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思ひ出の、奇妙なかくれんぼ。

作者: sazanami

からっと晴れて日の光が肌を刺した昼が去り、心持ちひんやりとした夜風が窓から足を踏み入れてくる。

久しぶりに酒を少し口にして、二十歳ほどの青年・・・赤木は、おもむろに話題を出した。もともと酒に強い方ではない。ふわふわした心地が体の内をくゆらせている。


「千崎、おまえはさぁ、奇妙な体験ってやつをしたことあるか?」


千崎と呼ばれた青年は、問いかけには答えず、ほんの少し眉間にしわを寄せた。

この、整った顔立ちだが始終無表情な友人が話に反応しないのはいつものことなので、赤木はいつも通り一方的に話し始めた。

「俺があれ(・・)を体験したのは、たしか、八歳くらいの時かな。あの日も、今日みたいにカラッと晴れた夏の日だった・・・」



                     ***         



迎え火の熱と、くすぶる煙の香ばしく鼻につく匂いを感じると、お盆がきたんだなぁと思う。

「この煙に乗って、あの世のご先祖様が帰ってくるんだよ」

ちろちろと燃える藁を見つめて手を合わせながら、親父は毎年そう言った。

「それといっしょに、道にまよったあの世の化け物まで煙にのってやって来たりしてね」

妖怪とかが好きな末の弟が、シシシと冗談交じりに言ったのは、あの日だ。


「ミッちゃんがオニね!」

ミッちゃんが三つ編みの黒髪をゆらして頷くと、俺たちは一斉に駆け出した。草鞋が乾いた土を巻き上げる。

町の子たちは、ベーゴマやら飛行機の玩具(おもちゃ)やらで遊ぶらしいけど、俺の生まれた村は金にあまり余裕がない家がほとんどだ。

それで、その頃流行ってたのは、かくれんぼ。


あの日は、いつもの面子に加えて、村はずれの家に住んでいるという男の子も一緒にかくれんぼをした。

その子含めて十五人(・・・)という大人数だ。


昼下がりの太陽が肌を刺した。蝉が異様にうるさかった。田んぼの稲がザワザワと青く揺れていた。

家の裏にある大きな梅の木と藪との間に、俺は末の弟と隠れて息をひそめた。ここなら涼しいし、見つかりにくいのだ。

ガサガサッ

藪が揺れる。ぬっと顔を出したのは、今日参加した、村はずれの男の子だった。

真っ白な浴衣と、薄い鼠色の帯。下手すりゃ死装束(しにしょうぞく)みたいになりそうな格好で、こっちをのぞき込んでいた。


その眼力。気迫。俺たちを見つめるようでいて、何も映っていない瞳。


胸騒ぎってのが本当にあるものだと身をもって知ったのは、間違いなくあの時だ。

腹の、鳩尾(みぞおち)のあたりから胸にかけて、むわむわっとした嫌な感じが内側から湧き出て、いやな臭いを発するだけで燃えきらぬ炭みたいにくすぶった。


あの時はなかなか気付けなかったけれど、後々ぼんやりと思い出したことがある。蝉の鳴き声だ。

あの時はまだ肌も焼け付く昼下がりだったのに、いつのまにかヒグラシが鳴いていた。あいつらはいつも、夕方に鳴くのに。その前に他の蝉たちが鳴いていたのも、仲間に異変を知らせる見張り役みたいな、異様な鳴き方だった。あの時は、何か、おかしかったのだ。


