表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢と性悪執事は転生者狩りをするようです  作者: 藤原湖南
依頼5「ポルトラの紅き断罪者」
90/369

5-2


「スティーブ・アルバ?」


俺の知らない名前が出てきた。ただ、この空気の重さからそいつがかなりの重要人物であるのは悟った。

リカード――いや、今は「原田」というべきか――が軽く顔をしかめた。


「俺がダリル・ハーランドの中にいた時に、その名前は聞いてたよ。というか、ダリルが知っていたというべきなんだろうが……あのドノム・ミルーザすら敵わない、世界でも1、2を争う剣豪だという話だった」


「ドノムよりも、か」


「ああ。俺はそれ以上詳しくは知らない。リカードの知識は、もうこの身体に残ってなかったしな。あんたら、その分だと昔からの知り合いなんだろ」


原田の問いに、小さくハンスが頷く。


「6年前、ここで転生者の密入国事件がありましてね。その際の『討伐』に協力したのが彼でした。彼の協力なくして、私はあの男を討てなかった」


「ポルトラ騎士団の団長でもあるわ。武術会で優秀な成績を収めただけじゃない。私とそう歳は変わらないけど、人間的にも尊敬できる人物よ。私との縁談もあったぐらい。断ったけど」


「……まあ、その話は今回は関係ありませぬな。とにかく、ポルトラに外敵が入って来れなかったのは、彼の名声があったからに他ならない。その彼が転生者に憑依されているというのは……極めて厄介なことです」


ハンスがアンダーソン卿の顔を見た。


「既に『魂見魔法』を、誰か使ったのですかな」


「アルバは教会の人間は警戒して近寄らせなかったから難儀したが、そこにいるハラダ君が昨日やってくれたよ。アルバがうちに訪問した時にな。ただ、かなり悪い知らせがある。……彼は既に『完全憑依』済みだ」


「……!!まさか」


原田が「間違いない」と紅茶を飲みながら言った。


「魂の色は紫だった。妙に威圧感のある奴だったし、只者じゃないとは思ってたよ。クローゼットに隠れてたが、気付かれないかかなり心配だった。隠密魔法なしだったら、多分アウトだったね」


それを聞くとハンスは大きな溜め息をつき、ジャニスはうっすらと目に涙を浮かべた。


「……そうですか。良き友を亡くしました」


「……そうね」


部屋に重い沈黙が流れる。こんなに露骨にショックを受けている2人は、初めて見る。


「友達、だったのか」


「そんなに頻繁に会っていたわけではないですけど、ね。1年に1度、酒を酌み交わすぐらいには。

アンダーソン卿、彼の異変にもっと早く気付くことはできなかったのですか?」


アンダーソン卿は小さく首を横に振った。


「全く、だ。今回の疫病が発生したのは、5日ほど前。それと前後して、メジアからの転生者密入国の疑いがあると知らされた。

そこで騎士団からの報告が滞ることがなければ、私も彼を疑うことなどしなかっただろう」


「それまでは、全く平時と変わらなかった。そういうことですね」


「ああ。普段通りのアルバだった。立ち振る舞いも、何一つ『ポルトラの紅き英雄』と変わらなかったよ」


ハンスが黙り込み、何かを考えている。こういう時のこいつは、脳細胞をフル回転させている時だ。そして、その精度は極めて高い。


30秒ほどして、ハンスが再び口を開く。


「アンダーソン卿。彼に誰か面会などありましたか?無論、全ての行動を貴方が把握できるはずもないのは承知の上です。どんな微かな違和感でも結構です」


「……違和感」


「ええ。どうにも、今ポルトラで起きていることは極めて計画的な何かを感じます。つまり、彼の独断で動けるはずもない。

さらに奇妙なのは、スール・ヘンソンなる人物です。転生者が複数、同時に現れることは基本稀です。にもかかわらず、2人は提携しているように見える」


「俺と久美みたいなのは稀なのか」との原田の問いに、ジャニスが頷いた。


「少なくとも、あまりないことね。しかも、あの時はダミアン・リカードが仲介しなければ貴方たちは出会うこともなかった。どうやってあの男が貴方たちの転生を察したのかは、未だに謎だけどね。

つまり、今回も2人を結びつけた人物がいる。そしてそれは……恐らくはセルフォニアの関係者」


「そう考えるのが自然ですな。ただ、セルフォニアからの入国が不可能ではないカルヴァーンと違い、レヴリアへの入国は極めて難しい。つまり、レヴリアにいてもおかしくはないセルフォニアの内通者が存在するということです。あの、マイク・プルードンのように」


