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悪役令嬢と性悪執事は転生者狩りをするようです  作者: 藤原湖南
依頼5「ポルトラの紅き断罪者」
102/369

5-14


「ん……」


窓から射し込む朝日で目が覚めた。時間にして3時間も寝ていないが、交代の見張りもあるのでやむを得ない。

当直室の別のベッドにはジャニスが寝ている。朝に弱い彼女だが、やはり眠りは浅いようで「んん……」とうめいている。


外からドルルルという音が響いてきた。……エンジン音?


「おいっ、誰か来たぞ!!」


血相を変えてユウが飛び込んでくる。私は苦笑しながら「慌てる必要はありませんよ」と答える。


「どういうことだよ?」


「あれは聖都ミアンからの援軍です。ミアンにいる特級祓い手にのみ使用が許された、魔動車――というよりサイドカーで彼らは来たのですよ」


果たして、玄関に向かうとそこには2台のサイドカーが止まっていた。背の小さい小柄な桃色の髪の女性と、それとは対照的な筋骨隆々の大男。そして長い金髪の少女と、どことなく気弱そうな、無精髭の中年が次々とこちらに向かってくる。


「竜司??」


「久美か!!」


顔を輝かせる原田に対し、金髪の少女は少し微妙な表情だ。原田が彼女を抱きしめると、「ちょっとうざい」と少女は身体を離した。


「え……」


「ごめん、まだちょっと慣れない。あいつ思い出すから、せめて髪形とか変えてほしいんだけど」


「う……ごめん。久美は……すごく、きれいになったな。それにかわいい」


「それって元がかわいくなかったってこと??」


「いや、そ、そういうんじゃなくて……」


痴話喧嘩を始めた2人に「ちょいやめーや」と桃色の髪の女性が割って入る。

年齢は30代後半ぐらい、私も何回か会ったことがある。精神操作魔法の達人、リアナ・リアム――通称「RR」だ。


「今はそんなことしてる場合やないやろ。所詮転生者やな。……おお、ハンスやないか。元気そうやねえ」


「お陰様で。RRも相変わらずで」


「それ嫌味か?最近肌荒れが酷いんや、歳は取りたないわ。後ろにいるのが、噂の転生者か?」


ユウが「ユウです」と軽く頭を下げた。RRは彼に近寄り、「RRや、よろしゅう」と手を差し出す。

大男が露骨に不機嫌そうな表情になった。


「相変わらずだな、若い男と見りゃ姿形がどうだろうと見境なしかあ?」


「うっさいわボケ。こんな状況でもなければお前と仕事なんかせんわ」


「それは俺も同じだ。つーか群れるの死ぬほど嫌いなんだが?あの腐れお嬢様の姿が見えねえのはありがてえが」


「……腐れお嬢様で悪かったわね」と、ぼさぼさ頭のジャニスが現れた。


「貴方の顔は、あまり見たくはないわね。ザイン・ウィルソン」


「出やがったよ……てか、俺は勝手に動くからな。便宜上、こいつらと一緒に来ただけだ。転生者を殺せりゃ、俺はそれでいい」


ウィルソンはギロリとジャニスを睨む。「勝手にすれば?」とジャニスは冷めた目で返した。


「まあまあ、いきなりそんなにやり合わなくても。そもそも、協力しなくちゃ倒せるものも倒せないでしょ」


無精髭の中年――ジェイソン・ブロームがなだめる。一癖ある特級の中では、随一の穏健派で常識人だ。


「まあ、その通りですな。一度、局舎の中に。簡単に、これからの方針を話しましょうか」


局舎に入ると、屍臭がわずかに鼻についた。ディムレの操っていた死体は昨日のうちにジャニスが焼いて庭に埋葬したが、まだわずかに彼らの臭いが残っているらしい。

ウィルソンが「臭せえな」と顔をしかめたが、私は無視してディムレたちが拘束されている部屋に向かう。


「戦力的には、こっちが優位なんよな。そこまで警戒せんでもええんちゃう?」


「こちらが8人――ディムレとエムを加えるなら10人ですな。向こうは4人、私が殺し損ねていたとしたら5人。ただ、手の内が分からない上に個々の力量はかなりある。しかも、向こうも今日中に援軍が来ると言っている」


「援軍?どうやってここに来るん??」


RRが怪訝そうに私を見上げた。


「……昨日、彼らと軽く交戦をしましてね。仕留めようとしたところで転移魔法か何かで逃げられたのです。

恐らくは特定の条件を満たす人間を、『引き寄せる』能力と思われます。とすれば、国境封鎖などは無意味である可能性すらある」


「……滅茶苦茶厄介やな、それ」


「ちっ」とウィルソンが舌打ちをする。


「まだるっこしい作戦会議なんかする必要はねえだろ。援軍が来る前に物量で踏み潰す。それで何の問題がある?」


「相手は銃持ちです。たとえ数で勝っていても、それを帳消しにするぐらいには武器の差が大きい。しかもマナキャンセラーを複数人が所持している。魔法攻撃は通じず、向こうの物理攻撃だけは通ると思うべきです。貴方の怪力を以てしても、生易しい相手ではありませんよ?」


「知ったことかよ。真っすぐ行ってぶっ飛ばす、それで十分だ」


私は軽く首を振った。「凶獣」の二つ名の通り、ザイン・ウィルソンは獣のような男だ。ひたすら力押しで、強引にねじ伏せるやり方を好む。

対象の命を奪う「討伐」では、結果さえ残せればいい。そして、1対多数の圧倒的不利な状況でも、この男は大体において依頼を成功させてきた。その自負があるのだ。


「それでも一応、会議には参加してもらいますよ」


部屋に入ると、不満そうなディムレと、彼に寄り添って不安げなエムが既に椅子に座っていた。ギロリ、とウィルソンが彼らを睨む。


「こいつらは?」


「ディムレとエムです。メジア大陸から来た転生者で、一応こちらに協力することになりました」


「はあ!?」


ウィルソンが怒気を隠そうともせずに私の胸ぐらを摑む。


「てめえっ、転生者は殺すべきだろうが!!ただでさえ何人も転生者がこっち側にいる現状にはムカついてるんだ、んなのやってられるかボケが!!!」


「変わりませんね貴方も。また気絶させられたいですか?」


「んだと!!?」


拳を振り上げたウィルソンの肩を、ブロームがポンと叩く。その次の瞬間、ウィルソンは「ぐおっ!!?」という叫び声と共に床に這いつくばった。


「だから今は味方同士やりあってる場合じゃないでしょ。ちょっとそこで静かにしててくださいよ」


「ブローム、て、てめえっっっ!!!」


「君の肉体強化魔法は達人の域にあるけど、僕の得意な重力魔法は君にとって相性がすこぶる悪い。まあ、ちょっと黙ってそこで話を聞いてて」


ブロームが私に向けて苦笑した。今いる特級では彼が一番の古株だが、流石に落ち着いている。実年齢では私の方が上のはずだが、ブロームは私よりまとめ役として適性があるのは疑いない。


「一応これで面子は揃いましたね。それでは、作戦会議始めましょうか。手短に終わらせましょう」



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