登場人物紹介(ザッシュ・ラブ)
ザッシュ・ラブ(18)
166cm56kg
人間時代は短い黒髪の少年。あまり印象に残る顔立ちではない。
農家の三男として生まれ、口減らしのために冒険者となった青年。カルディアは開拓者の国であり、総じて所得水準は低い。養えなくなった子供は高確率で冒険者になるか、どこかに奉公に出される。
カルディア政府は人身売買を堅く禁じているため奴隷として売られる事例は少ないが、半面命懸けの冒険者稼業に身をやつさねばならない若者も多い。彼もその1人である。
冒険者になることについては「まあそうなるだろうな」と達観はしていたようだ。ただ、死への恐怖も強く、レイモンドの街に向かう際には相当に精神が不安定になっていた。相川聡が彼に憑依したのはそういうタイミングである。
特に勉学に秀でてもおらず、腕っ節が強いわけでもない、本当に極々平凡な青年。もしこのままレイモンドに行っていた場合、かなり早い段階で命を落としていたであろうことは間違いない。その場合でもウェスやラスカが気にかけていたかは不明である。
また、運良く(?)相川が完全憑依前に「浄化」させられていたとしても、彼自身に冒険者としての適性はなかったため先行きは厳しかったであろう。ある意味不運ではあるが、幸運でもあったとも言える。
趣味は特になし。徹底したモブである。
相川聡(享年19)
164cm53kg
七三分けの小柄な青年。目は大体眠そうにしており、存在感は極めて希薄。無口であり、「いつも気が付いたら消えている」という人物。ザッシュ・ラブに憑依しても誰も気付かなかったのは、この2人の性格がある意味極めて似通っていたからでもある。
前世ではややネグレクト気味に育てられた。恋人はおろか友人もほぼ皆無に近く、親からも愛情を注がれなかった彼は極端に孤独で消極的な人間に育った。当の本人も、「植物のように生きて死ぬのなら、苦痛も何もなくていいかもしれない」とそれを改善する努力も行わなかったようである。
そんな彼の人生は新型コロナによりあっさりと終わりを告げる。助けを求めるべき家族も友人もいなかった結果、気が付いたときには重症肺炎となり手遅れな状態であった。死の間際に「誰かに愛されたかった」という強い後悔を遺した彼は、転生後自らの恩寵を使い冒険者として歩き出そうとすることになる。
転生後に右往左往していた彼を招き入れたのがウェスとラスカのパーティであった。若手ではあるが有望なパーティにザッシュを招き入れるのには異論もあったが、「俺の人を見る目は確かだ」というウェスの意見に押し切られたようである。
実際、ウェスには人間の資質を見抜くある種の魔法の資質があった。ザッシュを転生者と初めから見抜いていたわけではないが、ある種の能力があるとは察していたようである。
コミュ障気味のザッシュではあったが、ウェスとラスカのケアもあり徐々にパーティに認められるようになってはいた。
ただ、後述する彼の恩寵「溶ける愛」については、ウェスが違和感を持っていた。これも彼の魔法の資質によるモノである。ウェスにとっては「転生者であろうがなかろうが俺には関係ないが、注意だけはしとけよ」ぐらいではあったが、ザッシュはそれをある種の恐怖として認識してしまった。これが悲劇の理由の一つである。
もう一つは本編でも語られている通り、ラスカの恋人であるウェスへの嫉妬である。ザッシュは前世での恋愛経験がゼロであったため、この嫉妬を飼い慣らせなかった。
その上で本来出遭うはずのない龍との遭遇、さらに彼が完全憑依直前の不安定な時期であったことと不運が様々に重なった結果、彼はラスカ以外のパーティ全員を虐殺し、「魔獣ジェノサイバー」へと姿を変えてしまうことになる。
もし当時のレイモンドに祓い手がいれば、恐らくはザッシュは「浄化」対象となり、その中の人間である相川聡は義体に入れられていた可能性が高い。そうなっていれば、彼の物語は全く異なるものとなっていたはずである。
趣味は特にない。強いて言えばJRPGをやることぐらい。あと、ビターエンドやバッドエンドの物語が好きだった。
魔獣ジェノサイバー
通常時の体長は2mほど。漆黒の大型獣であり、ヤギと馬と鹿を掛け合わせたような頭部である。頭には2本の角があり、額の部分には人間だった頃の顔が貼り付けられている。なお、基本的にこの人間の顔はデスマスクのように無表情である。
「エネフの大穴」から来る瘴気による変異生物の一つ。登場は極めて稀で、10~20年に1度程度しか誕生しない。瘴気のある場所しか基本的に生きられないが、魔石による魔力補充があれば問題にはならないようである。体中から瘴気を噴出させており、近寄るだけで瘴気中毒に冒され死に至るという非常に凶悪な魔物。なお、魔力が切れると大幅に身体が縮む。
ただ、進んで人を襲うことはなく、基本的に居住可能区域外をうろつくだけとされる。それでも瘴気濃度が高まるため、レイモンドの人々にとっては迷惑極まりないのだが。
寿命は数カ月とされ、それほど長くは生きないもよう。なぜジェノサイバーがまれにしか発生しないのかは不明であるが、ある種の因子を持った人間が瘴気による変異を受けた場合に稀に発生する事象であろうと、この話の数年後のラスカは結論づけている。
本編では彼をマイク・プルードンが操ったことにより、レイモンドで死者数百人が発生する大惨事が引き起こされた。もちろん、これは本来のジェノサイバーの行動からはあり得ないことである。さらに、マイクはザッシュの恩寵「溶ける愛」まで行使させたため、相当な被害が生じることとなった。
恩寵「溶ける愛」
恩寵レベル3.5(覚醒時)、2(通常時)
身体を液体状に変化させる恩寵。硬化も自在にできる。イメージとしてはターミネーター2のT-1000と寄生獣を足して2で割ったようなもの。ただし、ザッシュの練度では「腕だけ」ないしは「脚だけ」といった身体の一部分の変化しかできなかった。
「覚醒」時には背中から無数の刃を出し、それを自在に振るっていた。射程は10mほどであるが、切れ味がかなりのものであるため単純な戦闘力は極めて高い。
天敵はユウの「錬金術師の掌」。物質硬化や液体化を無効にしてしまうため。また、能力発動前に打撃を打ち込めるハンスも当然相性が悪い。本編は瘴気を常時発している「ジェノサイバー」としてのザッシュが相手だったため、ハンスたちはかなり慎重な作戦で挑んでいる。
ザッシュがこれを生前に使いこなせれば、かなりの武芸者になれたはずである。転生者であることを隠しおおせれば(あるいは条件付きでばれていたとしても)、彼は望み通りの「英雄」となり得たかもしれない。