<・・・西のお山へいく道、知らんかの?>

俺たちを見つめたまま、その子は問うた。

<西のお山へいきたいんじゃが、道がわからなくなってしもうて。知らんかの?>


なぜか、いやに生ぬるい汗が背中を撫でていった。考えるより先に、口が動いた。

「・・・さぁ、知らねぇよ。俺たち、あっちの方は行ったことないし」

実際、ほとんど行った覚えがないので嘘ではない。俺は、知らず知らずのうちに末の弟を背中へ庇っていた。

<ふぅん>

男の子は不服そうに首を傾けて眉をひそめた。うって変わって無垢な表情に戻る。

<そうか>

「ミッちゃんなら、しってるかもねぇ!ミッちゃん、お母さんが山むこうの西市場に行くのについてってるもん。ね、寅太兄ちゃん」

幼く高い声がして、背中に柔らかい重みが触れた。末の弟・辰巳の声は心なしか震えていた。辰巳も、この子の変な気配を察したのだろうか。それでも、なんとか力になりたいと、純真な顔でその子を見つめてた。

俺は嫌な感じが胸の中でくすぶり続けるのを感じながら、そのまま藪の中に隠れた男の子の方を息をひそめて見つめ続けた。


<次は、僕にオニをやらせてちょうだい>

一回目のかくれんぼが終わると、男の子は無邪気なふうに皆に頼んだ。一回目のときは、ほかの皆は男の子に何も訊かれなかったのだろうか。

「いいよ!じゃあ、十まで数えてね」

いちばん年長の子がうなずいて、二回目のかくれんぼが始まった・・・



<西のお山へいく道、知らんかの?>

目の前に、何も映っていない瞳があった。


隠れたときから、異様だった。夕暮れになるのが早すぎると、近くに隠れている子たちと囁きあったものだ。魔物に連れていかれるから夕暮れ時にかくれんぼや鬼ごっこをしてはいけないよ、と大人たちに言い聞かせられていたから、かくれんぼを夕方までに終わらせるように皆いつも努めている。でも、あの時は、いつの間にか朱色の太陽が山際を照らし、空を蜜柑色と薄紫色に染めていた。

村には、俺たち以外の人の気配が感じられなかった。


「・・・知らねぇって、言ってんだろ」

男の子が発する全身を押しつぶされそうなほどの圧に、俺は、胸に庇った辰巳に支えられるようにして声を振り絞った。

「ここらの子はほとんど知らねぇから、大人に訊け。それから、隠れてる子を見つけたら『○○くん、みいつけた!』って言うもんだぞ」

カナカナカナカナ.....と鳴くヒグラシの声がいっそう高くなった、気がした。


<・・・大人は、なぁ>

男の子はわずかに眉根を寄せて首を傾けると、俺と辰巳をドンッと突き飛ばした。意外なほどの力に胸がつまり、鼻の奥がツゥンときな臭くなって痛かった。

<やはり、ミッちゃんとかいう女童にするか>

その異様な気配を発して煙のように消えていく後ろ姿が、暗くなっていく視界に垣間見えた。



                       **



「・・・んで、俺たちは十三人全員、村の真ん中でぶっ倒れてるのを発見されたわけ。まだ日も高かったから、暑さにでもやられたんだろうと。・・・どうだ、ちったぁ聞ける話だっただろ?ドキドキしたか?」


虫たちの静かな歌声が耳を心地よく撫でる。

千崎は、整った顔を少し歪めて、眉にしわを寄せた。酔っているのか、色白のなめらかな頬が桜色に染まっている。

「千崎、そういやさ、奇妙な事件ってやつに巻き込まれるのって、子供が多くないか?大人より子供のほうが、魂が不安定だからとか?」

「んな事、知るか」

「お、やっと喋ったな」

「赤木、その十・・・」

蟻の呟きのような聞き取りにくい声で千崎が何か言いかけたのに気付かず、赤木はしみじみと言った。


「ま、そんな、ちょっと変な出来事に巻き込まれた子供もさ、こうやってちゃんと生きてるってワケで。そんな騒ぎ立てることじゃないかもしれんな。

俺たちの場合も、ちゃんと十三人全員(・・・・・)が無事だったんだし」

ここまで読んで下さりありがとうございました。











因みに、この話はこれだけでも読めるように書きましたが、私が現在書いている連載作品の外伝的な作品にもなっています(独り言)。






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