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悪役令嬢と性悪執事は転生者狩りをするようです  作者: 藤原湖南
依頼6「ムジークの『信頼を喰らう者』」
124/369

6-7


「どういうことなのか、説明してくれる??」


エレンが詰め寄ってきた。私は王宮を見る。


「その前に一度、落ち着いて話せる場所に退避した方が良さそうですな」


まだ魔獣たちが倒されたことは黒幕に気付かれていないはずだが、それも時間の問題だろう。

何より、ユウが倒した方はともかく、私の方は眠らせただけだ。この効きの悪さからすると、数分したら起きかねない。


エレンが数秒思案して、「分かった、私についてきて」と駆け出した。表情は険しい。


「どういうことなんだよ」


何とか遅れまいとするユウが、後ろから声をかけてきた。ジャニスも私の方を見る。


「その通りよ。何を根拠に……」


「10年前、デルヴァーで何が起きたか。忘れているわけではありませぬな」


「10年前……!?あっ」


ジャニスの顔に緊張が走る。気付いたか。


「ええ。フリードに憑依していた転生者と、彼を庇って死んだパルフォール第一皇女ケイト・イル・パルフォール。あの時のことを思い出しませんか」


ジャニスが小さく首を縦に振る。そう。さっき彼女たちに起きたことは、10年前のそれによく似ている。


これまでのところ、全ての恩寵は現在はほぼ使い手がいないか、さもなくば禁術となった古代魔法をなぞっている。細かい部分は違っていたりする。発動に制約がかかっているものも多い。だが、基本は同じだ。

私やウェンリーなど数人は、この事実に気付いている。教会と共有しないのは、教会保守派に対する不信があるからにすぎない。

そして、発動条件が違うだけでほぼ同等の効果を持つ恩寵も、今まで何件か見てきた。私やジャニスが、初見殺しが多い転生者の恩寵にすぐに適応できるのは、そういった過去の蓄積があるからだ。



「人が魔獣や化け物に変わる」――これもその一つだ。



カタリナが「……あの事件ですか」と呟いた。彼女もフリードから当時のことは聞かされていたらしい。


正直、あの事件は今までの10年の中で唯一の「失敗」だった。巻き込むべきでない人間を巻き込んでしまった。

ただ、「100倍速」を使ってケイト皇女を殺す以外に、私が生き延びフリードも救う選択肢はなかった。


あまりに、忌まわしい記憶だ。まさか、こんなところで当時を思い出すことになるとは。


5分ほど走ると、目の前に緑の蔦で覆われた建物が見えてきた。エレンが少しスピードを落とす。どうやらここが目的地のようだ。


「信頼できる人間の家よ。ここなら多分、邪魔はされないわ」


彼女が扉をノックすると、小柄な褐色の肌の女性が現れた。外見年齢としては私と同じぐらいに見えるが、ダークエルフであることを考えると恐らく実年齢は倍はあるだろう。……それは私も同じことだが。


