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悪役令嬢と性悪執事は転生者狩りをするようです  作者: 藤原湖南
依頼3「クリブマンの完璧なる修復者」
45/369

3-1


「ガウウルルッ!!」


「うおっ!!?」


犬の頭に手を置いていたユウが噛まれそうになって飛び退いた。それを見ていたジャニスが「ダメダメ」と首を横に振る。


「魂を吸う時には一気にやらないと抵抗されるわよ。躊躇せずに一気におやりなさい」


「んなこと言っても、これでも全力なんだよっ!!」


犬に追い回されながらユウが叫んだ。あっさり追い付かれ、腕の辺りを噛まれている。

ジャニスはそれを見て溜め息をつく。彼女が犬を一撫ですると、それはすぐに意識を失った。


「魔力の流れをもっと意識なさいな。そうすれば、こういうように一瞬でできる」


「ちょっと待てよ。あんただって、俺の時には手間取ってた……いてっ」


「ハンスにはタメ口でいいけど、私には敬語を使いなさいと何度言ったかしら?この家の主人は私、そこは勘違いしないで欲しいわね」


ユウの頭をポカリとやるジャニスを見て、私の横にいるミミが心配そうに言う。


「ジャニス様、お厳しいんですね……」


「そうですか?あれでもかなり丸い言い方ですよ」


「そうなんですか?私の時はずっとお優しかったので、てっきり」


ユウが祓い手としての修練を始めて10日ほど。今は犬を使って実際に「吸魂」をやる段階まで来た。

吸った魂はすぐに戻せばそれほどの問題はない。これはその性質を使った実戦訓練と言える。


ユウの成長は正直に言えばかなりのペースだ。ここまで3カ月以上かかるのはざらだ。1年かけても吸魂ができず、祓い手になるのを断念したのを何人も見てきた。わずか13歳で、3日で吸魂魔法をものにしたジャニスが異常なだけで、ユウの才能は間違いのないものだ。

そもそも、彼と最初に会った時にジャニスが抵抗された時点でおかしいと思うべきだったのだ。普通なら(激しい苦痛は伴うが)吸魂はほぼ一瞬で終わる。そうでなかった時点で、ユウには吸魂魔法に対する耐性があるということだ。

それはつまり、自らもそれを使いうるということでもある。カルもその辺りから彼の異能を察したのだろう。


「ふう……ちょっと休憩しましょ」


こちらにやってきたジャニスに、私はタオルを渡した。彼女も指導に熱がこもったのか、結構な汗をかいている。


「お疲れ様です」


「ハンス、お茶を準備して頂戴。あ、ミミはいいわよ」


「承知いたしました。どうです、ユウは」


「……まあまあね。貴方が眠らせた上でなら、多分問題なく吸魂は実行できる水準だと思う。依頼があったら同行させてもいいかもね」


「なるほど。こちらとしても助かりますな」


ジャニスが「ははっ」と笑った。


「出番なんかないでしょ。私と貴方だけで基本的に十分だし」


「仰る通り。ただ、転生者は増えつつあります。もし複数の転生者を相手にするなら、人手は多い方がよいかと」


「それでも大丈夫だと思うけど。まあ、見ることも経験だから同行は一度させていいとは思うわ。……ん?」


ジャニスが門の方を見た。「よお、やっとんなあ」と長身の男が手を振っている。その隣で、ボブカットの黒髪の女性がペコリと一礼した。その後ろには、オーガと思われる大男がいる。


「ヒイロさん?それにリーシャさんも」


「おお、あれが噂のユウ君か。何かやっとるな。訓練か何かか?」


「ええ。ユウに吸魂魔法の指導をね。アルヴィーン大司教様から、彼を鍛え上げるようにって」


「吸魂魔法??まさか、祓い手にでもするっちゅうんか」


「そのまさか」


ヒイロが疲れ切って大の字になっているユウを一瞥し、私に視線を向けた。


「ハンス、お前はええんか」


「イーリス教会からの指示には逆らえないですからね。それに、確かに相当筋はいいですよ。実際に浄化するとなると葛藤なり何なり出るでしょうから、実戦投入はもう少し先だと思いますが」


