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悪役令嬢と性悪執事は転生者狩りをするようです  作者: 藤原湖南
依頼5「ポルトラの紅き断罪者」
112/369

5-24


地下にはエムの嗚咽が響く。いたたまれなくなった私は、踵を返し上に一度上がることにした。


原田と折茂によると、ブロームが寝返ったらしい。その事実ももちろんだが、同時にRRが殺されたらしいということも私にとっては衝撃だった。

彼女は、祓い手たちの信望がブロームと並んで厚かった。私もジャニスも、彼女には亡命直後色々とよくしてもらった記憶がある。そんなに簡単に殺されるはずがないという思いと、信じたくないという思いが交錯した。


駆け足で2階へと上がる。微かな血の臭い。……しかし、濃くはない。すぐに、仰向けに倒れている女性の姿が視界に入った。


「……はぁ、はぁっ……」


RRに近寄ると、細く、弱い呼吸が聞こえる。意識はなく、腹の辺りを何かで刺されて大量に出血しているようだが、まだかろうじて生きている?


私は急いで外に戻り、原田と何か言い合いしている折茂の手を引いた。


「な、何ですかっ」


「治してもらいたい人がいる。上に来てくれませんか」



「……ほんま助かったわ。おおきに」


深々とRRが頭を下げる。折茂の恩寵「完璧なる修復者」を以てすれば、治癒魔法ですら回復困難な状況からでも、短時間で完璧に傷を治すことができる。改めて極めて強力な能力だと実感した。


「それにしても、どうやって助かったんですか。リカードもブロームも、貴女が死んだのを確認しないまま去りはしないはずです」


RRがニイと笑う。


「『認知操作』を使ったんや」


「……何と」


「ブロームからの最初の一撃は避けられんかったわ。いや、避けるのが遅れたというべきやな。

あいつからの殺意は、本当にギリギリにしか分からんかった。まさか最初から裏切っとるなんて、流石に思わんかったわ……」


怒りと悲しみが入り交じった表情で、RRが唇を噛む。彼女はブロームとは長い付き合いだ。所帯を持とうという話にすらなったことがあるとも、噂で聞いていた。彼の裏切りには、相当思うところがあるのだろう。


「そして、最初の一撃を食らった瞬間に……」


「そう。認知操作の結界を展開したんや。正直、上手く行く自信はなかったし、こっちも相当な深手やったから、あれは一種の賭けやったけどな。

『認知結界』は、あたしの奥の手や。その場に入った人間の認識を、思うように狂わせる。今回は、あたしが死んだと思い込ませたというわけやね」


ふうと息を吐き、RRが立ち上がる。


「あんたの顔を見りゃ、相当大変なことが起きたのは分かる。記憶、読ませてもらうわ」


彼女は「祓い手」であると同時にカルの薫陶を受けた貴重な「読み手」でもある。その技術は師であるカルには及ばないものの、エビア大陸では五指に入る力量だ。

あまりに色々なことが起きている。わざわざ説明する手間が省けるのはありがたいことだった。


1分ほど私の頭に手を置き、RRが大きな溜め息をついて天を仰いだ。


「……狙いはポルトラやなかったんか」


「本命はクリップスです。ここに来るまでにダーヴィン副院長に何度か連絡を取ろうとしましたが、繫がらず」


「オルドリッジとジョルディアのどちらかが、転移魔法かそれに準ずる恩寵持ちの可能性が高いと踏んでるわけやな。そして、ここから逃げたジェイソンたちも」


「転移魔法の一種、『誘引』を封じた魔道具を持っているとすれば、あるいは」


「ただ、そうなるとなぜ最初から5人でクリップスを襲わんかったかが謎やな。……どういうこっちゃ」


「多分、こちらの戦力の削減が狙いだったんでしょう。陽動で引き付けると同時に、ポルトラにいるアルバも加えて私たちを叩く。『特級』3人を殲滅できれば、残るのはここにはいないヴィクトル・ウェンリーだけです」


RRがしばし黙った。


「……そして、ウィルソンは殺された。全く気の合わん奴やったけど、間違いなく有能な祓い手やった。あたしもあんたらが来るのがもう少し遅れてたら、完全に死んどった。結局、向こうの思惑通りってことか」


「……かもしれませんね」


その時、移動電信機がブルルルと震えた。


「もしもし」


「俺や」


低く、どこかいつも笑っているような声。彼の声を聞くのは何年ぶりか。



「……ヴィクトル・ウェンリー……!!!」



その声を聞いてRRが移動電信機を私から奪い取った。


「ヴィクトルっっっ!!!教会からの招集にも応じんと、どこほっつき歩いとるんかっっっ!!!」


「あーあー、相変わらず五月蠅いなリアナの姐御は。聞いて驚け、クリップスや」


「……は???」


ウェンリーがクリップスに??どういうことだ??


私は電信機をRRから奪い返す。


「事情を聞かせてもらおうか」


「まあ話せば長くなるし、そんな余裕はあらへん。ただ、前にパルフォールに来たセルフォニアの奴――『白光』の一員とか言うとったかな。そいつを締め上げたら、『義体』技術が欲しい言うとったんや。んで、義体言うたらクリップスや。

教会からの招集要請があった時にピンと来たんや。『これは陽動や』ってな」


「それで、命令を無視してクリップスに?」


「せや。オルドリッジにその他数人。奇襲掛けようとするならそれでも十分やろけど、俺が来たからにはそうもいかん。

事前に防衛線は作った。それ見た上で突破しようとするほど、向こうも馬鹿やないやろ……おっと」


ドゴォン、と何かが爆発するような音が向こうから響いた。「ハハハ」とウェンリーが笑う。


「どうも馬鹿やったらしいな」


「気をつけろ、向こうの戦力は……」


「んなこと言われんでも分かっとるわ。ほな、行ってくるわ」


そう言うと通信は切れた。


ウェンリーは間違いなく強者だ。アルバを破り「大陸一」の称号を手にする程の魔術の達人であり、白兵戦にも長けている。頭もかなり切れる。

ただ、彼を以てしてもオルドリッジに対抗できるだろうか。数の上では圧倒的に優位であっても、底知れない凄みがあの男にはある。何より、こういう事態を考えていなかったとも思えない。


胸騒ぎがする。今から加勢に行っても2日はかかる。その頃には決着は付いているだろう。ただ、もう一度クリップスに向かわねばいけない気がした。ユウの新しい義体の件もある。


出会った時に比べ、彼は飛躍的に成長している。ただのチンピラ崩れが転生したと思っていたが、どうやらそれは私の大きな見込み違いであったらしい。あるいは、前世で余程能力を抑圧されていたのか。

とにかく、セルフォニアとの戦いにおいて、彼はもはや不可欠な戦力といえた。魂晶に魂を封じていられる時間は短い。またしばらくは仮初めの身体になるだろうが、それでも彼を再び受肉させる必要があった。


「ハンス」


ジャニスが原田と一緒に2階へと上がってきた。RRの姿を見て驚愕する彼女に、私は告げる。



「急ぎ、クリップスに戻りましょう」



依頼5 完遂

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