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悪役令嬢と性悪執事は転生者狩りをするようです  作者: 藤原湖南
依頼6「ムジークの『信頼を喰らう者』」
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6-14


漆黒の闇が、徐々に白さを増していく。ボクは欠伸を一つして、横で眠るマルカを揺さぶった。


「……早いのですね、モニカ」


「ええ。侵略者と逆賊は、しっかりと消しておかねば」


大きく伸びをする。わずか2時間、それも崖下でのビバークではあるが、恩寵――「信頼を喰らうもの」の効果のお陰で体力はある程度戻ってはいる。

奴らは社を襲撃しただろうか。あそこには七長老第2席のガルサと、第3席のクイッグがいる。その従者も含めて5人があそこで迎撃態勢を整えているはずだ。

ボクが憑依する前からモニカの信頼が厚かった彼女たちだ。魔獣と化せば、「レヴリアの赤き魔女」たちでも無傷とはいかないはずだ。


マルカの頰にキスをして、その背に乗る。既にその自我は完全にボクが支配した。この女は、ボクの意のままに動く最強のボディガードであり、愛人であり、そして力の源だ。彼女がいる限り、ボクが負ける事はあり得ない。

ただ、油断は禁物だ。あのハンス・ブッカーという男。セルフォニアという国の皇帝であり同じ転生者であるというグラン・ジョルダンは、「あの男こそ真の敵だ」と強く警告していた。

その男は転生者でありながら、ボクらを消して回っているという。どういう意図か分からないが、ボクの邪魔なのは疑いなかった。


もう、誰にもボクの邪魔はさせない。裏切りもさせない。

反逆の意思を見せた人間は完膚なきまでに、徹底して潰す。それが前世から得た教訓だ。


黎明の空をマルカが飛ぶ。高原の空気はどこまでも清涼で心地いい。朝焼けに照らされた聖峰ムジークは神々しく美しかった。それを見たボクは、ふうと感嘆の息を付いた。モニカがこの国を愛するわけだ。

そして、彼女が抱いたこのままでは国が滅びるという危機感も理解した。近親相姦の積み重ねによる寿命の短縮、そして不安定な安全保障。どちらも解決せねばならない、喫緊の課題だった。

そのためには、版図の拡大が必要だとモニカは主張していた。穏健派のマルカはそれを抑えようとしていたが、徐々にタカ派が優勢になっていった。



そして、七長老内での不協和音が頂点に達しようとした3週間前。ボクはムジーク第2皇女のモニカ・オルカ・ムジークに憑依したのだった。



ムジーク自治区の掌握は簡単だった。穏健派の筆頭だったフルサとウェンディを殺したことで、伸びきったゴムが千切れるように穏健派は瓦解した。混乱に乗じ、マルカの精神もガルサやクイッグと一緒に支配した。

国内の支配権を手にしたボクは、すぐにこの世界のことを「千里眼」を通して調べた。無闇矢鱈に侵略しても結果は見えている。事前の下調べと根回しこそ肝心だと、ボクは「経験上」知っていた。

そこでセルフォニアの存在を知った。「千里眼」には通信機能も付いている。アクセスは容易く、同盟の話もすんなりと進んだ。彼らと組めば、パルフォールもミルボアも、そしてレヴリアも恐るるに足らない。全ては順調に進んでいた。


……そのはずだった。


ボクは唇を噛んだ。嫌なことを思い出した。

前世でも、ボクは最後の最後でやらかした。全ては油断からだった。もう、二度と同じ轍は踏まない。


マルカは社に降り立った。木造の、まるで神社のような建物だ。

とりあえず、壊された様子はない。扉を叩くと、金髪と黒髪のダークエルフが恭しく礼をして出迎えた。マルカが穏やかに微笑む。


「ガルサ、クイッグ。ご苦労でした。何か変わったことは」


「何一つ」


「『千里眼』はどうでした。侵略者の動きは」


「花火の存在は知っていたようです。恐らく、民がこちらに集まる前に、我らを叩く狙いかと」


「結構です。妾にも現状の確認を」


マルカは奥へと進む。重い、鋼鉄の扉の向こうに「それ」はある。



巨大なディスプレーに、スーパーコンピューターを思わせる巨大な機械。そして、その中央に宙に浮いた宝玉がある。

マルカはそこへと歩み寄っていった。彼女が宝玉に手を触れると、青一色だったディスプレーの画面が一気に切り替わる。



これこそが「千里眼」だ。魔力を原動力に、指定した人物の視界を映し出し、その音声も伝えるというものであるらしい。もちろん、国境近辺など固定カメラがある場所の風景も見ることができる。

効果範囲は、推定半径3000km。レヴリアの首都ヴァンダヴィルやパルフォール首都のブルカはもちろん、セルフォニア皇都のボルトすらすっぽり収まる。いわば超広域、対象無制限の監視システム――それが「千里眼」だ。