「そかそか。まあある意味いいタイミングだったっちゅうことか」


「というと??」


「依頼や。ドノムさん、この女性がジャニス・ワイズマン。隣にいる眼鏡が、助手のハンス・ブッカーや」


深々とオーガの男が一礼する。その様子に、ジャニスが「えっ」と軽く引いた。


「拙者、ドノム・ミルーザと申すもの。以後、お見知りおきを。お二方に是非とも浄化してもらいたき者あり、参上仕った次第にございます」


「……え、ええ。それはいいのだけど。何でそんな言葉遣いなの」


「人には礼を尽くせとの教えを守っているだけに候。お気になさらず」


ヒイロがふうと息を付いた。


「ドノムさんはキャルバーン選王国、クリブマン州で戦士長をやっとる。どこで入手したのか、『ヒロセの兵法書』にかぶれててなあ。俺が最初に会った5年前からこんな具合や」


「あれこそ武士の歩むべき道を示すもの。転生者が記したからといって禁書扱いは納得行きませぬ。それに、あれは100年以上も前の書籍ではありませぬか」


「それ、あまり人前で言わん方がええで。……って話がずれたな。ドノムさんは年2でうちに来てくれるんや。オーガで見た目は強面やけどなかなか学もあって信用できる人物や、そこは保証するで」


気恥ずかしそうにドノムが頭を掻く。


「恐悦至極にござる」


「まあ、それはええんやけどな。依頼についてや。まあ詳しくは飯でも食いながらと思うとるけど、簡単に説明できんか」


「承知にござる。確証は持てぬ故、詳しくは見て頂ければと存ずるが……拙者の部下、ダリル・ハーランドの様子がおかしいのでござる。

1人で龍の巣に入っては重傷を負って帰ってきているのに、翌日には完全に治っているのでござる」


「龍の巣ですか」と私は呟いた。


キャルバーンは大型魔獣が多く棲む国家として知られる。その中でも代表的なのが龍だ。その鱗は宝飾品や武具に、肉は滋養強壮効果抜群の珍味に、肝は高級霊薬の材料にとその用途は幅広い。

しかし言うまでもなく龍は強大であり、狩猟には相当なコストと人手がかかる。知性のある「古龍」はもちろん、主な狩猟対象である「偽龍」であっても5人前後のパーティを組むのが一般的と聞く。1人で入る時点で普通ではない。

そして、翌日に傷が癒えているのも相当おかしい。最高峰の治癒魔法の使い手でも、翌日に傷を完治させることなどできようがない。


……となると。


「ダリルは治癒系の恩寵が使える、ということですかな?」


「不確かにござります。ただ、ダリルは偽龍……それどころか『真龍』も討伐しておりました。拙者が知るダリルは凄腕ではありますが、そこまでの力量はまず持ちあわせておらなんだ。ただ。異能の力を持っているのは間違いござりませぬ」


「……お嬢様はどう思われますかな」


ジャニスは腕を組み、「うーん」と唸った。


「……凄く嫌な予感がするわ。私も最初ハンスと同じことを考えた。ただ、治癒系の恩寵が使えるなら重傷を負ったまま帰っては来ない。

つまり、そのダリルってのは別の恩寵……龍を1人で狩れるような、戦闘向きの恩寵を持つ人物と考えた方が自然ね。そして、ここからが鍵なのだけど……多分、クリブマンにはもう1人転生者がいる。心当たりは?」


フルフルとドノムが首を振る。


「皆目見当が付かないでござる。まずはクリブマンにいる医師を調べますが……ただ、翌日には傷が癒えておりましたから、ダリルと親しい人物である可能性もありますな」


浄化、ないしは討伐対象が2人か。連携されるとかなり厄介だ。私はようやく立ち上がったユウに声を掛ける。


「ユウ、君に早速仕事がありそうですよ」


「……はあ?」


彼は才能があるとは言え未熟だ。危険は勿論ある。ただ、私とジャニスだけで2人以上の転生者を相手にするのは、これまでの経験上かなり面倒だった。手数はあるに越したことはない。


「ヒイロ、この依頼受けさせて頂きます。詳しい話は、家の中でしましょうか」



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