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悪役令嬢と性悪執事は転生者狩りをするようです  作者: 藤原湖南
日常4「ユウ、魔術学院に行く」
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日常4-3


幼女……ダーヴィン副院長がジャニスに「久し振りね」と微笑んだ。


「ご無沙汰しております、先生」


「その分だと息災みたいね。クリブマンでは大立ち回りしたそうじゃないの」


「……やはり耳に入ってましたか」


「そりゃあね。カルから貴女たちの現況は聞いてる。セルフォニアの動向についてもね」


「連中は破壊工作を隠そうともしていません。次に何を仕掛けるか……」


「そうね。だからそのウサギの子の力が要る。それも、できるだけ十全な形で」


ミミが目を伏せた。


「……他に……方法はないんですか」


「レナードが新しく作った義体に『入る』以外の方法がないか、ということよね。あの義体が『貴女自身』なのかどうかも含めて、詳しく知っているのはレナードだけ。

ただ、あたしも義体開発には一枚噛んでる。そもそも義体がどうやって作られているのか教えてあげるから、ちょっとついてきて」


そう言うと彼女は魔術学院へと入っていった。中は黒一色の内装で、どこかお香のような香りで包まれている。ハルヴァン院長曰く、「魔力を高めるようにするための工夫」であるらしい。

地下に降り、少しカビくさい廊下を進むと分厚そうな扉が見えた。そこにダーヴィン副院長が手をかざすと、ひとりでに扉が開く。


「……秘密厳守、ということですか」


「そりゃあね。貴方たちがここに至るまで、複数の魔術的結界を抜けてる。責任者であるあたし含め、数人しかここに入ることは許されてないわ」


俺の言葉にダーヴィン副院長はニイと笑った。


そして、扉の向こうには……



「何だ、これは」



大きなガラス瓶が6つほど。そのうちの4つには、裸の獣人が緑色の液体の中に浮いていた。猫と犬が2体ずつ。それらは共にそっくりだ。


これは、まるで……


「クローンを作ってるみたいじゃねえか」


「クローン……転生者の言葉ね。多分、それは合ってる」


ダーヴィン副院長の言葉に、オルドが小さく頷いた。


「大体そういう認識でええ。ここにいるのは『オリジナル』の身体と、それを元に作られた義体らしいわ」


「そう。クレスポに漂着した抜け殻の身体を、魔法とこの装置で『複製』し、転生者の魂が定着しやすいように微量の魔石を使って変質させたものが義体ね。

レナードが3年前に開発した技術で、ここまではあたしたちも把握してる」


ハンスが怪訝そうに「ここまでは?」と訊いた。


「そう、ここまでは。人型義体については研究しているとは聞いていたけど、それが既にほぼ完成していたなんてあたしもルイズも知らなかった。ましてそれがレイモンドに持ち出されていたなんて、ね。

カルはその話を聞いた時に『怪しい』とは思ってたらしい。ただ、その有用性を鑑みてとりあえず研究自体は続けさせてたみたいね」


「有用性……確かに女性の転生者は、再受肉先が見つかりにくいのが難点でした。再受肉先となり得る人間には、幾つもの条件がありますからな」


「そう。特に元の身体の持ち主が死罪相当の犯罪者であり、魂を抜いても問題がないというのが厳しい。男ならそれなりに出てくるけど、女性だと本当に出てこない。それも、魂が肉体に適合しやすいような若い女性はね。

だから、ミミちゃんみたいな子を再受肉させるために、寿命の心配がない人間型の義体は確かに必要だった」


「そこまでは私でも理解できます。問題は、なぜアルヴィーン大司教が怪しいと感じていたか。彼はそこはなお伏せていた」


ダーヴィン副院長は一瞬黙り、溜め息をつく。


「……伏せてたんじゃなく、言えなかった可能性があるわね。何となく見当はついたけど、ここから先は推測で物を言える領域じゃない。

恐らく、そこを全て知っているのはレナードだけ。まずはこいつを叩き起こすことからね。ジャニス、魂晶は?」


「はい。こちらに」


ジャニスは例の水晶をバッグから取り出す。それをみた副院長が、「これでいいかしら」と犬型の獣人が入った瓶の前に立った。

何やら操作すると、緑色の液体がすうと抜けていく。そして、瓶は跡形もなく消え、柴犬のような獣人だけがそこに残った。それを軽く布で拭くと、ダーヴィン副院長は「準備よし」と頷く。