これを見た時、ボクの心は震えた。ファンタジー世界に転生したと思ったら、とんでもなかった。明らかにこんな技術は、「前の世界」にはない。


モニカの知識には、これが何であるかはなかった。マルカにも聞いたが、「古から伝わるものだ」としか言ってくれなかった。多分、彼女もこれが何であるのかは理解していないのだろう。

もちろん、こいつは万能ではない。対象との距離が長いほど、起動には膨大な魔力を必要とする。実際、ボルトとの「通信」は魔人と化したマルカにしかできなかった。

だが、足元の監視ならガルサとクイッグの2人がかりならできる。ボクらが昨晩社を離れたのは、それが理由だった。


ディスプレーに映る誰かの視界は、外の風景のものだった。徐々に朝焼けに照らされた聖峰ムジークが大きくなっている。


「視界は誰のものを。ハンス・ブッカーですか」


「ええ。……空を飛んでいるようですね」


「空?」


「はい。ジャニス・ワイズマンも一緒のようですが……」


ジャニス・ワイズマンは当代一の魔術師の1人だという。空ぐらい飛べてもおかしくはないだろうが……


「千里眼」を捜査するマルカをチラリと見た。彼女を使って、こちらも空から迎え撃つか?

それも一つの手だ。ただ、そうなると地上が留守になる。マルカの攻撃を対応し、しかも逃げ切ったあのユウという女は只者じゃない。そこにフリード皇太子の軍隊が一緒になって攻めてきたら、ガルサとクイッグ、そしてその従者だけで対応しきれるだろうか。


ボクは首を振った。戦力の分断は得策じゃない。


「捨て置きなさい。引き付けた上で叩きましょう。そもそも、こちらに来ているのは彼ら2人だけ、そうですね」


「ちょっとお待ちください。対象を『参道』へと切り替えます」


ヴォン、とディスプレーの映像が変わった。薄闇の砂利道が映し出される。


「参道を一通り見てみましょうか」


駅伝のバイクカメラのように、早回しで映像が流れていく。しばらくして、3人の男女が参道を歩いている姿が確認された。


「……フリード皇太子と、カタリナ第1皇女ですね。もう1人の女は……」


ボクは首を傾げる。昨晩は遠間だったからはっきりとは見えなかったが、この女には見覚えがある。どこで見たのだろう。

ただ、こいつが「ユウ」であるのは明らかだ。セルフォニアの使者、ブロームは「彼女だけは生きたままこちらに引き渡してください」と伝えていた。

その意向はマルカも共有している。彼女が手加減しなければ昨晩は楽に撃退できたはずなのだが、それは今更言っても仕方がない。


「彼女だけは殺してはなりません。生け捕りにして、後日セルフォニアに引き渡しましょう」


「分かりました。こちらは」


「見たところまだ王宮を出てそれほど経っていないようです。彼らも引き付けてから叩きましょう。そちらの方が絶望が増すでしょうから。とりあえず、予定通り花火を」


「畏まりました」


クイッグが部屋を出る。しばらくすると、「パアアアンッッッ」と大きな破裂音がした。これでいい。あとは待って潰すだけだ。

ハンスとジャニスの位置も、王宮からは然程離れていない。人間より身体能力の高いダークエルフであれば、追い付くのは容易い。

地上の連中といい、随分悠長に動いているものだ。彼らがここに来る頃には、迎撃の備えは十分にできている。所詮、ボクには到底及ばない浅知恵の策だ。


部屋を出て、ボクはマルカの居室に向かう。テーブルにあるファルハ酒の瓶を手に取り、グラスに注いだ。ロゼワインのような色のその酒は、甘い芳香を漂わせている。

口にすると、強烈な甘みが一杯に広がった。同時に、腰の底から熱いものがせり上がってくる。


「……ふふっ」


これは強力な精力剤でもある。戦いの前に一杯飲んでおくのは悪くないと思ったが、こいつはなかなか効いてくれそうだ。

前世でも、大きな取引の前には必ず最高額のドリンク剤を飲んでいた。いい感じにテンションを高めてくれていい感じだったが、こいつはそれ以上だ。


「モニカ?」


マルカが顔を出してきた。「魔人」と化しても、その妖艶な美貌は全く喪われてはいない。乳房も垂れていないし、抱き心地は柔らかく最高だ。

彼女の年齢は確か70近いはずだが、ダークエルフの寿命は人間の倍だ。人間で言えば35前後、いい感じに「食べごろ」の熟女というわけだ。

前世でも男女問わず何十人とセックスしてきたが、彼女以上は多分いない。身体の相性がいいのは、やはり肉親だからなのだろうか。前世で近親相姦なんてする気は微塵も起きなかったが、彼女なら全く問題なしだ。


ボクはニイと笑った。まだあいつらが来るまでは少し時間があるはずだ。ここで「一戦」交えておくのも悪くない。


「母上、ご安心ください。私たちなら、侵略者など鎧袖一触にございます」


そっと手を彼女の頰に当てると、マルカは蕩けるような微笑みを浮かべた。


この女の心は、ボクが憑依するずっと前から――いや、「モニカ」を生む前から壊れている。壊しきったのはボクだが。


カタリナを生んだ彼女が国に戻った時、七長老は示し合わせて彼女を「生きる人形」へと仕立て上げた。国のために存在し、七長老の欲望のまま身体を開く肉人形。それがムジーク自治区の女王、マルカ・オルカ・ムジークだ。

