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悪役令嬢と性悪執事は転生者狩りをするようです  作者: 藤原湖南
依頼6「ムジークの『信頼を喰らう者』」
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6-3


エレンと呼ばれた少女は、敵意に満ちた目で私たちを睨む。


「あのフリードって男の知り合いってことだけど……人間は入れてはいけないことになってるのよ。例え姉様の頼みであっても」


「ええ。だから入国理由だけでも話を聞いてあげてください。お願いします」


「ふん」と鼻を鳴らすと、ソファーに座るように促した。随分古いものであるらしく、座り心地が酷く硬い。


ジャニスが私たちを見ながら口を開いた。


「……自己紹介した方がいいわよね。私はジャニス・ワイズマン。レヴリアで『祓い手』をやっているわ。こちらの眼鏡が、従者のハンス・ブッカー。そして、この子が……何と説明したらいいかしらね、一応『祓い手』見習いのユウになるわ」


「祓い手……転生者を『殺す』役目の人間、か」


エレンが何か考えている様子になった。カタリナが異変に気付く。


「どうかしましたか」


「……いいえ、何でもない。話を続けて」


ジャニスが一瞬私を見やった。何かトラブルでも抱えているのか。それとも、彼女たちがミミが転生者と知った上で保護しているからなのか。とにかく、訳ありな様子は見て取れた。


「分かったわ。……そちらに、転生者の少女が入国している可能性がある。『今は』危険じゃない。ただ、放っておくと災いを招きかねない種類の子なの。

一度、そちらの国に入国して捜索したい。もし可能であれば、マルカ女王のお力も借りたいと思っているわ」


「……『今は』?」


「ええ。彼女はセルフォニアに追われている。レヴリアとしては保護しなきゃいけない」


「転生者を『消す』のが役割の祓い手が、なぜ保護を?それにセルフォニアって、10年前に国王が変わった国よね。きな臭いことこの上ないわ」


エレンはテーブルに置いてあったお茶――いや、この匂いは酒、それもアブサンとかその類いか――を一口飲んだ。見た目はどう見ても10代前半の少女にしか見えないが……


「おい、それ酒じゃねえのかよ」


同じことを考えたのか、ユウが即座に突っ込んだ。「ははっ」とエレンが嘲笑う。


「小娘がよく言うわね。これでも今年24になったのよ。短命種が偉そうに」


「は??それで24??ウッソだろ??」


「あんた、私たちの種族のことも知らないのね。まあ、所詮ド低能な人間風情……」


「エレン」とカタリナが彼女を一瞥した。これまで敬語を使っていた彼女の豹変に、エレンは一瞬ビクッと動きが止まる。


「人間を侮るな、というのは5年前の事件で思い知ったでしょう。あなたたちが、そしてムジーク自治区が今の安寧を維持できているのは、人間であるフリード陛下のお陰なのですよ」


「……姉様は、その人間の元で召使いをしているそうじゃない。モニカ姉様が呆れていたわ」


「……私は、あの方の傍にいられればそれで十分なのです。いかなる形であろうと」


「汚れた血が混じっているから、そういう思考になるのよ。ダークエルフの誇りはどこに行ったのかしら?」


「その誇りも、力あってこそでしょう。母様が、なぜ出奔されたのかもう忘れたのですか」


カタリナとエレンが睨み合う。詳しい事情は分からないが、訳ありなのは間違いなさそうだ。

私は「まあまあ」と割って入る。このままだと姉妹喧嘩で入国どころではない。


「過去に何があったかは詳しく聞いておりませんが、ここでは関係ないでしょう。それに、これはムジーク自治区の存亡にも関わりうる話です」


「どういうことなのよ」


私はミミのこととその恩寵について、差し支えのない程度で説明した。話が「現実改変」に及ぶと、エレンの表情が訝しげになる。


「……何よそれ。そんなのを手にして、そのオルドリッジってのは何をしようというの」


「そこまでは定かではありません。ただ、ミミの力は『この世の有り様を望むように変えてしまう』可能性を秘めているものです。今は自分の周りの事象だけを変えていますが、それがより広範になった時に何が起きるかは想像もできない。

そして、今ここにいるユウ。彼――今は彼女、と言っておきましょうか。この身体こそ、本来のミミの身体です。その両方を手にし、意のままに彼女を動かそうというのが――オルドリッジの狙いです。

私たちは、彼女が彼に見つかる前に保護しなければいけない。彼に、そしてセルフォニアに世界をいいようにされることは、貴女方の望むところではないでしょう?」


「……荒唐無稽な話ね。信じるに足る証拠は」


「それを具体的に示す物証はありません。ただ、レヴリア皇太子、フリード・デュ・レヴリアの指示で私たちはここに赴いた。その忠実な僕たるカタリナ・ヴィングがここにいることが、その何よりの証しです」


カタリナが少し驚いたように私を見た。私はそれを無視する。この程度の噓は許容範囲だ。何より、そうでも言わないとこの頑迷な娘は納得しまい。


エレンは目を閉じた。10秒ほど黙った後、「話を続けて」と告げる。


「彼には、確かに特大の借りがある。あの男の命なら、話ぐらいは聞いてやってもいいわ」


「ありがとうございます。私たちの要望は2つ。ワタナベ・ミミ、及びレナード・ワイルダーがムジーク自治区に入国しているか否かの確認。そして、もし入国していない場合は、彼らの所在をマルカ女王の『千里眼』を使って調べて欲しい、ということです。それほどお手間はおかけしません」


エレンがふうと息を付く。


「分かった。ただ、こちらからもあなたたちに要望がある。ただで、というわけにはいかないわ」


「というと?」


「あなたたち、祓い手なのよね。つまり、異変解決には慣れている。そうでしょ」


「転生者絡みの案件ではありますがね」


「まあそこはどうだっていいわ。それに、これも転生者が絡んでいる話かもしれないし」


場の空気が一気に張り詰めた。私は気持ち、身体を前に倒す。


「詳しくお話を」


「……あなたたちが目当ての母様。この2、3週間お顔をお見せにならないらしいのよ。自治区から、そう連絡があったわ。

それだけじゃない。自治区内で、見たこともない魔獣が暴れるようになった。王宮内にも現れて、犠牲者が出たって聞いてる」


「その原因を探り、解決しろと?」


「話が早いわ。それを引き受けるなら、あなたたちの入国とさっきの要望を聞き入れてもいい。どう?」


ジャニスと目線が合うと、彼女はふうと息を付いた。


「……仕方ないわね。そもそも、それを解決しないことには千里眼も何もあったもんじゃない」


「話が早くて助かるわ。出発は明日朝。私も同行させてもらうわよ」



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