第1章 1.はじまりの予感
初、投稿作品です!
書くことはあらかた固まっていますが、更新は今のところ不定期になると思われます。
これからどうぞよろしくお願いします!!
いつもなら月明かりが照らす明るい道。今日に限っては人口の光が細々と照らすだけ。月が雲に覆い隠されているのだろう。遠くがぼんやりとしか見えないくらい、薄暗い。
こんな時はすぐに家に帰るのが一番だ。
なんてぼんやりとした考えを頭の中にうかばせながら、それでも足は速く動かして。
あと少しで家に着く……。
はずだった。
そのはずだったのに。
暗闇の、明かりのその先から細く聴き慣れたテノールが耳をさす。
まるで今日ここに私が来ることを予知していたように……。貴方は私を見つけて笑って言うんだ。
「美曲、結婚しよう」
5年前、私は高校生だった。
初めてできた友人に連れられ、『SCAIR』という男性アイドルグループの握手会に参加したのが、たぶん私の人生を大きく変えたんだと思う。
当時、私はファッションやらメイクやらに全くと言っていいほど興味がなかった。
だからなのか、握手会へ行く服装も靴も髪型も、身支度におけるすべてをその友人にしてもらった。
友人が言うには、
「美曲は美形なんだから、ちゃんとした格好すればそれなりに綺麗に見えるんだよ。ほら、眼鏡を外せば完ペキ!」
らしい。
いつもの見慣れた景色、自分の顔のはず。
なのになぜだろう、その日だけ全然違う人に見えたのはきっと気のせい。
友人があまりに自分のことのように嬉しく言うから、その雰囲気に乗せられてしまっただけなんだと思う。
「美曲、眼鏡外して見えてるの?」
私の顔の前でブンブンと手を大きく振る彼女の姿は二つに重なって見えて。
「んん、由紀の手って四本あったけ?」
「はぁ?私、人間なんだけど?」
と、見えているそのままを答えるとなぜかすぐに突っ込まれる。
表情見えないけど、呆れた顔してるんだろうなって思ってつい眼鏡に手を伸ばす。
由紀の顔をちゃんと見て話したいっていうのもあるけど。
見えないのはやっぱり不便だったから。
「ちょ、美曲。何眼鏡ちゃっかりかけようとしてるのよ」
なのに、驚きの反射で由紀に眼鏡を取り上げられてしまった。
「え、だって、ちゃんと由紀のこと人間だと認識したくて」
大真面目に答えた私に帰ってきたのは、過去一のおっきなため息。
漫画だったら、はぁ~って大きな吹き出しで描かれるんだろうなってくらいの。
「美曲ねぇ」
「ふぁ、は、はいっ!?」
続いたのは地の底を這うような低音で、てっきり怒られるのかと思いきや……。
「今日はこのかわいい美曲で行くんだから、眼鏡は禁止です~」
変にゆる~い言い方で返事が返ってきたものだからびっくりして、言おうとしていた言葉が全部どこかに飛んでいってしまった。
「ってことで、コンタクトある?」
もう私には会話の流れが分かっていない。
うん、自分のことなのになんか他人事みたい。
「ね~え、聞いてる?コンタクト持ってるのかって私、きいてるんだけど」
「うぇ!あ、えと……」
肩をぐワングワンと前後に大きく揺さぶられて、強制的に由紀のほうへ思考を向けさせられる。
ええ?なんの話だっけ?
振動によって考えていたことがどこか遠くへ行ってしまった。
あぁ、そう、コンタクトの話だったっけ。
「もって、ない」
やっとのことでそう答えると、由紀はなんてことないかのように
「そ。じゃ、今日は一日裸眼ね」
そう言って、私の手をグイと引っ張って
「それじゃ、行くわよ」
と会場に向かっていった。
読んでくださり、ありがとうございます!
誤字、脱字、もっとこうしたらいいなどもしあれば、じゃんじゃんコメントしてほしいです!
これからの展開にこうご期待ください。