2.ゆれる視界、繋がれた右手
更新お待たせしました!
そろそろアイドル達を出したい……。
もう少しで出てくるかな?
「え、ちょ、待って!」
喉から細い声とも息ともいえない音を発しながら、由紀の引っ張るほうへと連行されていく私。
「待てない~」
どこかふわふわしている由紀の声がかすかに聞こえた気もするけど……。
何だろう、すごい人の波に飲み込まれている気がする。
コンタクトをもっていなかったから、景色を楽しんで現実逃避―――なんてこともできなくて。
ただただ由紀を信じて、この手が離れないように祈っているだけだった。
どこの道をどう進んでいるのかすらわからず、一人じゃ帰れないなぁ…なんてせめて思考だけでも遠くに逃がしたくて。
「美曲、ここで電車のるよ~」
って声で結局は現実に引き戻されたんだけど。
「う、うん」
ちょっと反応がおくれてしまったのはご愛嬌ということで許してほしい。
「美曲、もしかして緊張してる?」
あまりにも挙動不審だったのだろう、私の様子を見かねて彼女はその口を開いた。
「え、と。うん、まぁ…?」
ぼんやりとしたはっきりしない返事。
あんまりしっくりくる感じの応答すらできなくなってる私は、一方でどこか冷静だった。
あ、私、人混みに弱いんだ。
あー、どうしよう、周りみてリフレッシュ、っていうのもできないし、これ以上由紀に心配かけさせたくないし。
「たぶん、緊張してる……」
よし、そういうことにしておこう。何か考えているのか由紀は私に尋ねたきり、黙ったままだし。
もしかしたら緊張もしてるのかもしれないしね。
「美曲、こっちと変わろう」
グイッと私の手をひいて由紀の立ち位置と交換させられる。
その瞬間、ふわっと澄んだ外の空気が入り込んできて、
「人の匂い、ここなら少ないでしょ」
ちょっとすねたように言う彼女は
「ちゃんと言ってよね、人混み苦手だ、とか」
そういって私にそっと寄り添った。
ガタンゴトン、と電車に揺られ、由紀のぶっきらぼうな温かなやさしさにふれながらゆっくり時間が過ぎていく。
「ねぇ由紀」
彼女は答えないけれど。
きっと彼女にはきこえてると信じて小さな声で感謝を伝える。
由紀が友達になってくれてうれしいよ、と
「ありがとう」
と。
電車に揺られていた時間はたぶんほんの数分にも満たないわずかだったんだと思う。
でも、ふと気付いたときに握られていた右手から伝わる由紀の不器用なやさしさは今でもずっと覚えている。
「着いたよ~」
変に間延びしたゆるい言い方で由紀はどこかソワソワし始める。
電車を降りてから会場に向かって歩き始めた瞬間から、つないだ手の先に満面の笑みの彼女がいるんだろうな、って予想できるくらいはしゃいでいる。
「ふぃ~、すごい人だねぇ」
いい汗かいた~、と緊張し始めてるそぶりをかき消すように彼女は話し続ける。
「ね。美曲って誰推しとかあったけ?私はね、陽華くん推しなんだ~」
テンションがぐんぐんあがってるんだな、きっと。
次から次へとぽんぽん話題がふってくる。
まるでポップコーンのように音をたててはねているみたいだ。
そんなにも好きなんだ、このグループ。いいなぁ、私も心の底から好きなもの、ほしいな。
「み~わ、おーい、話きいてる?」
「ん?えと、ごめん何?」
由紀の雰囲気に影響されて私もふわふわし始めていたんだ、と顔のすぐ真ん前で手をブンブンされることによって気付く。
「んもう、話聞いてないんじゃん。ま、いいけど。美曲は好きな人とかいないの?って話してたんだけど」
「んぇ!?」
「なによ、そんなに驚くことある?美曲だって好きなメンバーの一人や二人いるでしょ?」
あ。ああ、なんだびっくりした。アイドルの話か。
てっきり恋バナでもし始めたかと思った。
「め、メンバーの話ね」
「それ以外に何があるのよ?」
たどたどしく聞き返すと、“何を当たり前のことを”と言わんばかりにきょとんとした声を上げる由紀に、
「いや、あの…、普通に恋バナかと……」
と弱々しい声で続けると
「えっ!あ、なるほど、そういうこと!」
急に頭の中の回路がつながったようで、彼女は一度立ち止まった。
「ふふ、恋バナはまたいつかね」
今度はうって変わってからかいの色を含ませた声でそう言った後、
「で、だれ推しなの?」
ずずい、と顔を近づけて再び私に聞いた。
アイドル達登場までまだもう少しかかりそうです……。
もともとこの小説、ノートに書いていたんですが、パソコンで打ち直していくと登場人物により深みが出るというか…、なんとなくもっとおもしろいものができそうな予感がしてます!
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