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君色 ~君は何色に染まる?~  作者: 林 凛夏
10/12

9.はじめまして

「でね、陽華くんってさ――」

 由紀の話はつらつらと続いていって。

 まぁ、長いからざっくりまとめると、いかに陽華君はかっこよくて、それでいて紳士で素晴らしい存在なのかって話。

 私は楽しそうに話す彼女の横顔を眺めながら、今日来たのはよかったことで、大切な思い出になるんだろうなってふんわり思っていた。

「美曲、今日来てくれてありがとうね」

「え、あ、うん。どういたしまして。こちらこそ誘ってくれてありがとう」

「あ、今ちょっと違うこと考えてたでしょ~。さては私の話、ききながしてたな~?」

「ん~、ききながしてないよ~。ただ、今日がいつか思い出になっててあの日はこんなことしたんだなぁ。楽しかったなぁ……って思い出すんだろうなって。感慨深くて」

 由紀からしてみたら当たり前のことかもしれないけど、私はこうやって誰かと遊ぶこと、ましてや手をつなぐことなんてしてこなかった。

 そうやってすることは罪だと自分に言い聞かせてきた。

 だから、今日由紀の手の、心のあたたかさを知ってこうやって笑い合えることがなんだかどの宝石にも負けず劣らず輝いて見えた。

「感慨深いって、感想でそう言う人初めて見たw」

 彼女はくすくす笑って肩を揺らしながら、最後はひまわりのような笑顔を見せて。

「また、来ようね。約束」

 そう言って自分の小指を私の小指にからめて、

「ゆびきりげんまん、ウソついたら針千本の~ます。ゆびきった!!」

 ゆびきりをした。

「ちょっと~。私の指勝手に使わないでよ~」

「へへ、いいでしょこのくらい。へるもんじゃないし」

「そーだけどさー」

 いつか、この軽い会話が私にっての日常会話になればいいな。

 ポンポンつづく、ふわっふわのキャッチボール。




「美曲、そういえば」

 ふと思い出したように由紀がことばをつむぐ。

「美曲が握手し終わった後、すぐ近くでぼーっとしてたじゃん」

「え、あぁ、そうだね。由紀と連絡とる手段なかったからね」

「そーゆーことははやく言うこと!ってそれもそうなんだけど……」

 ふと彼女の顔が陰る。言いにくそうにして、口をもごもごさせている。

 なんだか、珍しいものを見ている気がする。

 さっきまであんなに白熱していた彼女が、口を閉ざしていること――それ自体が私の眼には不思議にうつる。

「美曲、もしかしてさ」

 大きく息を吸って、はいて。

 彼女が口を再び開けた瞬間。

「ご歓談中すみません、貴女は美曲さん、で間違いないでしょうか?」

 どこかで聞き覚えのあるテノールが鼓膜を揺らした。



「ええと。そう、ですけど?」

 状況が全くつかめない。

 横に立つ由紀は口を大きく開けたまま固まってしまっているし、目の前に突然現れたスーツ姿の男性に面識はない。

 声だけはどこかで――あぁ、アナウンスできいたのか。

 心地よいテノール。低すぎもせず、高すぎもしない、けれどもどこか若さを感じる声。

「では美曲さん、初めまして。私、渡邊プロダクション所属の渡邊わたなべ りゅうと申します。SCAIRのマネジャーをやっております」

「はじめ、まして」

 情報量が多すぎる。

 なんとか挨拶だけはできる状態だけど、そもそも私に話しかけた理由が分からない。

 この人は芸能事務所に勤める人だってことは分かった。うん、だんだんわかってきた。

 でもなんだってそんな人が……?

「こちらお受け取りください」

 目の前に出されたのはきれいに、そして品よく装飾された名刺。

 そこには『渡邊プロダクション SCAIRマネージャー 渡邊 柳』とだけ書かれている。

 ううん、もしかすると白昼夢かもしれない。

 そうだ、だってありえない。

 うんうん、なるほど、だからさっきから由紀は一言も話していないんだ。

「美曲さん、単刀直入にいいます」



「芸能界へ入りませんか?」

 その言葉をきいたとたんに、思考がクリアになった。

 あぁ、これはスカウトで、私は()()芸能界へ招待されたのだ、と。

「芸能界、ですか」

「はい、貴女には芸能界で輝く素質があります。立っているだけで視線を集めることができることに加えてその容姿。芸能界ならば貴方が生まれ持った素質を上手く使うことができる」

 芸能界は苦手だ。

 ()()()がかつて私を連れだした場所。

 きらきら輝いていて、でも幼い私にとっては優しくなかった世界。

「美曲、すごいね!!私、スカウトなんて初めて見た!!」

 ほの暗い過去へ思考が溶け込みそうになっていた時、明るい彼女の声が耳に入ってきた。

「美曲がもし芸能人になったら私は、すんごい子と友達ってことになるんだ~夢みたいww」

 瞳をきらきらさせて、私と目の前の彼に視線を交互に送る。

「ねね、美曲はどーしたいの?やりたい?やりたくない?」

 由紀の無邪気な声が、いつかの母の声とかぶさってきこえる。


『あなたの人生なのよ。――がこういうから、お母さんが芸能界にいるからってだけで決めてはだめ。貴女の心に問いかけるのよ。やりたい?やりたくない?ってね。そうやって考えてでた答えならお母さんは反対しないわ。だってそれは貴女の本当の願い、なんだから』


「ご友人の言う通り、この話は貴方に強制するものではありません。貴女の気持ちを第一に考えてくださいね。返事は今、この場所でも、後日名刺に記載されている電話番号への連絡でもどちらでも構いません。ゆっくり考えてください」

 目を一度、閉じる。

 自分の心の奥底に眠る“私”を呼び起こすために。

 答えを、見付けるために。


 本当は考えずに、いやだ、と断るつもりだった。

 背景にどんな事情を抱えている、とかSCAIRのマネージャーがスカウトをしていること、とか分からないことが多いし、このスカウトが本物かどうかの判断も私にはつかない。

 でも、この人のことは信じてみてもいいかもしれない。

 理由なんて見つからないけど、私の心がそう叫んでいる、そんな気がした。

いよいよ本編へ突入!!

前書き、というかここまで来るのが長かった……。


美曲の答えは果たしてどうなるのか、由紀が見せてくれたこの風景に美曲は何を思うのか。

楽しみにしてくださるとうれしいです!!

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