ボクは恩寵を使って、その支配権を彼らから奪ったに過ぎない。性技を七長老に徹底的に仕込まれた彼女とのセックスは、まさに極上だった。この彼女との時間を、終わらせるわけにはいかない。


ボクは笑みを返し、舌を彼女の口内に差し入れる。恩寵の効果で、ボクの中にさらなる魔力が流し込まれた。――完璧だ。

彼女とのセックスはただ快楽のためにあるものじゃない。「信頼を喰らうもの」は、信頼している人物を通してボクに強大な力を与える。「与え、与えられることの力」こそ、ボクが前世から求めていたものだった。


数分間ディープキスをした後、ボクは彼女をベッドへと組み伏せた。6本の手を別にすれば、そこにいるのはただの熟れた雌だ。


股間が熱くなる。ペニスを生やす魔法は、ダークエルフなら誰でも習得している。もちろん、この部屋に入った時にそれは既に発動していた。

まずフェラチオをしてもらおうか。いや、流石にそんな時間はないか。軽く前戯をして、早めに挿入して終わらせよう――



そう考えた、その刹那。




ダダダダダッッッッッ!!!!




「なっっっ!!!??」




向こうの部屋から、銃撃を受けたかのような音が聞こえた。「ぎゃあああっっ!!!」という叫び声も聞こえる。

ボクは脱ぎかけていた服を着て部屋を飛び出す。そこには、頭に致命傷を受けたクイッグと、血まみれになった彼女の従者がいた。


「何が起き……」


そう言いかけた時、天井を突き破り再び「銃弾」が浴びせられた。庇うようにマルカがボクを押し倒す。


「がはっ……」


虫の息だった従者が息絶えたのがここからも分かった。マルカも口から血を流し、苦痛の表情を浮かべている。


「母上っっっ!!?」


「わ……私は大丈夫です。早く外へっ」


ボクは頷くと、全身の皮膚を「硬化魔法」で強化し外へ飛び出す。「銃弾」が何発か当たり、激しく痛んだ。だが、それは弾き返せているはずだ。


これはどういうことなんだ?マシンガンか何かを、あいつらは持っているとでもいうのか??


三度、「銃声」が社から響いた。誰かの断末魔の声を無視し、僕は社の上空を見る。



10m……いや、20mほど上に、「奴ら」はいた。



「これはこれは。おはようございます、『モニカ』殿」



慇懃無礼な笑みを浮かべたその眼鏡の男は、すーっと地面へと下りてきた。その背中には、赤いドレスの赤毛の女の姿がある。



「貴様……何をしたっっっ!!!ハンス・ブッカーぁぁぁぁ!!!」



社から血だらけになったマルカが飛び出してきた。「魔人」にとってはあの銃撃も大してダメージはならないらしく、傷口がみるみる間に塞がっていく。


「モニカ、大丈夫ですか!!?」


「ボクは問題ないっ」


マルカが鋭く向こうにいるハンスを睨み、ボクの前に立つ。ハンスはなおも余裕の笑みを浮かべている。


「何をしたか、ですか。これを投げただけですよ」


10mほど先にいるハンスは拳を開き、何かを見せた。……小さな小石?いや、朝日に輝いているそれは、宝石にも見える。


「……は?」


「ユウの恩寵で硬度を10#へと高めた小石ですよ。『ロンズデーライト』、ダイヤモンドよりも硬い、炭素の同位体です。

これを何粒も持って、上空から投げ下ろしただけですよ」


「ばっ……馬鹿なっ!!?人間の力で、あんな威力など……」


「出せるのですよ。私なら」


ふふ、とハンスが笑う。マルカが6本の腕を広げ、その腕全てに魔力を込め始めた。


「モニカ、下がっていなさい。ここは妾が処します」


「……分かった」


魔人のその実力を、ボクは全ては知らない。ただ、それがとてつもなく強大なものであると、セルフォニアのあの初老の男――オルドリッジは説明していた。

ボクと同じような恩寵を持った男が、10年前にいたという。彼はその恋人を魔人と変え、デルヴァーという街に駐屯していた軍の一小隊を殲滅させたらしい。マルカもまた、それに準ずる力を持っているだろうと彼は話していた。


だから、マルカが負けるはずはない。ボクはそう確信していた。

何より、いざとなればボクも加勢できる。負ける可能性など、万に一つもない。


ハンスが拳を握った。マルカがそれに応じ、腰を落とし重心を沈める。攻撃態勢に入ったのだ。



「死になさいっっっ!!!!」



マルカが叫ぶ。次の瞬間。




バババババババッッッッッ!!!!!




激しい爆裂音。そして、マルカのいた場所には――彼女の下半身だけが残っていた。





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