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悪役令嬢と性悪執事は転生者狩りをするようです  作者: 藤原湖南
依頼2「デルヴァーの黒い歌姫」
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2-10


「これで終わりね」


ジャニスが触れた「魂晶」は、白から金色にその色を変えた。マリーの中にいた転生者の魂が封じられた証しだ。

私はふうと息を付いた。厄介な転生者ではあったが、これでひとまずは落ち着くだろう。


「ありがとうございます!その……一ついいですか」


ヨーリヒ氏が遠慮がちに訊いてきた。


「どうぞ」


「その……マリーが貴方に眠らされる前に、様子が変わりましたよね。何かしらしようとしていたのは、私にも分かります。あれは一体……」


「ああ、『覚醒」のことですか」


「『覚醒』」


私は無言で首を縦に振る。


「転生者は、心底追い詰められたり感情が異常に昂ぶると、ああやって魔力が瞬間的に高まるのですよ。自分の、そして受肉者の魂を魔力に変え、ごく数分間ですが最上級の魔道士に匹敵する魔力を持つのです。その状態を私たちは『覚醒』と呼びます。

そしてその数分が終わると、くべる物がなくなった暖炉のように、ゆっくりと転生者は尽きていく。後に残るのは、魂の抜け殻です。憑依された方も、もう戻ることはない」


「そんなっ!!じゃあ、マリーは……」


「いえいえ、ご無事ですよ。それは私が保証いたします。それに、あえて『覚醒』させないといけなかったのですよ」


「……え?」


小さなバッグに「魂晶」を入れたジャニスが「そこが面倒なのよね」と呟いた。


「『完全憑依』手前の『浄化』は危険を伴うのよ。無理して転生者の魂を引きはがすと、同化しかかっていた受肉者の魂も傷ついちゃう。廃人になる事例も少なくないわ。

マリーは見たところ、完全憑依されるまでほとんど余裕がなかった。普通にやってたらかなり高い確率で重篤な後遺症が残ってたでしょうね。

それを避けるにはどうするか。わざと『覚醒』させて、転生者の魂が強く表面に出るようにするわけ。受肉者との魂との繫がりが薄くなるから、浄化しても後遺症がほとんどでなくなるのよ」


「……?しかし、それは危険では……しかもすぐに浄化しないと」


「そ。だから覚醒しちゃったらそこからは時間勝負。時間がかかれば仮に浄化しても結果は同じになっちゃうからね。まあ、そこは私たちの腕の見せ所ではあるのだけど」


「『ちょっと大変』と言ってたのは、そういう……!」


「ええ。すぐに浄化しなかったのはそういうこと。ハンスがわざと敢えて煽るようなことを言ったのも、転生者の感情に火を付けるためね。人の感情を逆撫ですることについては、ハンス以上はなかなかいないし」


私は苦笑して肩を竦めた。そこまで自分の性格が悪いとは思わないが。


それに、今回彼女が「キレた」のは少々予想外でもあった。もう少し引っ張って、彼女に無力感と絶望を感じさせてからにするつもりだった。

あの言葉――「そんな力などなくても、人の心は摑めた」で逆上するとは思わなかった。なぜなら、それは私の本音でもあったからだ。


多分、前世では自分の力に相当な無力感を持って亡くなったのだろう。そう思うと、僅かに同情を感じた。


「ハンス?」


「あ、ああすみません。後始末をせねばなりませんな」


私は「移動電信機」を胸元から取り出した。元の世界の携帯電話のようなものだが、そのメカニズムは全く違う。魔法と電気を組み合わせ、特定の場所に音声を届けるという代物だ。稀少な鉱石を使っているうえ、魔法都市クリップスにいるレナード博士しか作れないから、量産化まではまだ相当かかるだろう。


目の前には30人近い人間が眠りこけている。2~3時間すれば起きるとはいえ、夜になると獣や追い剝ぎなどが現れないとも限らない。ここから先は騎士団の仕事だ。


ふとジャニスと目が合った。


「今回は、何とかなったわね」


「……そうですな」


お互い、安堵の息が漏れる。10年前の二の舞は踏まずに済んだ。それだけでも十分だ。


私はここからほど近い場所に眠る、1人の少女のことを思った。これで多少の鎮魂にはなっただろうか。


……いや、恐らくは足りないだろう。転生者を愛し、そのために命を散らせた少女。彼女のことは、私もジャニスも、そしてフリードも生涯忘れることはあるまい。



彼女の名は、クリスティーナ・オ・パルフォール。フリードの婚約者にして、パルフォール公国の第一皇女。

そして、フリードではなく、その中にいる転生者を愛してしまった少女だ。




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