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悪役令嬢と性悪執事は転生者狩りをするようです  作者: 藤原湖南
依頼5「ポルトラの紅き断罪者」
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5-13


「馬鹿なっ!!?」


それまでずっと黙っていた原田が叫んだ。


「あいつはこいつらによって『祓われた』はずだ!!そもそも、ここにいる僕の身体はリカードのものだ!!」


信じられない。多分、その気持ちは俺だけじゃなくハンスも、ジャニスも同じだったはずだ。


一度死んだ人間が生き返るはずがない。いや、ひょっとしたら異世界であるここには蘇生魔法みたいなものがあるのかもしれないが、リカードの肉体は今原田が「使っている」。だから、別のリカードなどいるはずがない。

しかも、一度消された魂を戻す魔法はないと、ジャニスからは聞いていた。だから、ディムレの言っていることは……絶対にあり得ないのだ。


「冗談はよしてよ……」


ジャニスも唖然としたまま動けないでいる。ただ一人、ハンスだけが眉を潜めながら黙っていた。


「……グラン・ジョルダンの時と同じ……?」


「なあ、どういうことだよ??」


「セルフォニア皇帝……グラン・ジョルダンは確かに私が殺しました。セルフォニアのクーデターの際に。上半身が消し飛ぶ、即死だった。

しかし、セルフォニアから脱出し、レヴリアに辿り着いた私たちの耳に入ったのは、『セルフォニアで新皇帝即位』という信じがたい知らせだった。新聞にあった戴冠式の写真も、間違いなくあの男のものだった。

そして再び、似たようなことが起こった。これは……」


ジャニスが震えながら「そういえば……」と口にした。


「あいつは、私に『祓われる』直前に、水晶を砕いていた。それが関係あるのかしら……」


「……誰かの恩寵なのでしょうか。ディムレ、貴方に訊きたいことが一つ。その男の外見は、私たちの後ろにいるおかっぱ頭の男に似てますか?」


ディムレはすぐに頷いた。


「あア。僕も最初、見間違えそうになっタ。その男の髪の色は黒だが、ダミアンは金髪だっタ。髪色以外は、瓜二つダ」


「姿形が同じ人間が2人……魂がリカードと同一……?」


俺はふと、ミミのことを思い出していた。姿形が同じ人間がいるということは、つまり……


「……義体??」


ハンスがはっとしたように俺を見た。


「それだっ!!!」


「は???」


「いや、全ての辻褄が合います。元となる肉体があれば、そこから別の肉体を錬成できるのはレナード博士の研究を見たなら分かるでしょう?

オルドリッジは、レナード博士と同じように……オリジナルの肉体は残しつつ、『スペアの肉体』を作り出した。そして、何らかの方法で魂も複製し……そこに封じた。

水晶を砕いたのは、恐らく……一種の合図。それを見てスペアの肉体を稼働させた……そう考えるなら、原田がここにいるのに『別のリカード』が動いている理由になる」


「ちょっと待ってよ!!?じゃあ、グランが復活したのも同じ手法ってこと??」


「恐らく、いや間違いなく。10年前のクーデターの背後にも、あのオルドリッジがいた。そう考えるのが自然です。あるいは、ひょっとすると……」


「……黒幕は、オルドリッジ……」


ジャニスが身体を震わせて青ざめている。



その時、誰かが入国管理局の局舎に入ってくる気配がした。



「誰だっ!?」


「静かにっ!!……戦闘準備を」


ハンスに言われ、俺は腰の短剣を抜く。足音が近づいてきた。1人……いや2人か?

そしてそれは部屋の前で止まる。聞いたことがある……いや、さっき聞いたばかりの、甲高い声がした。


「そこにいるのは分かってるよ。人数は……6人。ディムレとエム以外の4人は……ジャニス・ワイズマンとハンス・ブッカーだね。

僕によく似た魔力の持ち主もいるみたいだ。あとの1人は、前に見たあの小熊か」


「……ダミアン・リカードですね」


「あ、ディムレがゲロったのか。まあいいよ。彼らは所詮捨て駒だからね。

にしても驚かないんだな。もっと絶望してくれると思ってたよ」


「種は大体分かりましたよ。肉体と魂の複製。それ以外に解はない。それより、随分早く気付きましたね」


「ククク」と笑う声がした。


「エムが寝るには少し早い時間に恩寵が切れたからね。まあ、君たちがやったんだろうとすぐに分かったさ」


「そして、すぐにこちらに攻めないのも、そのためですね。ジャニスが――お嬢様がいれば、貴方たちの恩寵は使えない。そして、仮に貴方たちが銃かそれに類する武器を持っていたとしても、私がいる限り迂闊には攻めたてれない。

貴方たちの役割は、本命の戦力がこちらに到着するまでの足止め。どうです?」


「まあ、そんなところだね。君たちはじっくり料理するよ。あの時の借りもある」


「……記憶も引き継いでいるのですか」


「君たちに教える義理はないけどね。『オートバックアッパー』のお陰だよ。まあ、この新しい肉体にはまだ馴染んでないけど、君たちを屠るには十分だ」


ハンスがジャニスに目配せをした。彼女はゆっくりと窓の扉を開ける。逃げる準備をしているのか?

