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悪役令嬢と性悪執事は転生者狩りをするようです  作者: 藤原湖南
依頼5「ポルトラの紅き断罪者」
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5-1


港町ポルトラは、エビア大陸の玄関口の一つだ。


この世界は大きく4つの大陸に分けられている。このエビア大陸、「エネフの大穴」を挟んだ西側にあるメジア大陸。そして遥か南西にあるネプルーン大陸、東にあるナヒリ大陸だ。

かつてはエネフ大陸と合わせて5大陸が存在していたが、エネフ大陸の大半は大穴に没し、西方にその名残を残すエネフ諸島があるのみだ。


70年前の「エネフの大厄」で、エネフと西方の交流は長らく途絶えていた。それが再開されたのが25年前だ。北海を通るルートがメジア大陸の転生者により開拓され、以来少しずつ西方との交易が拡大している。

その拠点の一つが、レヴリア北部の港町、ポルトラだ。北東のワシュワとも交流はあるが、セルフォニアがグランの手に落ちてからはもっぱら交易相手はメジアの諸国家になっている。


車の窓から潮の匂いが強くなってきた。クリップスを発って2日半、ポルトラまではもうすぐであるらしい。


「ここに来るの、何年ぶりかしら。……6年ぶり?」


「そうですな。あの時は、メジアからの転生者の保護が目的でしたか」


ジャニスの言葉に私は当時を思い出す。メジアの転生者に対する規制はエビアの大半の国より緩い。自由を重んじるアザト神の信仰が強いせいもあるのだろう。ただ、それがため各国の国情はなかなか安定していないと聞いている。

過度の自由は必ず人々の権利と正義の衝突を生む。フリードから前世の「現状」を伝え聞くにつれ、その思いは強くなるばかりだ。


転生者を「消す」ことに良心の呵責がないとは言わない。何らかのトラブルを起こしていない転生者については、極力「保護」で対応すべきだというのが私とフリード、そしてカルの見解だ。

ただ、教会保守派、そしてジャニスはそうは考えていない。セルフォニアの「グランの大乱」は、保守派の主張を裏付けるものであった。無論、家族を皆殺しにされたジャニスが転生者を許せるはずもない。これでもミミが来て10年前よりかなり丸くはなったが、それでも罪を犯した転生者に彼女の容赦はない。


6年前はまさにそうだった。メジアから来た「完全憑依者」の転生者の処遇を巡り、私とジャニスの意見は割れた。彼は傷害罪を犯してはいたが、殺人など決定的な罪の対象ではなかった。ただ、その恩寵の内容がかなり凶悪で、生かしておくと禍根を残す可能性もあった。

命を奪う「討伐」として彼を殺すべきだとしたジャニスと、教会に身柄を預けるべきだとする私の考えは正面から対立した。彼女と20年以上一緒にいるが、あの時ほど深刻な溝が私たちの間に入ったことはない。


……結論から言えば、彼女の考えが正しかった。彼は逃亡し、セルフォニアへの亡命を画策した。そしてそれを察した私は、彼を殺した。私が「切り札」を使ったわずか3度の案件のうちの一つでもある。


「何難しい顔してんだよ」


物思いにふけっているのに気付いたのか、後部座席からユウが顔を出してきた。私は苦笑する。


「いえ、何でも」


「そうかよ。というか、確認なんだけどよ。本当に内乱が起きそうなのか」


車は既にポルトラの郊外に入っている。見たところは平静を保っているようだが、その実はそうではない、らしい。


私の代わりにジャニスが振り返って答える。


「ええ。前にも話したけど、メジアから複数の転生者が密入国したらしいわ。裏ギルドで既に被害が出ているという話もある。

街の見た目はまだ普通だけど、裏で何が起きているかは分からないわ。何より、今回の件で厄介なのは、ポルトラ騎士団内部で異変が起きているということね」


「騎士団……警察みたいなもの、ですよね」


「貴方の住んでいた世界ではそう呼ばれているみたいね。都市の治安維持と防衛が彼らの役割。裏ギルドの監視も彼らが行っているわ。

そして、どうも騎士団で証拠隠滅が行われた形跡があると内部告発があった。それで内乱の可能性があるとフリード陛下が動いた……って昨日も説明したでしょ」


不機嫌になるジャニスに、ユウが納得していない様子で返す。


「分かってますよ。ただ……あまりに静かすぎる」


確かに、ユウの言う通りだ。人通りが、不自然に少ない。操作系の能力者がいて、既に支配下に置かれているのか?

