11.
悪魔の囁きにも似たマネージャーさんの笑声にあらがえることもなく、私は彼の示す扉の中へと足を踏み入れた。
そこには別世界が広がっていた。
白い大理石でうめつくされた玄関に、部屋へ続いているであろう長い廊下。
玄関には滑らかな手触りの木でつくられた靴入れがあり、そこには男性物のスニーカーがきっちりと並べられている。
靴入れの上には花瓶に生けられた花々がひっそりと、それでいてその場に調和した美しさを演出している。
ちらほらと置かれている小物類は誰かの趣味なのだろうか。
ウサギに、クマに、あ、ここにはシカまでいる。
並べかたに規則性があるようには見えないし、何なら少しそこだけういてみえるけど、これはこれでおもしろい。
「キョロキョロして、そんなに物珍しいものでもありますか?」
喉の奥で少し笑いながら、一足先にあがっているマネージャーさんが声をかける。
「ここ、広いですね……」
「まぁ、メンバー四人が住むだけにしては広いんですけどね。でも逆にまさかこんな住宅地にアイドルが住んでるなんて、周囲は思わないでしょうね」
少し私の様子に呆れた色をまぜながら声を続ける。
「さ、中に入ちゃってください。ここで長話は……」