表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Vtuberの姉妹が百合営業をしたらガチ百合になってしまった話  作者: 沢谷 暖日
第二章 70パーセントの百合に20パーセントの嫉妬と10パーセントの本音を加えたらどうなるのか編
12/32

夢咲葵の生配信

『ちょっと急な生配信! 【夢咲葵】』


:お?

:どしたどした

:こんな時間に配信?

:通知きたから飛んできたよー


 コメントの流れは、昨日よりも少ない。

 告知もしていないし、今日は私一人の配信だ。その上、お昼の配信だなんて初めてだし。視聴者がいつもよりも少ないのは当然と言えた。


 今回の配信では、別に大したことは行わない。

 これは、あくまで私の感情を紛らわすための行為。

 大したことはしなくても、それなりの意味はあった。


「急な配信でごめんねー」


:むしろ助かるのでよき

:葵ちゃん単品の配信は私の需要なのでもっとやってくれ

:それより今日はどんなことするの? 雑談?


「あーよかった。……えっと今日は、うーん。ゲームやっていこーかな」


 優しい視聴者に胸の内を暖めつつ、何をしようか、と。

 特に何も考えていなかったので、咄嗟に私はそう口にする。

 しかしまぁ、気を紛らわしたい時は、FPSのバトロワゲーだ。


「じゃあ前回にもやったバトロワゲーをやっていこー」


:おっっと?

:前回にもやったバトロワゲー? って、あれよね。

:葵ちゃんのバトロワ配信──あっ(察し)


 よーし。

 視聴者の不穏な反応は置いといて、ゲームやってくぞー。



      ※



 前方に敵一人。

 一本道のこの場所で、私が取る行動はただ一つ。

 ライフルで牽制しつつ、スクラップの物陰に身を潜め、グレネードを敵の後方へスロー。

 グレから逃げてきた敵へと一気に距離を詰め、ショットガンで──よしノックアウト。


「うし、一人やリぃ」


 私はバトロワゲーがわりかし得意だ。

 しかしまぁ。集中しすぎて夢咲葵のキャラが崩れることが多々である。

 そのため、バトロワ配信はなるだけ控えてはいるんだけど。

 楽しいから、ついついやってしまうんだよなぁ。という。


「……お、遠くにもう一人。──やった! ヘッショ決まったぁ」


:え! 今のどうやってあてた!?

:神枠確定。いや、いつも神枠ではあるが。

:チートか? チートなんだな!?

:いや、本当に色眼鏡して見なくても上手いんだよな……。

:あ、思わず私の千円を投げてしまった。待って、手取り少ないのに。


「いやー今のはまぐれだよ。……というか、手取り少ないネキは強く生きて」


 なんていう風に、コメントも盛り上がりを見せてくれて。

 それと同時に。私のキャラ変っぷりに引く視聴者が続出なわけだけど。

 金目的にVをやるっているのなら、なるべく視聴者が離れる様な行為はするべきじゃ無いって分かってる……。でも、まぁ、たまには楽しまなきゃとも思うから。


「よーし。このまま優勝までいくぞー」


 快進撃は続く。

 一人。また一人。

 最早、見慣れた光景ではあるけど。

 それでも、私も楽しいし。視聴者も楽しんでくれる。

 嫌なことなんて、とっくに頭から離れていた。


 そしていよいよ、敵は残り一人。

 狭くなったフィールドは、行動できる場所が限られる。

 マップを見ながら、敵が隠れていそうな場所を吟味し、


「そこでしょ」


 高原に不自然に生えた一本の木の裏に、私はグレネードを投擲する。

 ひょこっと現れた身体を見逃すわけもなく。

 私はすぐさまライフルを構え──。


「っしゃ」


 画面に『優勝』の二文字がデカデカと表示された。


:おおおおぉぉおお!!

:キターーーー!

:8888888888

:流石すぎる。

:あぁ、1000円が勝手に! 手取り少ないのに……。


「みんなありがとー! ……それと、手取り少ないネキは強く生きて」


 満足感に「いやー楽しかった」と呟く。

 身体が満たされ、天を仰ぎ溜息を吐く。

 なんのために、この生配信を始めたのかすらも忘れてしまって。「よし」もう一戦するか、と心の中で意気込む。

 けれど。丁度その時──


 ──ピロリン♪


 私のスマホが音を立てる。

 ほぼ無意識的にスマホに手を伸ばし、中を見る。

 ラインが届いていたのかと思うと同時に、その相手と文章に目をやって──。


『お姉ちゃん。生配信中にごめんね』


 心臓がどきりと鳴った。

 悪いことをしていたのが、バレた時のように。

 思わず私は押し黙る。夢咲葵のアバターも不自然にパタリと動きを止めた。

 横目に見えるコメント欄の流れが、少しだけ勢いを増している。


『さっきはどうしたの? 私、今から恵ちゃんとお家に向かうけど。また、色々とお話聞かせてね』


 読み終えて、私の思考すらも止まりかけた。

 あぁ。そうだ。完全に忘れていた。

 この存在を意識した途端だ。

 また。私の中が荒れる。おかしくなる。

 そして最終的に、何も分からなくなって。

 恵にも唯に対してもモヤモヤとした感情を抱いてしまう。


「えと。今日の配信は終わりー。また明日もよろしくねー」


 繕った不自然な声をマイクに向け、コメントにも目を向けずに配信を終了する。

 荒くなる息を抑えながら、届いたラインを読み返す。

 今日は。他のVとのコラボがあるはずなのに。悠長に人を家にあげていいのか。

 何がしたいのか。二人で何をするのか。私に対する意地悪なのか。


 分からない。何にも分からない。

 ほら、やっぱりここに行き着く。


 私の心の奥底で、答えはとっくに出ているのに。

 それに気付かないまま、視界を狭め続けて。

 私は。どうしたいんだろう。

 分からない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] え、続きがすごく気になります!!次回の2人がどんな会話をするのか待ち遠しいですね❀.(*´▽`*)❀.
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