあっていいわけないじゃない!!耳から、香りから、なんなら握手するんだからその手の感触から、推しを感じなさい。今日の今日は五感を――美曲の場合は視覚以外のすべてを研ぎ澄ますのよっ!」

 開いた口がふさがらないとはまさにこのことだ。

 由紀は自分の世界にいってしまって戻ってくる気配がない。のに、私が止められるわけもない。

 詰んだ。

 これは詰んだ。

 推しが耳からうまれる?耳ってそんな機能もってたの?

 それに推しが人類を救うなんて大げさな。世界が崩壊しているわけでもあるまいし。



「は~、ついつい推しへの愛を語ってしまったけど……。要するに私が言いたいことは、自分の“好き”を見つけてほしいってことよ。美曲の勘でも、好きな色がイメージカラーになってるからでもなんでも理由はいいの。ただ美曲にとっての“好き”は何?ってだけ」

 由紀は少し揺れる瞳で必死に訴えかけてくる。

「口に出さなくてもいいの、自分の好きを見つけてあげて」

 星空に向かって願うように、純粋な彼女の声が私の胸をうつ。

 その瞬間にようやっと呆けて開きっぱなしだった口を静かに閉じる。



トントントン

『美曲はどっちに行きたいの?』

トントントン

『美曲がしたいことは何?』

トントントン

『美曲の好きなものは何?』



 頭の奥で昔どこかできいた音が静かに響く。

「……」

 何か言葉にすることが正解だとわかっているのに、声がのどにはりついたように出てこない。

 私の好きって何だったのだろう。

 私がしたいことって何だったのだろう。

 きっとむかしはあったはずなのに、今はわからなくなってしまった。

 そんな答えの出ない考えがぐるぐる回って、ほんの数秒なのに何十分にも感じられて。

「さ、じゃちょっと歩くか!」

 そんな心なしか明るさを倍にした声ではっ、といつのまにか止めていた息を吐きだす。

「こっちだからね~」

 私の様子をうかがっていた由紀がまた音を紡いで。

 重たい沈黙をあえてひっぱらないように彼女は私の手をそっと包むように握りなおしてから、

「誰に握手してもらうにしても、ここにいるとグッズ販売目当ての人と動線かぶっちゃうからね」

 小さな子どもに語りかけるようにやさしい声をそっと出す。

 壊れ物を綿でやさしくくるむように。

 こぼれそうな何かをそっとすくいあげるように


「私の――私たちSCAIRファンの王子様たちが首をなが~くして待ってるから!!」

 はじける声の裏側にある感情に見えないふりをして、私はまた笑う。

「王子様っておとぎ話じゃないんだからw」

「え~、私はずっと王子様待ってるんですけど~?」

「えwwうそ」

「うわーひどw少女の夢壊した~」

「え、少女って年齢だっけ?ww」

 ごめんね、由紀。

 そして……ありがとう。

 やっぱり由紀が友達でよかった。

SCAIRの出番が全然やってこない……。

あ~、そろそろ出してって怒ってますね…。一部すねてるメンバーもいる模様。

はてさて、彼らの出番は何話目になるんでしょうか?

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