「そうね。あるいは……シャキリ・オルドリッジ。流石に、レイモンドの件で大陸全土に指名手配はかかったけど……指名手配の発令は数日前だから、彼がその前にポルトラを訪れていたら止めようがない。

アンダーソン卿、この1カ月以内の彼の目撃情報などあって?」


アンダーソン夫人が、お茶菓子をテーブルに起きながら「腕のいいお医者さんが、ポルトラ郊外に来られたという話は聞いたけどねえ」と呟いた。ジャニスの顔色が変わる。


「それは本当??」


「名前までは分かりませんよ?ただ、この疫病が流行り始めた時に、『あのお医者さんがいればねえ』とお隣のイシュターさんと話してたのは覚えてますよ」


「その医者が来たってのはいつですか」


「そうねえ……結構前だったと思いますよ。1カ月か、そこらだったかしら」


「決まりね」とのジャニスの言葉に、ハンスも同意した。


「絵を描いたのはオルドリッジでほぼ確定でしょう。彼らは転生者を探し出す何かを持っているらしい。そして、憑依されたアルバに接触し、今回の異変を起こすように伝えた。

問題は、そこからです。スール・ヘンソンが転生者なのは確定なのですよね?」


「これも堅い。そこにいるハラダ君が、港を視察したときにやってくれた」


原田が「本当に人使いの荒い爺さんだよ」とこぼした。


「俺が抵抗できないと思って無理難題言ってきやがる。俺もこの身体にまだ慣れちゃいないってのに」


「だが、君ならできるのだろう?何せ、元の身体の持ち主はかの『天才』ダミアン・リカードだ。実際、ここに来て僅か数日だが君はよくやってるよ」


「……ちゃんと報酬は出るんだろうな」


「それは働き次第だね。というか、彼らの依頼への報酬と合わせて出すつもりだ」


アンダーソン卿の提示した額は2億オード。レイモンドの一件での報酬額より少し少ないぐらいだが、ジャニスは「引き受けるわ」と二言で受けた。


「ただ、まだ腑に落ちないことは幾つもある。まず、メジアから入ってきたという転生者。この行方が分からない。裏ギルドに被害が出ているってことだけど……ハンスはどう思う?」


「……誰か、恐らくはアルバが匿っている、と考えるのが自然でしょう。ただ、ならばなぜ彼らは動かないのか。

転生者が複数人いれば、反乱自体は起こせるでしょう。その成否はともかく。ただ、現状は恩寵由来と思われる疫病を播いて、市民を自宅に閉じ込めているだけです。つまり、これは時間稼ぎでしょうな」


「……誰か援軍が来るのを待っている。そういうこと?」


「ええ。反乱を起こした場合、ポルトラの人々を味方に付けねばそれは成立し得ません。そして、クリブマンのケルヴィン元選王と違い、アンダーソン卿の人望は相当篤い。民衆の支持なき反乱は、概して酷い失敗に終わるものです」


「……そうね。グランのように、皇帝陛下たちを操るようなことをしない限りは。ということは、つまり」


ハンスの目が険しくなった。


「ええ。圧倒的武力による制圧、ないしは市民の鏖殺。その上でポルトラを完全なるセルフォニアの支配下に置くという計画と推測します。

そして、援軍は……メジア大陸から来る可能性が極めて高い」


「おうさつ?何だそりゃ」


「皆殺し、ですよ」


背筋を寒いものが走った。人の命を命と思わない連中だと、レイモンドの一件で分かっちゃいたが……


「んな、無茶苦茶だ」


「ですが彼らはやる。それがグラン・ジョルダンという男です。

時間的な猶予があるかはかなり微妙でしょうね……久美さんの合流までは、あと2日だったでしょうか」


あの女の恩寵は、瞬間的な治癒という極めて強力なものだったはずだ。あれがあれば、こちらはまず負けることはない。

問題は、それまでにどう時間を稼ぐか。ないしは問題を解決するか、だ。


ジャニスがハンスを見た。


「フリード陛下に援軍を要請する?」


「無論。ただ、軍を動かすと大事になりますし、数日はかかる。我々だけで、ある程度片を付けねばならない。

やれることは全てやっておきましょう。まずは……被害を受けたという裏ギルドへの聞き取り、ですな」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=537756314&size=200
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