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悪役令嬢と性悪執事は転生者狩りをするようです  作者: 藤原湖南
依頼3「クリブマンの完璧なる修復者」
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3-5


「狭い家でかたじけない」


ドノムの家は質素な平屋だった。狭いというほどでもないが、クリブマンを代表する戦士の自宅としてはやや意外感がある。


「いえいえとんでもない。では、お邪魔いたします」


リビングの椅子に座ると、7、8歳と思われる双子の男の子がお茶の準備をし始めた。教育が行き届いているとはいえるが、少々気を利かせすぎな気がしないでもない。


「よく働く子ね、そう躾けてあるのかしら」


「一応はですな。ただ、然程厳しくもしておりませぬ。拙者にはもったいない子でござる」


ジャニスの棘のある質問に、ドノムはハハハと快活に笑う。本当に自発的に働いているようだ。そう言えばここに来る道中でも、彼らはこの年齢にしては随分と大人しかった。私はともかく、ジャニスがこのぐらいの年齢の時は相当うるさかったものだが。


「あ、私も手伝います!」


ミミがジャニスの制止も聞かずにパタパタと厨房に向かった。彼女も働いていないと気が済まない性質ではある。


「で、詳しく話を聞きましょうか。まずはダリル・ハーランド。貴方の部下であり弟子という話ですが、今『龍の巣』に行っているのですよね。どうしてそのようなことを」


「……陛下の命にござる。龍の殲滅は陛下の宿願。かつてのダリルは龍討伐の命を断り続けてきたでござる。それが3週間ほど前に、様子が一変したでござる」


「それが、貴方が彼が転生者だと疑う理由と」


「然り。拙者もダリルも、そして先王陛下も、龍の住む地『コーバス山』には決して深入りをしなかったでござる。無論、出来損ないの『偽龍』が人里に害を為そうとした時は討伐したでござるが……。

古龍が一体、『黄金龍モブリアナ』とは不可侵の盟約が数十年も前にできているでござる。それをこちらから破る行為など、ダリルがするはずがないのでござる」


ドノムが視線を落とす。ジャニスが首を捻った。


「ちょっといいかしら?盟約があるのは分かったけど、どうしてダリルがそれを破らないと言い切れるのかしら」


「それは、ダリルが龍に命を救われたからでござるよ。そして、拙者の下で修行するようになったきっかけでもあるのでござる」


「……は?」


その時、「ただ今帰りました、旦那様」と鈴の鳴るような声がした。ミカとかいう、ドノムの妻だ。


「おお、丁度良かった。お前からも説明してはくれぬか」


「説明?……ああ、私のことですか」


「うむ。これは秘中の秘、ここでしか話せぬことだからな」


秘中の秘?確かに駅で彼女の紹介はほとんどされなかった。ユウの護衛に彼女だけで十分だとドノムが判断した理由も少々不可解だったが、どういうことだ。


その時、ジャニスが驚きと畏れが入り交じったような表情で呟く。


「……貴女、普通の人間じゃないわね。身に纏う魔力が、尋常じゃない。さっきはあまり気にも留めなかったけど、今ははっきりと分かるわ。

そもそも、私とハンスのことを『高名な』と言っていた時点でおかしかったのよ。貴女、何者なの」


ミカが悪戯っぽく笑う。


「ふふふ、流石『ヴァンダヴィルの赤き魔女』様。フリード・デュ・レヴリア皇太子を救った顚末は、『同族』の間でも知られてますわ」


「……『同族』??」


「ええ。私は今は人間ですが、かつては真龍『ミカエラ』と呼ばれし者。先代『モブリアナ』の長女にございます」



……は?



聞き間違いかと思い、流石の私も動きが止まる。ジャニスに至っては口をあんぐりと開けたまま固まっていた。

龍が人間になると??しかも目の前の女性は先代『モブリアナ』の娘??そもそも古龍なのに世襲制なのか??情報量があまりに多すぎて処理しきれない。


コホン、とドノムが咳払いをした。


「少々長くなるが、よろしいか」


「ええ。龍が人間になったという話含め、極めて興味深い。私も龍の生態はほとんど知りませんからな」


異種族についてはこれまでの「28年」の人生でそれほど知っているわけではない。一部を除いて賤民扱いされてきたこと、知能についてはさほど人間と違わないということが近年分かってきたことぐらいだ。

まして龍については、生息地域がキャルバーンにほぼ限定されていること、ご多分に漏れず強大な存在であるらしいこと程度しか知らない。ジャニスも恐らくは似たようなものだろう。


「あ、私も聞きたいです!」


ミミがビーフンのような料理の皿をテーブルに置きながら言う。子供たちは「それ何回目でありますか」と渋い表情だ。


「アレンにロロ、ただの惚気話ではないぞ。人と龍の関わりについての、極めて大事な話だ。父と母の話を改めてよく聞くのだぞ。

ではジャニス殿、ハンス殿。始めてよろしいでござるか」


私は小さく頷いた。

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