デルヴァーのマリー・ジャーミルに近い性質の恩寵を持つ転生者がいるとなると厄介だが、あのレベルの恩寵持ちはそうそう出てこないはずだ。もっと別の能力者なのだろうか。


車は街の中心部に入る。他の街では好奇の目に晒されていたこの魔動車だが、ここではそもそも気にする人間が少ない。さすがに異常だ。

さらに言えば、街を出歩いている人間のほとんどの顔色は悪い。咳をしている人間も多い。


そこでようやく私は察した。助手席のジャニスも頷く。


「疫病、ね。恩寵由来のものかしら」


「あるいは。ただ、複数人の転生者がいるならば、それだけではないと考えるべきでしょうが」


「……待ち合わせの『あいつ』、無事かしら」


「異変は聞いていませんが……とにかく向かいましょうか」


車を小奇麗な家の前に止めると、部屋の中から誰かが手招きするのが見えた。やはり、何かの事情があり外には出れないようだ。

呼び鈴を鳴らすと、中から「どうぞ」と老婦人の声が聞こえる。ドアを開けたその先には、白髪の紳士と婦人が待っていた。


「お待ちしておりました。ジャニス・ワイズマン殿、そしてハンス・ブッカー殿」


「お身体は大丈夫ですか、アンダーソン卿」


「ええ。そちらこそ道中問題はありませんでしたか?外に出ると、発熱と咳が止まらなくなるのですよ」


やはりそうだったか。私たちが特に問題なかったのは、ジャニスが恩寵を無効化しているからだろう。


「ええ、私たちは特に。『彼』はこちらに来ているのですよね」


「はい。居間におります」


アンダーソン卿――ポルトラの市長で、レヴリア王家の縁戚でもある――に先導され、私たちは居間に入った。


入るなり、ユウが「お前はっ!!?」と叫ぶ。そこにいたのは、おかっぱ頭の目の細い男だ。


「ん?お前は……」


「お前は、じゃねえよ!!死んだんじゃねえのか、ダミアン・リカード!!」


ペシッ、とジャニスがユウの頭をはたく。まあ、こういうリアクションが見たくて敢えて伏せていたわけだが。


「冷静になりなさいな。リカードは最初から死んでないでしょ。魂を抜かれて、代わりに別の人間の魂が入れられた。それが誰かは、少し考えれば分かるでしょ」


「別の人間……あ」


「やっと気付いたわね。ダリル・ハーランドに憑依していた男よ。名前は……ハラダ、だっけ」


男が頷く。分かっていても、やはりどこか身構えてしまうのはやむを得ないところか。


「ああ。教会からの指示で、あんたらを支援することになった。よろしく頼む。

にしても、外の空気は一体何だ?この街に入ってから、回復魔法をずっと使わないとやってられなかったんだが」


「誰かの恩寵によるものでしょうな。やはり、リカードの魔法はある程度使えるわけですか」


男――原田は肩を竦める。


「教会で少し基礎を教えてもらっただけさ。この身体の元々の持ち主が、とんでもない奴だって話は聞いていたが……」


「頼りにしていますよ。我々だけで、複数の転生者を相手取るのはさすがに少々骨ですからな」


「こうやって生かしてもらってるから贅沢は言わないけど……いきなり実戦投入というのは、さすがに無茶が過ぎるな。それに、久美の合流もまだだ。本当に来るんだよな」


「ええ。ミアンからこちらに向かっているとは聞いています。あと1、2日かかるかと」


「……どんな風になってるんだろうな、あいつ」


「まあ、それは見てのお楽しみです」


キッチンから紅茶の香りがする。アンダーソン夫人が淹れているのだろう。私の向かいに座ったアンダーソン卿が、「では、よろしいですかな」と切り出した。


「構いません。誰が転生者であるか目星はある程度ついているのでしたね」


「……ええ。こちらの調査で、貴方たちが来るまでにかなり絞り込めました。濃厚なのはこの2人です」


アンダーソン卿が、2人の男の写真をテーブルに出した。ジャニスの顔が瞬時に強張る。


「……これって……!!」


「……ええ。確度はかなり高いと思います」


私も顔をしかめた。1人目の、少年といってもいいほどの若さの男は知らない。名はスール・ヘンソン。肩書はポルトラ騎士団・入国管理局担当とある。

だが、もう1人は……見覚えがある。6年前の一件では、かなり世話になった男だ。


ポルトラの英雄にして、レヴリアでも1、2を争う武力を持つとされる男。いや、エビア大陸全体でも、彼以上の戦士はほぼいないだろう。



「エビア大武術会、前回準優勝者……スティーブ・アルバ、ですか」




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