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悪役令嬢と性悪執事は転生者狩りをするようです  作者: 藤原湖南
依頼3「クリブマンの完璧なる修復者」
60/369

3-16


キャルバーンの山々が、ゆっくりと車窓を流れていく。私はそれをただ何となく見ていた。ヴァンダヴィルを離れて1週間と少し。ようやく私たちは帰路についていた。


ミミとユウはどちらも疲れからか熟睡中だ。汽車の車窓からは、夏の日差しが差し込んでいる。クリブマンで1等客室に持ち込まれた氷柱は、もう半分ほど溶けていた。

私も眠りたいところだが、流石に暑い。中継地点のサンダヴァルに着くまでは我慢、か。


ジャニスはというと、何か考え事をしているようだ。私が彼女を見ていることに気付くと、訝しげにこちらを向いた。


「何よ」


「いえ、考え事をしているようですな、とだけ。邪魔をするつもりはございませぬ」


「……クリブマン、あれでまとまると思う?確かにドノムには人望がある。ただ、龍族との関係は大丈夫かしら。モブリアナは人間のままだし……」


そう。モブリアナは龍に戻ることはなかった。人間の姿で「浄化」を受けた彼女は、既に「龍玉」を失っている。転生者である「折茂久美」の恩寵があったからこそ自由に姿を変えられただけで、本来姿の変化は不可逆的なのだ。

実際、浄化して意識を戻した彼女を落ち着かせるのは難儀だった。転生者に憑依されていたこと、そしてダリルと結託してクーデターを起こそうとしたことを理解させるのにまる1日かかった。

何分、人の姿に戻ってもなおその魔力は相当なものだ。最上位の魔術師並みの魔力があるだけに、下手に刺激すると惨劇を招きかねない。


彼女を平静に戻したのは、彼女の姉――ミカだった。人と龍の共存は可能であること、そのために彼女自身も尽力することを懇々と説いた。

そしてダリル――もちろん浄化後のダリルだ――も説得に協力した。元より、彼は龍族との協力を模索していた。これを奇貨として、定期的な交流の場を設けられないかと提案したのだった。


結局、モブリアナはかつての名である「クミン」として一時的にクリブマンに居住することになった。コーバス山の龍族はその主を失った形だが、どうやらミカが話を付けたらしく当面は新たな「モブリアナ」を選定することはないらしい。

問題は、実力主義であるらしい龍族がこのまま大人しくしているかということだ。その意味で、ジャニスの不安は理解できる。


私は少し目を閉じ、それから口を開いた。


「その辺りは、これからの課題でしょうな。他の選王も龍族との付き合いには悩んでいるらしいとの話は聞いております。キャルバーン全体で考えねばならぬことでしょうから、一朝一夕に解決するものではないでしょうな。

まあ、その辺りはフリード陛下にお任せしましょう。経済支援なら惜しみなく行うということですし」


「何気にあの皇太子、なかなかの腹黒よね。恩を売っておいて、自分の影響力を誰にも文句を言わせない形で広げてる」


「セルフォニアに対抗するには味方は多いことに越したことはないのですよ。我々だって、その一翼を担っている」


「ま、そうなんだけどね」


ジャニスが肩を竦める。フリードの利に対する聡さは確かに大したものだ。クリブマンの主だった臣下への買収工作にせよ、驚くべき速度で済ませてしまった。


実のところ、私はクリブマンの今後についてはそれほど心配はしていない。新政権にフリードの後ろ盾があれば、ひとまず軟禁下のケルヴィンも大人しくしているだろう。

ドノムは賤民と見なされやすいオーガだが、ああ見えて学はある。政治の素人ではあるが、そこまでおかしなことはするまい。


問題は、ダリルに憑依していた転生者「神田竜司」の処遇だ。彼はダミアン・リカードの身体に再受肉されるはずだ。あの男を、今後どう「使う」か。


魔力は肉体に宿る。そしてダミアンが本来持っていた魔力は相当な水準にあった。それを使いこなせるようになれば、あの男は相当な戦力になり得る。

問題は、思うように彼が動いてくれるかどうかだ。自分を謀ったセルフォニアに対する怒りはあるだろう。ただ、安易に口車に乗っている辺り、地頭や判断力には不安がある。スパイとしてどこまでちゃんと機能するかは未知数だ。


彼の恋人である「折茂久美」がどうなるかも分からない。さすがに再受肉までは少しかかるだろう。それまでは肉体的に劣る義体で過ごして貰わねばならない。

あの2人にとっては、互いの存在が恐らく全てだ。そんな彼らが、いつ死んでもおかしくない任務に身を投じるだろうか。……まあ断ってもやらせるのだが、サポート体制は考えた方がいいだろう。


そして、もう一つ気になることがある。ダミアンは浄化される直前に何かをした。あれは一体何か?


ジャニスも奴が何をしたかはよく知らないといった。恐らくは未知の魔道具を発動したのだろう。だが、その効力は読めない。

あの時のことを録音か何かしていて、それを飛ばしたのだろうか。ただ、あそこまでの苦戦は想定の外にあったはずだ。その可能性は考えにくい。とすれば一体何だ?

嫌な予感はするが、ここで考えても仕方がない。ただ、あの男が「無駄死に」したわけではないということだけは、考えておく必要がある。


私はもう一度車窓の外に視線を移した。問題は山積している。セルフォニア――ひいてはグラン・ジョルダンも近いうちに必ず動いてくるはずだ。

その時に備えて何ができるか。……今はただ、有事に備えて協力者を増やすしかない。


戻ったら、慰安旅行も兼ねてカルディアへと向かおう。あの男――ジェフリー・モラントなら、何かしらの協力を得られるかもしれない。

そして、ユウとミミに、転生者が犯した大罪を見て貰う必要がある。私たちが、そして彼らがやっていることにどういう意味があるのか――それを知らずして、「祓い手」は務まらない。



それは、多分あまりに重い事実だ。だが、それは受け止めねばならない。

エネフ大陸の消失。そして幾億もの人々の死。それを再び起こさないために、私たちはこうしているのだ。



依頼3 完遂

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