「一応、去勢は済ませてる。魔力制限は解除した状態にしてるわ。これは特例措置だし」


「……受肉させても、博士の寿命は2カ月、というわけですね」


「そういうこと。元より死にかけていたわけだし、そこはあいつも納得するでしょ。じゃ、やっていいわよ」


ジャニスは目をつぶると、右手を獣人の頭に、左手を魂晶の上に置く。そしてパァッと赤色の光が両掌から放たれた。


「俺も、こういうのができるのか?」


「修練すれば、ですな。貴方が独り立ちしたら、覚えてもらうことになるかもしれません」


30秒ほどして、「ふう」とジャニスが息をついたのが聞こえた。これで終わり、ということか。

しばらくして、柴犬の獣人がゆっくりと目を開ける。そして身体を起こし、「ここは……」と呟いた。


「お目覚めね。お久し振り、レナード・ワイルダー博士」


「……あんたは。ということは、ここは……」


「そ。クリップス魔術学院。あんたにどうしても聞きたいことがある、ということで教会の許しを得た上で義体に受肉させた、というわけ」


「そか……生き延びさせてくれたのは本当に感謝しとるが、聞きたいことって何や」


博士が怪訝な表情を浮かべる。幼女にしか見えないダーヴィン副院長の目が鋭くなった。


「ええ。あんたが新しく開発した、人型義体。その正体を知りたいってこと。

そこにいるウサギの義体の子、分かるわよね?何でもその子の『前世』にそっくりらしいじゃない」


博士の表情が固まり、「まさか……」と声が漏れた。


「やっぱり、何か知ってるわけね」


「……3年前、クレスポに『彼女』が漂着した時に可能性として報告は教会のアルヴィーン大司教から受けとった。ただ、それがまさかミミ君の前世のこととは……」


そう言うと、博士はミミを見て立ち上がった。「おっとと」と少しよろめく。


「……新しい身体に慣れるまでは、少しかかりそうやな。とりあえず、ついてきい。俺の研究室に、元の素体があるっちゃ」


部屋の奥に向かうと、博士は何か操作を始めた。しばらくすると「ゴゴゴ……」という音と共にさらに地下に向かう階段が現れる。


「……こんな所に、研究室を」


「あんたも似たようなものつくっちょるやろ?秘密の部屋は、お互いさまや」


階段を降りた、その先には……



「……これ、人間、だよな……」



無言でレナード博士が頷く。そこに入っていたのは、ミミの「前世」によく似たあの義体と瓜二つの少女だ。


ハンスが顔をしかめる。


「これはどういうことですか」


「3年前にクレスポに漂着した子や。魂はなく、生命活動だけはしとる。クレスポに漂着した生命体は、飯も食わんし水も飲まん。ただ生きて、そして勝手に老いるだけや。

こいつに直接受肉することはできんと思う。受肉する際の『魂の入れ物』自体がないからや。だからこの装置で複製を作り、それを別途作る必要がある。それが義体や」


「生命の禁忌に手を染めている……と言われても反駁はできませんね」


「ただ、そうしないと『転生者の保護』はかなわんっちゃ。イーリス教会でも相当な議論があったとは聞いとる。ただ、俺はそれを押し切った」


ミミが呆然とした表情で、よろよろと少女の瓶の前に向かう。


「……これも、私だ……」


「……やろな。すまんな……まさか君がこの持ち主とは、思わんかったんや。君についての情報をもう少し聞いとったら、これに君を受肉させようとは思わんかった」


「……どうして、『私』がここにいるんですか」


博士が大きな溜め息をついた。


「ここからは、俺とアルヴィーン大司教の推測や。ただ、確度はそれなりに高い。残酷な事実やから、無理して聞けとは言わん。

ただ、受け入れんなら受肉は見送りになる。心が身体を拒絶し、共倒れになるからや。ここから先は、君次第や」


「……もし、見送りになったら」


「君の義体は、そろそろ寿命や。上にある義体に魂を移し替えることになると思う。んで、いつ現れるか分からん受肉先を待ち続けることになる。5年先か、10年先かは分からんけどな」


ミミは震え、首を振り、10秒ほど躊躇した後……俺の方を見た。


「……ユウ君は、どう思いますか」


……正直、何を言うのが正しいのか、俺にはさっぱり分からない。ただ、ミミが今のままでいいとは思えなかった。

過去に縛られ続けているうちは、いつかは限界が来る。特に、あんな酷い前世だからこそ、それは乗り越えないといけないもののように思えた。


「……自信はねえよ。ただ、聞くだけ聞いてもいいんじゃねえかとは思ってる。

俺たちは、何やかんや言って前世からは逃げられねえんだ。本当にここで、新たにやり直すなら……けじめぐらいは付けてもいいんじゃねえかな」


ハンスが視界の隅で頷くのが見えた。


ミミは意を決したように顔を上げ、博士を見る。ぎゅっと俺の手を握りながら。


「……教えてください」


「分かった。アルヴィーン大司教は、転生者の前世を『読む』ことができる『読み手』たい。その範囲は、転生者が知らなかったことまで及ぶ」


「……知らなかったこと」


「そうっちゃ。例えば病気の存在とかや。そして君の場合……死んだのは君だけじゃなかったんや」


「……え?」


ふうと息をつき、博士が口を開く。


「実のところ、過去にクレスポに人が漂着したのは何回かあったんや。数十年に一度、という稀な案件やけどな。

そして、それにはある共通点があった。……ダーヴィン副院長、あんたは薄々知っとったはずっちゃ」


ダーヴィン副院長は目を閉じ、「……そうね」と絞り出すように言う。


「……統計が少なすぎるし、正確には分からなかった。ただ、教会がそう言うのなら……やはり仮説は正しかったわけね」


「そういうことたい。俺も、教会に問い合わせて仮説が正しいであろうことがようやく理解できた。

仮説はこうや。『妊娠している状態で死んだ人間が転生した場合、本人の魂は別の人間に憑依し、子供はその身体に取り憑く形でクレスポに流れ着く』」


その場にいる、博士とダーヴィン副院長以外の全員の表情が凍った。


……まさか、そんな。


博士が呆然とするミミの方を向く。



「……そう。つまり、あの時君は妊娠しとったんや。だから、あれは……君の生まれなかった子供の、半身でもある」




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