するとハンスがエムに耳打ちをした。彼女が驚愕の表情を浮かべる。


「Что это такое??」


「Другого выбора нет. они собираются убить тебя. Если не хочешь умирать, присоединяйся к нам」


「но……」


「Он твой любовник? ты хочешь, чтобы он умер?」


「何をごちゃごちゃ喋ってるのかな?」と嘲笑う声が聞こえた。


……そうか!ロシア語をリカードたちは理解できない。つまりハンスは……奴らに気付かれず、エムを寝返らそうとしているのだ。


エムは逡巡した様子を見せた後、ハンスを見た。


「Что я должен делать?」


「Используйте свои способности. Мы сделаем все остальное」


数秒の間を置いて、エムが頷く。


「Ты понял」


「よろしい」


再びハンスがジャニスを見る。ゆっくりと彼女は窓から外に出た。


「ん?窓から逃げようというのかな?そんなことをしても無駄だと思うけどねえ」


部屋の外からリカードの声が聞こえる。その次の瞬間。



「……ゲフッゲフッ!!?」



喉の強烈な異物感と、激しい頭痛が俺を襲う。それがエムの恩寵であることに、俺は数秒後ようやく気付いた。

そしてそれとほぼ同じタイミングで――一陣の風が、俺の横を通り過ぎていった。



バンッッッ!!!



ドアが猛烈な勢いで開く。背の高い長髪の男の頭が、不自然な方向に180度ねじれて吹っ飛んだのが分かった。


「チイッ!!?」


原田とそっくりな金髪のおかっぱ頭が飛び退いたのが見えた。奴は左手首に手をやる。すると、消えたと思ったハンスが、再び姿を現した。

リカードは怒りを隠そうともせずハンスを睨み付ける。ハンスは冷めた目で奴を見つめた。


「……マナキャンセラー、ですか。それで私を、強制的に止めたわけですね」


「ワイズマンを逃がしたのは、こういうことか。納得だよ……」


「ええ。彼女の半径5メートル以内では、エムの恩寵は発動できない。だから一旦外に行かせたのです。そして、僅かな時間さえあれば、あのウイルスまみれの空気の中でも私は十分に動ける。

結果はご覧の通りです。さて、数の上ではこれで4対1、いや5対1。マナキャンセラーを解除し、大人しく投降しなさい」


「……分かったよ」


奴は再び左手首に手を伸ばした。それから10秒ほどして……俺たちは信じがたいものを目にする。



ヴォン



「消えた???」



間違いない。リカードはあの事切れた男ごと、そこから消えていた。これは一体……



「ゲフゲフッ、どういう、ことなんだよっ!?」


「……Достаточно」とハンスが言うと、空気が再び元に戻った。エムに恩寵の解除を命じたのだろう。


「……転移魔法……は使えないはず。あの左手首にあったのは、マナキャンセラーと何かを組み合わせた、複合魔道具……?」


「そんなものが、この世界にはあるのかよ??」


「いえ。私の知る限りは。恐らくは、何かの合図を送ったのでしょう。そして、恐らくあのリストバンドを持っている人間を誰かが恩寵によって『引き寄せた』。

転移魔法を組み入れるには、あのリストバンドは少々小さすぎる。こう考えた方が自然です」


ディムレが身体を起こし、「どういうことダ??」と叫んだ。開いた窓からジャニスが戻ってくる。


「やったの?」


「いえ、逃げられました。見敵必殺で行くべきでした。申し訳ありません」


「逃げた?」


ハンスが一通り経緯を説明する。ジャニスの顔が曇った。


「……洒落にならないわね。でも、1人は殺したんでしょ」


「それもあてにはなりません。何せ、向こうには『全てを癒やす者』シャキリ・オルドリッジがいる。即死でなければ、あの状態からも回復させかねない。

ただ、事態は好転しました。エムと、恐らくディムレもこちらに寝返った。向こうに追加の増援があるのかもしれませんが、少なくともそれまでは動けないはずです」


ディムレが「寝返っただト!?」と血相を変えた。ハンスがニコリと微笑む。


「ロシア語が分かる貴方なら、私と彼女の会話の内容も分かったでしょう?オルドリッジにとって、あるいはセルフォニアにとって貴方たちは捨て駒に過ぎない。

私たちを殺した後は貴方たちが殺されるはずだった。だからエムさんは私たちに協力したのですよ。貴方を生かすために」


「……マリア」


コクン、とエムが頷く。ディムレが「Это ложь……」と崩れ落ちた。


「まあ、そういうことです。さて、リカードが援軍の第1陣として、第2陣があるのですよね?カルディナルからの援軍とは別と理解すればよろしいですね?」


「……あア。明日来ると言っていタ」


「結構。となれば、こちらの援軍と合わせて……総力戦ですね」


全員の間に緊張が走った。雌雄を決するまで、恐らくは……1日もかからないだろう。





そして、この時の俺は知らない。明日が、俺にとって最期の日となることを。




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