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君色 ~君は何色に染まる?~  作者: 林 凛夏
5/12

4.月のような私の友人

「えー、推しかぁ……。私あんまり芸能人に興味なかったから、このグループ、えとSCAIRだっけ?も由紀ゆきから聞いて初めて知ったからなぁ」


 私の友人、美曲みわは恐ろしいくらいに綺麗な子だ。

 いつも学校でしている格好は、一体何がどうなっているのかわからないくらい地味だけど。

 よくよく観察していた私だから気付いたんだろう。

 彼女がものすんごい美人でかわいい女の子なんだっていうことに。

 本人が無自覚だからなのか、今日は()()握手会なのにいつものように、無難な服装をしてきた彼女についつい

「もったいない!」

と叫んでしまったのはしょうがないことだと思う。美曲のかわいさのせいなんだから。

 化粧道具持っていっといてよかった、ほんと。

 せっかくの美貌をその他大勢に埋もれさせてしまうところだった。



 美曲はよく困ったように笑う。

 なんというか、無理やり気を遣わせないように笑っているというか。

 こういう言い方はどうなんだろう、と思うけれど……。

 彼女は本音で話してくれていないと思う。

 今の答え方もそう。

「え、あ、そうなの!?てっきり即決で行く、って言ってくれたからこのグループのファンなのかと思ってた。ごめんね、嫌じゃなかった?」

と私が驚いて、思ったことをそのまま言ったとしても、返ってくるのは

「行くって言ったのは由紀ともっと仲良くなりたいって思ったからだよ」

 まるでこう返したら満点です、と言われる答えを選択してるだけの言葉たち。

 美曲との距離は縮まらない。

 ずぅっとおんなじまま。

 初めて話しかけたときに感じた気持ちと何一つ変わらない。

 彼女はずっと自分の声を殺し続けている。

 意識せずともそうすることが彼女の癖になっているんだろう。


「美曲、無理してない?」

 本心をほんのちょっとの、たった少しの欠片カケラでもいいから声に出して欲しい。

 そんな願いをこめて彼女に問いかけるけれど。

「無理してないよ。連れてきてくれてありがとう、由紀」

 彼女はやっぱり完璧な”正解”をいう。

 にっこり、と他の人から見ると本当に心から楽しんでいるとしか感じられない笑顔をうかべながら。

 もう、これ以上はだめだ。何を聞いても、本音は出てこないのだろう。

 そう、あきらめてしまいたくなる。

 彼女の声なのに!ほかの誰でもない、貴女の声なのに!!

 殺してしまうんだ……。


 口から零れ落ちたのは自分でも呆れるくらいにに沈んだ声。

「そっかぁ」

 吐息に交じって上手く音になっていなくてよかった。

 その音を打ち消すように、美曲が望む反応になるように私は少し仮面をかぶる。

「そっか……、そっかっ!ふぅ~、よかったぁ」

 明るく何度も何度も繰り返して自分を落ち着かせる。

 大丈夫、頑張れる、美曲に向かってちゃんと笑える。そういう()()()()()という仮面を。

 そうだ、もしかしたら気のせいなのかもしれない。

 美曲は本音で話してくれているのかもしれない。

 うん、きっとそうだ、そうに違いない。 前向きに考えろ、彼女を信じるんだ。

 繰り返しくりかえし頭の中で唱え続ける。

 “私は、大丈夫”




 すぅ~。

 深呼吸を一つ、大きくしすぎない程度に。

 新しい空気を肺に入れ込む。

 そして、言葉にして一気に吐き出す。

「なら、私が今日SCAIRの魅力を語りつくしてあげる!美曲に好きになってもらうために。いやぁ、絶対好きになるよ!なんせ何の情報ももたず、ファンでもない美曲が初めて推しとご対面するんだもんね。推しの力がいかに偉大か、その身をもって知るといいよ!」

 推しは神様なんだからっ!

 そう豪語するように。

 一瞬周りから奇異の目で見られた気もするけど、ま、気にしない。

 大切なのは推しの重要性を美曲に知ってもらうことなんだから!

 そうやって不安に感じてることとか、美曲の反応が怖いとかいうことは全部頭の中から振り落とす。

「今日来てよかった、って言ってくれる分の働きはしないとね!SCAIRのファンの一員として!」

 この後推しに会えるんだから、これくらい言ってもいいよね。

 本音で言ってくれたんじゃなくても、ここに来てくれてるだけで私は感謝しなくちゃいけないんだから。

「お、じゃ、お手並み拝見といたしましょうか?」

 私の雰囲気にのせられたのか、普段使わない言い回しをするから、

「ぷぷー、何様ww」

 ついつい笑ってしまったけれど。

「えーんとじゃぁ、美曲様で!」

 さっきよりは楽しそうに笑っているからいっか。

 なんて、まるで彼女の笑顔が夜にさしこんだ青白い細く途切れそうな月光みたいであっても、

「おかしww」

 今、この瞬間が思い出になるのは絶対変わらない。


「はー。笑った笑った。……と、そろそろ進むか。美曲、手、離さないようにね」

 このつないだ手のほのかなぬくもりは、私の一生の宝物になるんだから。


「……と、…き」

 つないだ手の先で小さな音が零れ落ちたけれど

「ん?」

 美曲が何でもない、と困ったように笑うから

「そっか」

 私もまた彼女のように笑ってみせた。

由紀みたいな子って、すごく空気を感じやすいというか、たぶん人よりも人の痛みに敏感なんですよね。

自分の気持ちも、他の人の感情も大切にする…、でもそれでいてまだ不安定で。

私が描いていく彼女がこれからどうなっていくのか、そんな視点で読んでもらうと感じ方が変わるかもしれません。

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