「……エレン様!?どうしてここに。管理官のお役目は」


「母様がお見えにならないとあなたからの文があったから。癪だけど、人間と姉様の力を借りることにした」


「カ、カタリナ様っ!!?」


女性はカタリナの姿を見ると跪き、恭しく一礼した。


「大変失礼しました。お久しゅうございます、ケロルにございます」


「私に跪く必要はないです。既に皇籍を外れた身ですから」


「しかし……貴女がマルカ様のお子様であることには変わりありません。お元気そうで、本当に何よりでございます」


「あなたも、よく無事で」


小さくケロルと呼ばれた女性が頷いた。確か、彼女は……

私が言う前に、ジャニスが口を開いた。


「貴女が、エレンの前任の管理官ね。5年前の事件を機に、国に戻っていたとは聞いていたけど」


「はい。蟄居の身でございます」


「……蟄居?」


エレンが眉をひそめた。


「その話は今は関係ないでしょ?さっきハンスが言っていたことを聞かせてもらうわよ」


リビングに向かう。質素な造りの椅子に座ると、ケロルが少し草の匂いのするお茶を出してきた。


「長旅お疲れでしょう。滋養強壮の効果があるフェイの草茶です、お口に合えばいいのですが」


色は毒々しい緑だが、飲んでみると意外に悪くない。ほのかな甘みがあり、苦みはほぼなかった。

向かいにエレンが座ったのを確認し、私は説明を始める。


「まず……先程守衛が魔獣に変わったことから説明を始めねばなりません。あれは恩寵によるものである可能性が高いと見ます。類似の恩寵に、我々は出会ったことがある」


「……どういうこと?」


「恩寵の中には、過去の転生者のそれに近い性質のものがあります。それ故、どの現象が転生者によるものなのか、ある程度推測がつくのです。

『魔獣化』についても同様です。かつて私たちは、特定の強い絆を結んだ人間の姿形を変える転生者に出会ったことがある」


「強い絆?」


「ええ。その人物は、愛情を向けた人間を『強化』し、その人物から受けた愛情に応じて自己を『強化』するという恩寵を持っていた。……極めて、厄介な転生者でした。

その人物の寵愛を受けた女性は、一種の『魔人』と化した。それこそ放置しておけば、転生者と彼女だけで国を滅ぼしかねないほどの、圧倒的な力でした」


ジャニスの表情が曇ったのを、私は見た。そう、私たちが祓い手として初めて請け負ったその事件は、未だに私たちの心に深い傷を残している。



10年前、デルヴァーでフリードに憑依した男――比叡真一は、ケイト・イル・パルフォールと恋仲になった。そして、その力――「愛情を喰らう者」を以てグラン・ジョルダンに続く「革命」を起こそうと試みたのだった。

それを止めるには、彼の力の源であるケイト皇女を殺すより他なかった。というより、その余りに強大な力からして、それ以外の選択肢などなかったのだ。



ジャニスが溜め息をつき、私に続いて話し始める。


「その時のことは詳しくはここじゃ話さないし、話したくもない。ただ、他者の姿を変容させて大きく力を跳ね上げるというのは、さっき起きたこととかなりよく似ているわ。

対象が1人か複数かということや、変容のさせ方といった違いはある。多分、恩寵の発動条件も違う。ただ、黒幕が転生者だろうというハンスの推測は正しいと、私も思うわ」


「だからといってどうすればいいのよ?」


「転生者の対応なら、私たち『祓い手』が一番慣れてる。だから、黒幕さえ特定できれば何とかなると思うわ。

問題は、どう黒幕を見つけるか。そいつは王宮内にいる誰かである可能性が高いけど、どうやってそこに入るかね」


ユウが「この前みたいに上空からじゃダメなのか」と手を挙げた。私は小さく首を振る。


「恐らく、向こうは複数の魔獣を『作れる』と見るべきでしょう。貴方の恩寵がその身体によって強化されているのは分かりますが、多勢に無勢です。何より、それは『強すぎる』」


ミミの身体が秘める魔力量がとてつもないものだということは、さっきの一連の戦闘で確信した。そして、今の身体ではユウは自身の恩寵を制御しきれない。

恐らく、彼は魔獣の足だけを奪うつもりだったはずだ。しかしそれは腕にも波及し、結果として四肢をもいで出血死するに至らしめた。

相手方の被害を考えずに殲滅させるのであれば、ユウを単騎で投入するのも手かもしれない。ただ、それは将来に大きな禍根を残しかねない。


ユウが不満そうに私を見た。


「じゃあ、どうすればいいんだよ」


「……このまま待ちましょう」


「は?誰を待つんだよ」


私は「フフ」と笑ってエレンの方を見る。


「この場所は、当然王宮の人間も知っているわけですよね」


「……ええ」


「まあ、それが自然でしょう。つまり、私たちが逃げ込むとしたらここぐらいしかないと、黒幕は簡単に推測するでしょう。

そうなれば、その人物が打つ手はどちらかしかない。夜襲か、逮捕のために軍か警察を寄越すかです。下手に夜襲をすれば被害がどれだけ出るか分からないでしょうから、まずは平和裏に私たちと貴女を捕まえに来るでしょうか」


エレンとケロルの顔色が変わった。


「ちょっと待ってよ!!じゃあもう終わりじゃないっ!!」


「いえ、むしろそれがいい。私たちは事を荒立てずに王宮の中に入れる」


私はユウを見た。しばらく唖然としていた彼が、「そうか!!」と手を叩く。


「俺がいれば、脱獄なんて余裕ってことだな!!」


「そういうことです。私たちには、手錠も鉄格子も、何の意味も為さない。時機を見て抜け出し、活動すればそれでいい」


ユウの「錬金術師の掌」ならば、鉄を粘土のようにして引きちぎることは容易い。どんな堅牢な牢獄であろうと、脱出だけならそれほどの問題ではないのだ。


遥か向こうから足音が聞こえてきた。早速私たちを捕まえに来たようだ。私はニヤリと笑う。


「注文通りですね。では、今後の計画を簡単にお話しましょう」



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