7-2 審判
◇
身を清め、清潔な服に着替えてリビング――というより、ラウンジというべきだろうか。
そちらへ向かうと、全員が待ちかねた様子で出迎えてくれた。
跳ね上がるように椅子から立ち、駆け寄ろうとしてくるレティシャを、母がやさしく制している。
それを見るに、やはり入浴中に聞かされたことは事実らしい。
ともあれ、まずはやるべきことをやってからだ。
「――このたびは、大変なご心配をおかけし、申し訳ありませんでした」
全員を見回し、両手をそろえ、ミーアは最敬礼で深々と頭を下げる。
「勝手な判断をくだし、かえって騒ぎを大きくしてしまったことも、まことに申し訳なく思っております……私が浅慮でした」
こればかりは言い訳のしようもない事実、粛々と謝罪するほかない。
妹をかばおうとしたはずが、結果は完全に裏目だ。
「責任はすべて、私にあります。その私が申し上げるのも、僭越かとは思いますが――レティシャの処遇については、どうかご容赦を願います」
その件については、メイドたちからも聞かされている。
男爵や、伯爵夫妻が部屋や医者の手配をしている間、夫人からたっぷりとお叱りを受けたとのことだ。
それを彼女は神妙な態度で受け止め、これまでの非を詫びたという。
自分に、それらを償う機会を与えてほしい――と。
…
(レティシャがなにを求めているかはわからないが、それでも――)
なんらかの重い罰を、自ら受けようとしているなら、それは止めなければ。
ミーアは頭を上げ、周囲の大人たちを見回す。
どこか、おもしろがっているような雰囲気があるのは、気のせいだろうか。
「ふむ――なるほどな、ミーアの言い分はよくわかった」
そう先陣を切ったのは、皆と同じく愉快そうな笑みを浮かべる伯爵だ。
「ただ、一昨夜のことはレティからも聞いている。とても、ミーアひとりに責任があるとは、思えんかったが?」
「……たしかに、レティシャの行動も褒められたものではありません」
夜間にひとりで林を抜け、湖に向かうなど、危険を通り越して愚かだ。
野犬の襲撃はもちろん、湖に落ちてでもいれば、誰にも助けられない。
それを考慮しなかったのであれば浅慮であるし、考慮した上で行動したというなら、あまりに軽率だ。
「ただ私は、それを指摘することができました。湖からの帰り際、彼女の不審な行動を目にした――その時点で、両親に伝えておくべきだったかと」
「それをしなかった責任が、ミーアにあると?」
「そのとおりです。彼女には知られたくない理由があるのだろうと、私も察しましたので……最終的に、独断で情報を伏せておりました」
なるほど――と小さく嘆息し、伯爵の瞳が鋭い眼光を放つ。
「では……その理由について、話すことはできるかな? それを聞けば我々としても、情状酌量の余地があるのだが」
「それは……申し訳ありません、私の口からは――」
幼い少女の、愛らしい乙女心をつまびらかにするのは、さすがに気がとがめた。
それに説明をすれば、リュナンが気に病むことにもなりかねない。
彼には頼みごとで負担をかけてしまっているし、今回の件については、どちらかといえば傍観者の立場でいてもらいたかった。
そんな思いから言葉を濁していると、伯爵の視線はミーアの肩越しに、背後へ向けられる。
「では――レティの口からであれば、それは説明できるかな?」
「っ……伯父さま、それは――」
「はい、もちろんです。よろこんでご説明します、伯父さま」
ミーアは慌ててさえぎろうとするが、それを制する即答が、背後から響いた。
「レティシャ、なにを言って――」
「いいんです、お義姉さま……」
目を伏せながら、彼女はそう健気に声を震わせ――。
「……すでに話してしまったことですから、一度も二度も変わりません」
クスリと、コケティッシュに微笑んだ。
「…………なにを言っている?」
「お義姉さまが眠っている昨日のうちに、私はすべてお話しました。先ほど伯父さまも、そうおっしゃいましたよね?」
そういえば、そんなことを言われた気はするが――。
「……あの、伯父さま」
「うむ、まぁ……そういうことだな」
「知っていて、おからかいになったのですかっ!?」
たまらずミーアが声を荒らげた瞬間、大人たちの顔がいっせいに破顔する。
「はははっ……いやいや、違うぞミーア。冷静になってくれんか」
「なにが違うのですかっ!」
「つまりだ――審判をするにしても、双方の認識に食い違いがあってはいかんだろう? それをすり合わせるため、こうした場を設けたわけだ」
「欺瞞ですっ!」
これはもしや、メイドたちもグルだったのではないだろうか。
それを確認しようにも、主たちの集うこの場に、彼女たちはいない。
むぅ――とうなるように声をもらし、周囲を見ているうちに、隣にはレティシャが立っていた。
「お義姉さま……私は愚かな妹です。その愚かさの代償を払い、更生する機会を……どうか、お与えくださいませんか?」
「――きみは愚かではないよ、レティシャ」
だから、そんな必要はない――。
そう言ってあげたくなる気持ちを、グッとこらえる。
あれほど毛嫌いしていた姉のため、そのように身を切ろうとする彼女の決意を、自分の甘さで台無しにはできない。
なにも言えなくなったミーアは、ただ黙って、やさしく彼女の頭を撫でる。
「……ありがとうございます、お義姉さま。そのように言っていただけて、うれしく思います」
頬を桃色に染め、彼女ははにかんだ笑みで、そう答えた。




